封印された音色プロローグ
ずっとあの音に憧れていた。
ずっとあの音を追い求めてきた。
そう、幼少期に聞いたチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の透明感ある音色を。
1.
「みんな、喜べよ~ 楽しい楽しい依頼演奏だぞー」
日差しは強くなってきた3月。
練習前のミーティングで一ノ瀬銀河が切り出したのはコンサートホールのリニューアルオープンを記念した依頼演奏の話であった。
「曲は、なんと!チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。先方からの依頼で、朝日奈にソリストとして演奏してほしいとの希望だ」
依頼演奏と聞いて晴れやかな気持ちになったのも束の間。その場にいるほとんどのメンバーは一気に眉を潜め、明らかに面白くないといった表情となる。
「またヴァイオリン協奏曲か。せっかくオーケストラに入ったのだから交響曲を演奏したいよな」
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