夢の残り香「夢だったのか……」
朝、寮の自室で目を覚ました唯はそう呟く。
カーテンからは朝の光が漏れており、今日という一日が始まることを容赦なく教えてくれる。
御門の誕生日であった昨日はたまたまと言っていいのだろうか。グランツ交響楽団のメンバーの手引きもあり、彼と「偶然」会うことができた。
誕生日プレゼントとして渡したのはグランツのメンバーはもちろん、スタオケでも彼のことを知っているものたちからの寄せ書き。
ふたつの楽団を行き来しつつ、御門に知られないように準備する時間は至福のひとときであったのを唯は思い出す。もっとも個人的な贈り物をできる立場でないことが歯がゆかったが。
そして、御門を待っている間、現在スタオケで練習している曲が愛をテーマとしたものであり、解釈を深められないかと恋人たちの観察をして、より一層悩みが深くなったのも記憶に新しい。
2090