その映画は俺にとってひどくつまらないものだった。好きな女優が主演だからという理由で借りてきた映画であったが、安っぽい恋愛観が当たり障りのないストーリーに乗せられて語られるだけの内容で、なんというか、知人の惚気話をファミレスで永遠と聞かせられている気分になった。俺は開始三十分も経たずにその映画に飽きていた。現在お付き合い中の「彼女」と観ていれば映画の中の恋愛と比較して自分たちの愛を語ることもできるだろうが、隣で一緒に映画を見ているのは、同じ山岳部の後輩だった。
彼はすでに飽きている俺よりは熱心に映画を鑑賞していたが、その真剣さは義務的な空気を含んでおり、恋愛映画の鑑賞時に相応しいものでなかった。彼もこの映画のつまらなさをわかっていて、それでもなお、作品として語れる部分を探そうと躍起になっているのだろう。「先輩が選んだ映画なのだからちゃんと見ないと」という生真面目すぎるその姿勢に、俺は逆に加虐心をくすぐられて、彼へと手を伸ばした。テレビからの明るい光で照らされる横顔に触れ、鍵状に曲げた人差し指の背で撫でる。彼はさすがにテレビ画面から目をそらして、戸惑いの生じた瞳でこちらを見上げた。俺はにこりと笑って、ペットを愛玩するように彼の頬を数度撫でた。すると彼は俺の指に応えて、指の背だけでなく手の甲にも触れるよう、擦り寄ってきた。彼は普段、積極的に他人とコミュニケーションを取る人間ではなかったが、俺が触れるとそれなりに反応してくれた。
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