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    もがみ

    @mogamidesu

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    もがみ

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    本編から十年後くらいの2人がカインの実家に行く話です。

    #オーカイ

    ミルクセーキ※注意:カイン母がガッツリでてきます。その他、改造設定が多めなのでご注意ください。



    「もしかして騎士様って馬鹿なの?」
    オーエンは図書室の長机に頬をベターと付け、退屈そうに欠伸をした。何十万冊の本から一冊の本をあてもなく探すカインをかれこれ一時間ほど観察している。何千年と生きるオーエンからすると、カインの手と足に頼る捜索方法は要領悪く思えた。

    「双子先生がいないから、一冊、一冊確認するしかないだろ」
    カインは本から目を離すことなく答えた。
    「……僕、飽きたんだけど」
    そう不貞腐れながらも、オーエンはこの場から離れようとしなかった。いわゆる、因縁の仲といわれる二人だか、最近は何でもない時間が増えてきた。忙しなく動くカインとただいるだけのオーエン。オーエンが思い出したようにイタズラをしかけても、二人の空気感が特別に悪くなることもなかった。

    「何もしないことに飽きたなら、手伝ってくれてもいいんだぞ」
    「僕が手伝うわけがないでしょ」
    「……あっ!」
    カインの突拍子ない声が図書室に響く。
    「なに、面白い物でも見つけた?死体喰のネズミ?魂を奪う魔導書?」
    オーエンがニヤニヤと口を歪めながら尋ねる。オーエンは困っているカインが好きだった。例え、オーエンがその顔を好意的に評しても、誰も引っ掛かりを覚えない。それは、彼自身も同じだった。
    「そうじゃない。唯の本だ!」
    「……なんだよ、間際らしい」
    オーエンは期待外れな回答に、つまならそうに肩を落とした。
    「それより、聞いてくれ!この本を見て、思い出したんだ!」
    対照的にカインは興奮気味に肩を上げ、長机まで駆け寄ってきた。
    「ふーん、【アミュレットと魔法使い】ねぇ」
    オーエンはタイトルを横目で確認すると、態と興味無さそうに呟いた。
    「実家に昔遊んだチェス駒があるんだ。お前さえよければ貰ってくれないか?」
    「まぁ、騎士様がそこまで言うなら、貰ってあげてもいいよ」
    しょうがないと言った口調だが、その実、オーエンの内心は花弁が舞い、ファンファーレが響き、草木、動物、人、全てが踊り狂っていた。
    「よし、決まりだな!今すぐ出発しよう!」
    「……は?何処に?」
    突拍子のない言葉が、オーエンをパレードから現実に引き戻す。 オーエンはキョトンとした顔でカインを見上げた。
    「何処って、俺の実家に決まってるだろ。せっかくだから、俺の両親も紹介するよ!」
    カインはあっけらかんと答え、箒をよびだした。そして、「さぁ、行こう!」と言わんばかりに、オーエンの腕を掴んだ。

    「おまえ……探してる本はどうするのさ」
    そう言ったオーエンの表情はすっかり抜け落ちていた。
    「あと数日すれば、双子先生がバカンスから帰ってくる。その時に場所を聞くよ」
    「でも、……いいの?僕を実家に連れて行っら、お前の親の眼玉を奪うかもよ」
    「おまえはそんな事しないさ。あっ、でも、この時間だと母親しかいないな。それでもいいか?」
    「馬鹿じゃないの」
    オーエンはそう吐き捨てると、カインのブーツの先を見た。
    「……息子の眼玉を奪った魔法使いと生みの親を合わせて、何がしたいの?親不孝者になりたいなら、今すぐミスラに喧嘩でも売ってこいよ」
    オーエンはカインが親を紹介するつもりでいることに困惑していた。勇敢で温かい男が卑怯で冷たい男のように思えてしまう。カインがそんな奴ではないと、オーエンが一番分かっていた。だからこそ、オーエンは悲しくなった。

    「ああ、そういうことか。俺の親なら大丈夫さ。おまえを歓迎するよ!それに、今では信頼できる仲間だと伝えない方がずっと親不孝者だろ?」
    「……」
    カインがそう説得しても、やはり、オーエンは頷く気になれなかった。

