奴は料理人らしく鼻が利く。五階の自室には強固な結界があるが、逃げ込めるかは微妙なところだ。今日の戦果は数日煮込んだタンシチューだったこともあって、おっかないあの男のしつこさもいつも以上だった。
気配を断ちながら素早く階段を上り、四階の廊下に足を踏み出した。都合のいいことに誰も魔力も感じられないフロアを突っ切り、一番奥の空き部屋を目指す。殺気だった気配はすぐそこだ。だが、ブラッドリーの方が早い。
今日も俺様の勝ちだなと口角を上げて扉を開こうとして、不意に感じた魔力に顔を上げた。
階上から、赤茶の髪が覗いている。
「ブラッドリー?どうしたんだ、ここにいるなんて珍しいな」
暢気な声に舌を打つ。迷っている暇はなかった。
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