おやすみ、オーエン。いい夢を。真夜中にオーエンは飛び起きた。
額から汗が垂れる。
頭の中では鼓動が鳴り響き、その生を収束へ向かわせるかの如く、激しく、短く刻まれていた。オーエンは胸の中心あたりに大きく皺をつくると、腰を折り、布団へ顔を埋めた。体の震えと煩い心拍が、オーエンを追い詰める。彼の体には、心臓がないはずだった。しかし、どういう理屈なのか、隠してあるはずの心臓の音が頭の中で煩く響いていた。
「………く、ぅ」
オーエンは呻き出た声を無理矢理飲み込んだ。例え耳にする者がいなくとも、プライドが許さない。悪夢に悩まされる夜は何度も経験していた。只、冷や汗が止まらないほど悪質な夢路は、オーエンにとって久方ぶりだった。
オーエンは何時もの様に人間の恐怖や悪意へ思いを馳せようとした。純粋で真直ぐなそれらは、薄暗い安寧をもたらしてくれる。だが、今はその誘導に集中できずにいた。
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