暴風雨「じゃあ風間、行ってくるねっ!」
耕助は受話器を置くと、掛けていた二重回しを急いで着始めた。俺はその慌てた様子を見てギョッとした。
「行ってくるって…こんな雨ン中どこ行くんだよ!?」
「事件があったんだよ、公園で首吊りが…すぐ証拠が消えるから急がないと、じゃあね!また酒飲もう、風間!」
また飲もう、と言われても、俺達はまだ口をつけてすらいないのだ。俺は熱燗と猪口を両手に握ったまま、呆気に取られた。随分ご無沙汰だってのに、久々に会ったらこれだ。耕助は何に置いても殺人事件が優先事項なのだ。俺は、関係がない。眼中にもない。
「おい、行くなよ…耕ちゃん…」
俺は咄嗟に耕助の手を掴んだ。熱燗は床に転がって、だらだらと零れていった。
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