    「出来れば、俺はおまえと帰りたい」
    「……」
    「おまえは俺が育った家に行きたくないのか?」
    「……」
    「……俺が両親のどっちに似ているのか気にならないのか?」
    「…………ッ」
    その問いかけに、オーエンの目線がブーツから顔に戻る。

    人間の寿命は短い。もしかしたら────。その気持ちがオーエンの欲を一気に掻き立てた。
    オーエンは知りたかった。
    カインがどんな家で過ごしたのか。どんな子供だったのか。どんなふうに成長したのか。

    その思いが悲しい気持ちを瞬間的に上回る。

    「……いく」
    気づけば、オーエンはそう口にしていた。

    「……ッ!!!!ありがとう、オーエン!!」
    オーエンの了承の返事に、カインは踊り出しそうな勢いで両手を掴み取った。
    「ちょっと……!」
    引き上げられたオーエンは、慌てて椅子から立ち上がった。文句を言おうと顔をあげれば、間近な距離にカインの顔があった。お気に入りの甘い金色に、胸が苦しくなる笑顔。オーエンは思わず、目を逸らした。体の中心が熱くなるのを自覚したからだ。


    ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪


    空を飛んでいる時、オーエンは冒険に出ているような胸の高ぶりを覚えていた。しかし、目的地を目の前にした瞬間、急に自信をなくし帰りたくなった。
    カインの実家は栄光の街の外れにある小さな庭付きの一軒家だった。庭には様々な植物が植えられており、辺りには沢山の生き物の気配がした。この辺を住処にする精霊たちは、穏やかで、健康的で、活気に溢れている。ハッピーエンドのエピローグのような暖かい空気感に、オーエンは疎外感を覚えた。

    (……来なきゃよかった)
    オーエンはあの時の選択を後悔していた。暗い影が刻々とオーエンの心を蝕む。地面に靴が張り付き、一歩も前へ進めなかった。オーエンは前を進む赤髪に「待って」も「帰る」も言えずにいた。

    「そんな所に突っ立って、どうしたんだ?」
    気配がないことに気付いたカインが踵を返す。カインはオーエンに駆け寄り、制帽に隠れた顔を覗き込もうとした。

    しかし、その前に「あら、カインじゃないの!」と一際明るい女性の声が庭先から聞こえた。

    「……」
    俯いていたオーエンの視線は自然と女性の方へ向かう。庭先には、カインより少し明るい赤毛を持つ女性が立っていた。
    〈 僕はわるい魔法使い、オーエン〉
    女性の姿を確認した瞬間、オーエンは頭の中で無意識的にそう繰り返した。気弱なオーエンは姿を消し、変わりに強気なオーエンが躍り出る。オーエンはもう怖くなかった。

    「母さん!久しぶりだな!体調に変わりはないか?」
    カインはパッと体を直し、姿が見えない母親に向かって手を挙げた。
    「ええ、お陰様で!もう元気すぎて困っちゃうくらい」
    「そうか、それならよかったよ」
    「まぁ!そちらの方はお客さん?」
    女性がオーエンに気づき声をかける。
    「あぁ!そうなんだ!コイツは──」
    「やぁ、初めまして」
    オーエンはカインからの紹介を遮って、女性へ挨拶をした。つい先程まで一歩も動かなかった足がゲートの前までオーエンを運ぶ。オーエンは女性に向かってニコリと綺麗に微笑むと、意地悪に口先を吊り上げ不気味な表情を浮かべた。

    「僕は北の魔法使いのオーエン。貴方の息子の目玉を奪ったわるい魔法使いさ」
    オーエンがそう言い放った瞬間、場の空気がガラリと変わった。張り詰めた空気が場を支配し、北の厳しい冬を思わせる冷たい雰囲気が漂った。

