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    蜘蛛

    しぐまきお

    MOURNING蜘蛛踊りNPC
    本当は家族も恋人も島民も、全員救いたかった人。
    深海に沈む 腕を羽根のように広げ、背中から落ちる。荒れた海面はコンクリートのように硬く、背中が痛んだ。天から降り注ぐ大粒の雨が顔面を打ちつける。
     しかしそんなことよりも、彼女の絶望の表情が何より心を締め付けた。そんな資格ももう無いだろうに。広げた腕で、指先で、縋ってしまわなくてよかった。
     暗く冷たい水に沈むと、鼻から、口から、塩辛い液体が流れ込む。ゴボ、と泡を噴いて思わず喉元を掻きむしると、つけた傷に塩水が染み余計な苦痛を増やしただけだった。
     優しさとは何だろうか。徹はよく『優しい人』と評された。
    曰く、困っているときに声を掛けてくれた人。
    曰く、欠かさずに挨拶をしてくれる人。
    曰く、自分を見てくれる人。
     そんなのは勘違いなのだと無性に声を荒らげたくなる事もあった。自分は自分であっただけなのだ。それを優しさだなんて持ち上げないで欲しかった。特別な人間だなんて言わないで欲しかった。そうあれと願われるものだから、脅迫観念に縛られたものだから、そうあっただけなんて、誰も信じてくれないかもしれないけど。失望されてしまうかもしれないけれど。
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    masasi9991

    DONE土蜘蛛さんと大ガマさんとホラーっぽいもの
    車両内にて ふと気付いたら電車の中だった。ここはどこ? ――学校に行く途中、電車の中。私は誰? ――私は――私だ。別に疑う余地もない。いつもの私だ。名前も経歴も特にこれといっておかしいと感じるところはない。私は私。ここは電車の中。私はまるで今生まれたばかりのようにふと目を開いて、ふとここは一体どこなのか、今はいったいいつなのか、私は誰だったのか、と何もかもが初めてであるかのようなことを考えたけれど、どれもこれも答えは簡単だった。
     寝ぼけているみたいだ。きっとそう、お昼寝で熟睡しすぎてママに叩き起こされた夕方に似ている。どうして自分がここにいるのか、わからない。自分が何をしていたのかわからない。結果だけを目の当たりにしている感じ。耳に入れたイヤホンから好きな曲が流れている。この曲を初めて聞いたのはいつ――ずっと昔――今? いつスマホの再生ボタンを押したんだろう? ワイヤレスイヤホン、お小遣いで買うには高かった――どうして手に入れたんだっけ。おばあちゃんが――だったっけ。電車の揺れる音と音楽が混じっている。聞いた、ことがある、電車の音とこの曲の――そんなの考えたこと、あっただろうか。寄りかかった電車のドアのガラス窓に、私が映って、映って、映って、映って、これは誰?
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