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    エピソード

    むらさきたいまー

    MAIKING同人誌でカットしたエピソードですが、既成事実ができた世界線の大正おばみつなんだなぁ~と思っていただければ…!
    『純愛セクシユアル』番外編 三月の始まりはまだ寒くて、蛇柱様の寝室と小さな広縁を隔てる障子をカラカラと開けた。硝子戸を通して畳にまで午後の柔らかい光が落ち、少しだけ春めいて温くなった熱をもたらす。しましまの靴下に包まれた足先をそっと伸ばして、畳の上で横になる。枕は押し入れから拝借した伊黒さんのもの。掛けた毛布代わりはやっぱり伊黒さんの縞羽織。大好きな方の、澄んだ森のような香りに包まれて、私は物凄くニヤけた。
    『俺が留守にしているときでも、上がって休むといい』
     ポケットにしまった蛇柱邸の鍵を隊服越しに触り、伊黒さんの言葉を思い出して胸がきゅうってする。私を心配して気遣ってくれる、優しい人。あたたかい科白と共に合鍵をくれて、いつでも頼りなさいって言ってくれた。たとえそれが大切な友人だから──でしかなくても。その思いやりが、真心が嬉しいの。だから、彼が恋しくなると蛇柱様がいらっしゃらない日の昼間にこうして上がり込んでは、かすかに漂う伊黒さんの匂いを嗅いで予備の縞模様をぎゅうってしてる。
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    さかえ

    DOODLEいずれ土井利になる話3
    まだまだ若土と子利の話
    もう1エピソード書いたら一話目は終わり
    いずれ土井利になる話3 その夜は雨だった。夕刻から降り出した雨が次第に激しくなり、しまいには雷雨となった。ひどい湿気が寝苦しく、土井は早々に寝ることを諦めて、水でも一口もらおうと廊下に出た。締め切った雨戸を少しばかり開けて覗くと、雨と一緒に新鮮な空気が入ってきて、少しホッとする。
    「――利吉くん?」
     ふと視線をやった先、曲がり角の柱の陰に、小さな身体が縮こまっているのが見えた。さだめしこの邸の一人息子だろうと思って声をかけると、びくりと小さな肩が震える。どうしたの、と続けようとする土井の頬を、鋭い光が舐めた。遅れて雷鳴がとどろいて、遅まきながら土井は「これか」と判断がついたのだった。
     恐らく利吉はいつものように、悪夢からの守り人として土井のもとを訪れたのだろう。しかし、ひどくなる一方の雷鳴にすっかり怯えて、途中で足が萎えてしまったのだろう。土井は素早く雨戸を立てきって利吉に歩み寄るとその横へ膝を突き、己のところへ来るよう誘った。しかし利吉の反応は芳しくない。どうやら、普段寝入っている(と利吉は思い込んでいる)土井のもとへ来る分にはよいが、こうして起きている内に、しかも自分のことが理由で招き入れられるのは矜持が許さないらしい。ならば、と土井は一芝居打つことにした。
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    ぬのさと

    DONE双聶本「You Mean the World to Me」につけていたおまけ折り本の再掲。
    最初は秋の話だったのを途中で春に変えたので、秋バージョンを持っている方はレアかも。
    元ネタは北宋の徽宗のエピソードです。
    作中の七言絶句は、『全唐詩』所収の劉長卿「過鄭山人所居」(鄭山人の所居を過ぐ)より。
     寂寂孤鶯啼杏園
     寥寥一犬吠桃源

    (寂寂として孤鶯、杏園に啼き
     寥寥として一犬、桃源に吠ゆ)
    ものいう鳥 数ある仙門世家のうちで唯一、刀術を使う清河聶氏の当代宗主は、聶懐桑という。
     勇猛なこと、義に篤いことで世に名を馳せた聶氏を束ねる長として、聶懐桑はあまりにも頼りない。領内でもめごとが起きても、悪鬼邪魅のたぐいが跋扈していると領民から訴えがあっても、困り顔に気弱げな笑みを浮かべて扇子ではたはたとあおぐばかり。なにを聞かれても「知らない」としか答えない、一問三不知とあだ名される人物だった。
    「――知らない」
     ふいに、つややかな黒い羽根の小鳥がそう云った。暖かな陽射しが明るかった。
    「ふうん、おいしいかい?」
     聶懐桑はにこにこと笑いながら、目もとから頭の後ろにかけて黄色い肉垂れのある、真っ黒な小鳥に手ずから餌をやった。九官鳥は橙色の嘴を開け、
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