    「あー、母さん。コイツは同じ賢者の魔法使いのオーエンだ。確かに目玉をとられたり……まぁ、他にも色々とあったが、今では信頼できる仲間で────」
    カインがオーエンの肩を掴み、制するように前へ出る。しかし、オーエンは少しも勢いを落とさず、カインの言葉を再び遮った。
    「ねぇ、知ってる?騎士様は、僕のせいで騎士団長を辞めさせられたんだ」
    色違いの双眼がグワッと見開かれる。その狂気的な表情は、見る者の不安を一気に煽った。
    「隠し通せることじゃない。何れ辞めさせられたさ」
    しかし、すかさずカインがフォローする。
    「……」
    オーエンはカインを無言でにらんだ。カインはそれに目を逸らさないことで答えた。
    このやり取りが皮切りとなり、二人の攻防戦が始まった。

    「僕は騎士様のことを三回も殺しかけたよ」
    「でも、その三倍以上命を助けられている」

    「僕は魔法舎にある騎士様の部屋の窓を両手じゃ数え切れないほど割ったよ」
    「そう言っているが、普段はちゃんとドアから入ってくる」

    「それに、僕は騎士様の邪魔をして、困った顔をみるのが好きだよ」
    「その後、何やかんや、もっと良くなるアドバイスをしてくれるんだ。助かってるよ」

    「……」
    オーエンは再びカインを鋭く睨んだ。オーエンがいくらわるい魔法使いであろうとしても、カインがそれを許さない。まるで、本当は良い奴なんだ、と言われているようで気分が悪かった。

    「……それだけじゃない、今日は大好物のベーコンを勝手に食べてやった」
    オーエンは悪事のネタが尽きる中、苦し紛れに悪戯の話をした。
    「なっ!やっぱり、今朝のベーコンはお前の仕業だったのか!?」
    しかし、意外にもこの話が当たった。カインは眉を釣り上げ、オーエンに対して怒りの声を上げた。オーエンがその反応に嬉々として口先をつり上げたのと同時に、「ッ……あはははは!!」と爆発したような大きな笑い声が庭に響きわたった。

    オーエンとカインはキョトンとした顔で目の前の人間を見た。女性はお腹を抱え、文字通り大爆笑していた。不穏な空気はとっくに立ち退き、穏やかで、健康的で、活気に溢れた雰囲気が場に漂う。

    (どうして笑えるの?僕が怖くないの?憎くないの?)
    オーエンは目に涙を浮かべ笑う女性を呆然と見つめた。気弱なオーエンは拒絶を恐れ、強気なオーエンはその逆を恐れていた。予想外の展開に、オーエンは黙ることしかできなかった。

    「もう、ヤダ!あなたち!笑劇じゃないんだから!」
    女性が息絶え絶えになりながら言う。そして、ひとしきり笑った後、「オーエン、あなたを歓迎するわ」と向日葵のような眩しい顔で微笑んだ。


    こうして、オーエンはナイトレイ家に歓迎された。

    オーエンはカインに誘導されるままに、ゲートを抜け、玄関を通り、ダイニングキッチンに入室した。その短い道中の間、オーエンは何とか悪意と恐怖の糸口を見つけようと、周囲を観察していた。場所場所に思い出の品が幾つも飾られている。しかし、それらから漂うのは暖かな気配のみで、オーエンが求めるものではなかった。オーエンは「つまらない」と思った。それから、「よく分からない」とも。

    「昔、俺が遊んでいたチェス駒を取りに来たんだ。どこに置いてある?」
    カインは本題を話すと、買い替えたばかりの椅子(先代は父親が壊したらしい)を物珍しそうに観察した。
    「屋根裏部屋に保管してあるわ。でも、唯のチェス駒よ。一体何に使うの?」
    母親が不思議そうに首を傾げる。彼女の言う通り何の変哲もない安物だが、そのチェス駒にはカインの思い出がつまっていた。
    「チェス駒はオーエンのアミュレットなんだ。だから、コイツにあげようと思って」
    カインがそう答えると、母親は驚いたような顔をした。しかし、直ぐに表情を整え「幾らでも持っていってちょうだい」と納得したように頷いた。

