エントゥアがその男を助けてしまったのは「顔が見えなかったから」に尽きる。
エンナカムイへ[[rb:ウマ > ウォプタル]]を走らせる最中、川に半身を浸し倒れている人影を見つけた。放っておけず、その巨躯を引き上げた。彼がヤマト八柱将『豪腕の』ヴライだと気づいたのは、苦悶に歪む顔に張りつく[[rb:仮面 > アクルカ]]を見てからだ。
無論後悔した。関わるべきではなかったと己が不運を嘆いた。ヒトをヒトとも思わぬ冷酷な男である。帝の崩御にかこつけ、エントゥアの恩人を窮地に追い込んだ男である。エントゥアの故郷、ウズールッシャを蹂躙した将でもある。彼だと気づいていれば、助けなどしなかった。
それでも。涸れた喉で叫ぶだけ叫んで気を失った男を、その顔を水面に沈めこれも天命とうそぶくことが。一度は握ってしまった手を放すことが、エントゥアにはどうしてもできなかった。
5902