果報 公園のベンチに座る庵を見て、その女性は「庵さん、庵歌姫さん?」と立ち止まった。見覚えのある顔に、庵は思わず「あっ」と声をあげる。
「お久しぶりです。三年前に私、事件に巻き込まれて……庵さんにお世話になったんです」
彼女は、改めてありがとうございました、とお辞儀をした。女性の傍らにいた少女が庵のことを「だあれ?」と問う。
「ママを助けてくれた人だよ」
庵の目線まで抱き上げられた少女は、母の腕の中から庵をまじまじと見つめている。
「おけが? いたいいたい?」
「もう痛くないのよ。ありがとう、優しいね」
頬に伸ばされた小さな手を己の手で包みながら、庵はやんわりと否定した。どいたまして、と少女が言ったのは、たぶん「どういたしまして」と言うつもりだったのだろう。
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