橄欖之苑 終幕知府さまから届いた依頼状を前に、俺は深いため息をついた。
「……蟹はもう見飽きたぜ」
指令は養蟹場での蟹の選別と収穫だ。確かに手際には自信があるが、毎日毎日息つく暇もなく駆り出されては不平の一つも言いたくなる。どうせならもっと勉強時間が欲しいし、戚継光将軍と一緒に倭寇対策にも参画してみたい。書物を読んで、自分なりに考えてはいるのだ。
いや。
両手で軽く頬を叩く。戒めのつもりだ。単に、俺がまだ未熟だと言うことだ。
それなら、実績を上げていくしかない。
編み笠と魚籠を手に取って、おとなしく指定された作業場へ向かうことにした。
外に出ようとすると、通りすがりに居間の卓子(つくえ)が眼に入った。そこには読みかけの本が積んである。
1971