朝食 おっ、と五条が声を上げるのが聞こえた。
「これ去年も買ってくれてなかった?」
庵が目玉焼きを作るコンロの火を止めて振り返って見れば、目敏く冷蔵庫からりんごジャムの瓶を見つけて取り出している五条がいる。手作りとラベルに書かれたそれは、確かに去年も冷蔵庫にラインナップしたものだ。ごろりと大きめの果肉が残っていて食感が楽しく、甘い中でも酸味が引き締めてくるのがいいと五条が言っていたのを一年たっても覚えていた。今年もスーパーに陳列されているのを見たら、つい手に取ってしまったのだ。今日は庵も食べてみたいと思っている。
それをマーガリンと一緒にテーブルに置いた五条は、足を止めず朝食用のカトラリーをカップボードからそろえて鼻歌まじりにテーブルを整えていく。部屋のどこに何があるかを尋ねてこなくなったのはいつだったか。もうすっかり勝手知ったるといった様子だ。
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