    「じゃ、探してくるよ」
    カインは椅子の笠木を軽く叩くと、階段を登ろうとした。流れで、オーエンも後を追おうとする。
    「ちょっと待て!おまえはお客さんだから、ゆっくりしてろよ」
    しかし、カインはそれを良しとしなかった。
    「そうよ。ちょうど美味しいスイートポテトがあるの。ほら、立っていないで座ってちょうだい」
    母親もオーエンをもてなす姿勢を崩そうとしなかった。

    「……」
    オーエンは大人しく椅子に座った。
    親子を納得させるためではなく、この家をめちゃくちゃにするためだった。先ずは、この家の美味しいお菓子を全部独り占めしてやろう、と思考を巡らせる。
    オーエンはこの状況に納得できなかった。自分は許されてはないけない、と信じていた。

    「あ、そうだ!ミルクセーキを作ってくれないか?」
    カインはそんなオーエンの企みに気づくこともなく、母親にそう願い出た。
    「ええ、構わないわ。でも、ミルクセーキでいいの?ココアも紅茶もあるわよ」
    「前に母さんのミルクセーキをオーエンに作ったことがあるんだ。だから、本物を飲ませてやりたくてさ」
    母親の疑問に、カインは少し照れ臭そうに笑いながら答えた。
    「まぁ、そういうことね。オーエン、それでいいかしら?」
    「……いいよ」
    少し間を開けてオーエンが答える。
    甘くて、暖かくて、フワフワなミルクセーキ。それはカインが作ってくれた思い出の味だった。あの時の記憶が蘇り、ジワジワとオーエンを責める。しかし、それでもオーエンは自分であり続けようとするしかなかった。


    ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪


    カインが屋根裏部屋にチェス駒を探しに行くと、オーエンと母親の二人きりになった。
    母親はミルクセーキを作りながら、オーエンに賢者の魔法使いのことを色々と尋ねた。一方、オーエンは出されたお菓子を食べながら、子供のような的を得ない返答をしていた。

    (……舌が馬鹿になった?)
    オーエンは食べかけのスイートポテトを忌まわしげに見た。砂糖が入っていないような味気無さに眉を顰める。オーエンは美味しい筈のお菓子の味が分からなくなっていた。

    (今日のお昼までは普通だった……もしかして、呪い?いや、有り得ない)
    考えを巡らせても、不可解な現象の謎は深まるばかりだった。甘さが足りないのかと思い、大量の蜂蜜をかける。しかし、施行はオーエンの期待を裏切った。

    (……湿った土を食べてるみたい)
    頭で食べろと命令しても、体が受け付けない。オーエンは何もかも上手くいかない気がした。心に染み付いた暗い影がどんどん大きくなる。オーエンは次第に明確な怒りを感じるようになった。

    「そろそろ、このつまらない会話をやめて、本題に入れば?」
    オーエンは苛立った声色で言った。
    母親が惚けた様子で「あら、何かしら」と返したとたん「偽善者ぶるなよ。僕を罵倒するなり、殴るなりすればいいだろ」と余裕なく返す。
    「そんな事しても、あの子のためにならないわ」
    対照的に母親は何でもない様子で答えた。
    「あなたに怒りを感じていない、と言ったら嘘になるわ。私の息子になんてことしてくれたのよ!ってね。でもね、私がここでその怒りをぶつけたら、それは私の為の怒りにしかならないわ。カインは大切な仲間として、あなたを連れてきたの。私はその意味をちゃんと尊重したい」
    そう話終えると、振り返りオーエンを見た。その視線に敵意はなく。むしろ、子供を見守るような慈しみを連想させた。
    「……ふぅん」
    オーエンはこの時はじめて、女性の瞳がカインと同じ色をしていることに気がついた。

    自分は許されたわけではなかった。只、カインがそれを望んだから迎えられたのだ。

    オーエンはやっと欲しい答えが貰えた気がした。そして、その答えのあり方は、オーエンがよく知る勇敢で温かい男によく似ているような気がした。

    黒に白を垂らすように二つの色がマーブルを描き混ざっていく。

    オーエンは、もう一度、スイートポテトにかぶりついた。蜂蜜の焼けるよう甘味とさつま芋の優しい甘味が口いっぱいに広がる。オーエンの企みは思考から追いやられ、変わりに「美味いな!」と笑うカインの顔が脳裏に浮かんだ。

