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    忸怩くん

    DONE【鋭百】「花」 眉見からの小さな悪戯について。
    痕跡 体を繋げて、熱で分けあって、彼の目の奥で煮詰まるどろどろとした欲に溶かされて他のことなんて何も考えられないくらいに夢中になる。そうして甘い幸福が体を満たしたそのあとは必ず虚しさに襲われるのだ。どれだけ深く繋がったつもりでも終わりはあるし、その後はひとり冷たい部屋に帰らなくてはならない。そういった現実がふわふわと浮かんでいた体を一気に引き摺り下ろしてしまう。
     改札前で立ち止まったら動けなくなってしまうから、じゃあねとあっさり手を振って慣性のままに電車まで向かい乗り込む。電車内の暖房が暑すぎて気持ちが悪い。惰性で交互に動く足が帰りたくない気持ちなんてお構いなしに帰路を辿って、あっという間に自宅まで着いてしまった。無人のエレベーターの数字が順に点っては消えていくのを眺めて、色だけは暖かなオレンジの照明の下冷たいドアノブを回すと真っ暗な廊下が出迎えた。同じように真っ暗な自室の電気をつけると、朝出てきた時のままにスウェットが脱ぎ散らかされた床に冷えた空気が沈澱している。眉見の部屋とは全然違う。あそこには暖かい陽の光を浴びた布団があって、行くたびに机に置かれた次の仕事の台本の書き込みが増えていて、そうしてほのかに彼の整髪料の匂いがする。
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    忸怩くん

    MOURNING【鋭百】いつの間にか眉見家への道へ行き慣れていた話
    日記 2回目の乗り換えを済ませて、空いた隙間に埋まるよう座席に腰掛ける。駅メロが流れてドアが閉まると電車が緩慢に動き出した。この路線だけなんだか足元の暖房が強いらしく、乗るたびにふくらはぎが一気に熱されて瞼がゆるりと重くなる。まだ眠ってはいけない、と眠気を吹き飛ばすよう頭を振る。
     走り出して少し、次の駅への到着アナウンスが流れ出した頃に、一昨日のやりとりのまま止まった眉見とのトーク画面を呼び出した。
    『おはよう、今電車乗ったよ』
     わかったと返事が来たのを確認して、再び画面を真っ暗に戻した。はじめの頃は乗り換え検索をしてその到着時刻を教えていたのに段々と大雑把になっていって、今では最後の電車に乗った時に連絡するだけになっている。乗り換えなんて調べなくても大体の所要時間と使うホームはもう覚えたし、そうすると正確な到着時間じゃなくてもうすぐ着くということだけ伝えられれば十分かと簡易化したのだ。ただ眉見はそんなざっくりとした連絡でも絶対に百々人より先に着いて改札前で待っているからそれが少し悔しくて、最近は少しずつ乗ったよの連絡を遅らせているのだ。それでも眉見を改札前で待ち受けるにはまだ至っていない。
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