モブおじとたくいお個展で忙しいはずのあの人が、ここに足を運んでくれた。だから、これはその事実に浮かれた自分の失態だ。と、拓海は強く拳を握りしめた。
一般公開の今日、作品の前には、審査の時よりさらに多くの人集りができていた。その中心にいる、作品のアーティストである彼。とある用事から戻った拓海の目に飛び込んできたのは、何より大事な灰島伊織へ手を触れている男だった。
どんな用事でも離れるべきではなかった。奥歯を音がするほど噛み締めながら、急いで彼の元へ向かう。
「伊織さん……!」
不埒な男の手は伊織の肩を抱いており、拓海は頭が沸騰しそうなほどの怒りに燃えた。衝動のまま、男の手を掴み上げる。が、拓海の手は即座に弾かれた。
「いい。やめろ」
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