    その時、タンタンと軽快な階上から響いた。カインの帰りの知らせに、オーエンは左目に触れ、母親は「あら、おかえりなさい」と明るい声で迎えた。

    「ただいま!」
    カインは機嫌よく挨拶を返すと、両手に抱えた木箱をテーブルに乗せた。ペンキで「Cain ②」と書かれた木箱からは剣の玩具が飛び出ている。オーエンは「②」の文字をジッと見た。一瞬、カインが二人いるのかと思ったからだ。

    「二人ともミルクセーキが出来たわよ。シュガーはお好みでいれてちょうだい」
    母親はトレイをテーブルに置くと、一番大きいマグカップをオーエンの前に置いた。
    「シュガーは俺が作るよ」
    カインはそう申し出ると、掌に溢れんばかりのシュガーを生成した。
    「母さんは三つでいいか?」
    「ええ、お願い」
    母親のマグカップに綺麗な星型をしたシュガーが三つ落ちる。カインのマグカップには二つ。オーエンのマグカップには残り全てのシュガーが。
    「まぁ!そんなに入れて大丈夫なの?」
    「オーエンは大の甘党なんだ。な?」
    カインに同意を求められ、オーエンは少し照れくさそうに頷いた。自分を知られるのが、妙にくすぐったい。それを誤魔化すように急いでカップに口をつけた。
    「……トロトロしてる」
    「えぇ、卵が少しだけ固まっているの。カインが作ったミルクセーキとは違ったかしら?」
    「フワフワしてた」
    「フワフワ……。カイン、あんた強火で沸騰させたでしょ」
    母親はフワフワの原因にピンときたのか、問い詰めるような口調で言った。対するカインは「え……?どうだったかな」と惚けるような口調で答えた。
    「ミルクセーキは泡立て器でかき混ぜながら、弱火で火にかけるって教えたはずよ」
    「弱火じゃなかった。あと、木べらだった」
    オーエンはそう告げると、カインを見た。それは至極楽しそうに、邪気も嫌味もない、むき出しの笑顔だった。
    「お、オーエン!?」
    「まったく。あんたは昔から大雑把なんだから」
    母親は困ったようにため息をつき、ジト目でカインをみた。
    「はは……次からは気おつけるよ」
    カインは恥ずかしそうに頬を掻いた。何歳になっても、母親に小言を言われる姿は見られたいものではなかった。
    「でも、おいしかった」
    「えっ……」
    カインは目を丸くしてオーエンをみた。オーエンが素直に"おいしい"と評することは、とても珍しいことだった。カインの頬がジワジワと赤く染まる。
    「えっ……」
    オーエンもカインの顔を見て、吊られたように赤くなった。今更、素直な言葉が出たことに気づき、いたたまれない気持ちになる。自分がとんでもない顔をしていると分かっていても、その赤く色づいた表情に夢中になり、目を反らすことが出来なかった。

    「もう、やだ。あなたたち!気を遣わずに、初めから言ってくれたら良かったのに」
    そんな二人を見て、母親は何を勘違いしたのかそう言った。




    ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

    〜余談:ある寒い夜の話〜

    眠れない夜。オーエンは導かれるようにキッチンへ向かった。すると「珍しいな、おまえも飲むか?」と思いもよらない人物、カインがオーエンを迎えた。

    「のむ」
    オーエンはコンロの前に立つカインを見ると、直ぐに答えた。
    「そうか!ちょうど作り過ぎて困っていたんだ」
    カインは嬉しそうに笑った。
    「ふーん、よかったね」
    オーエンはその存在自体がお日様みたいだと思った。陽だまりに出向く猫のように、カインの隣まで歩み寄る。隣にピッタリ立てば、コンロの火とカインの体温が冷えたオーエンの体を温めた。

    「何をつくってるの?」
    オーエンは鍋の中身を覗き込んだ。中には優しい色合いをした液体が入っている。カインが木ベラを動かせば、それらは大きな波を作って揺れた。

    「ミルクセーキだ」
    カインは鍋の中身に夢中なオーエンを盗み見て笑った。
    「なにそれ?」
    「牛乳に卵をいれた飲み物だ」
    「フーン、甘いの?」
    「甘いぞ。最後にバニラビーンズとシュガーを入れるんだ」
    その回答に、自然とオーエンの頬がゆるんだ。甘いものとカインに目がないオーエンにとって、それは最高のコラボレーションだった。

    「蜂蜜は?」
    「あ〜、いれたら美味いかもな!けど、俺の家はいれてなかったよ」
    「騎士様の家の飲み物なの?」
    「いや、そういう訳ではないが、母さんがよく作ってくれたんだ。だから、最後にシュガーを入れるのは俺の仕事だった。今考えてみると、俺のためにシュガーだけ入れてたのかもな」
    「……ふぅん」
    オーエンはつまらなそうに相槌を打った。オーエンには分からなかった。思い出の味もそれを再現する意味も、それを楽しそうに話す心理も。

    「おまえには無いのか?そういうの」
    「あるわけないでしょ。ずっと、一人ぼっちな僕にさ」
    オーエンはその問いかけに自傷気味に笑った。そして、態とカインを傷付けようとした。
    「ならば、今、作ればいいじゃないか」
    しかし、カインはオーエンの思惑を物ともせず、快活にそう答えてみせた。カインはコンロの火を止めると、そこにバニラビーンズを数滴たらした。
    「この先何十年何百年後に辛くなった時、こうやって思い出の味を再現すれば、その人の事やその時の事を思い出して乗り切れるだろう?」
    そう言葉を続けながら、カップに鍋の中身を注ぐ。そして、量が多い方をオーエンに手渡した。

    「………」
    オーエンはそれを素直に受け取った。カップの熱がオーエンの冷えた手をジンジンと温める。中を覗き込めば、卵がゼリーみたいに固まっていた。

    「グラディアス・プロセーラ」
    カインは呪文を唱えると、その手の中にシュガーを出現させ、オーエンのカップに全て落とした。

    「……不細工なシュガー」
    オーエンはシュガーがミルクセーキに溶けていく様を眺めながら、そう悪態をついた。しかし、口角は緩やかな弧をえがいていた。
    「なっ、うるさいなぁ」
    「クーレ・メミニ」
    今度はオーエンが呪文を唱え、その手にシュガーを出現させた。そして、まだ、シュガーが入っていないカインのカップへ落とした。

    「僕のシュガーは特別だよ」
    オーエンは自分のカップに口を付け「フワフワだ」と呟いた。
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    Replies from the creator

    もがみ

    DONEオーカイwebオンリー開催ありがとうございます!! カインくんお誕生日おめでとう!!
    お誕生日に関係ないお話でごめんね。夏生まれが、8月生まれがとっても似合うと思っています

    以下、注意書き
    ・第2部20章のセリフを一部引用しています
    ・基本、二人が殴りあっています
    ・本編から数年後の世界で、上手く悪意を取り込めなくなったオーエンと混乱するカインのお話です
    何時でも、捨てられる筈だった※注意書き必読でお願いします


    北の魔女は言う。

    私たち北の魔法使いは強く、自由に、生きるためには、無くてはならないものを、持ってはいけない。

    この世で最も孤独な魂。
    それ故に、無敵なのだ。

    ​───────​───────
    ​───────

    「誰だ」
    真夜中に、カインは文字通り飛び起きた。
    眠りの中で感じ取った悪意に引きずりだされ、掛け布団を盾の代わりに構える。寝台の上に小さくしゃがみ、右手には魔道具の剣を握っていた。

    「って……オーエン。どうしたんだ、こんな夜中に?」
    視界が暗順応しはじめると、そこにぼんやりとした白い影が浮かぶ。触れなくても姿が見えることから、それがオーエンだと、カインは直ぐに気づいた。

    今宵の魔法舎は不気味なほど静かだった。
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