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    重い

    okakkie_id

    DONEうちのももききの基盤にあるやつ。少々暗くて重い。間接的ではありますが暴力を示唆しています
    狒々の白羽の牙を折り 渇きを覚えて起き上がる。階下に降りると、縁側の戸が開いていた。淡い月光が黒髪の輪郭を浮かび上がらせている。起こしてしまいましたか、と控えめに笑う彼女のもとへ、足は勝手に向かった。意識なく、自動的に。まるで誘蛾灯へ向かう羽虫の行動だ。自覚はない——いや、あるのか? 疑問が浮かんで初めて、意識が分裂していると気がつく。ああ、なるほど。これは夢か。夢を俯瞰するとこのようになる。夢を見ている自覚のある自分はそれこそ指先でひねり潰される虫のようにちいさい。
     身体を操っているほう、すなわちここが夢だと気づいていないほうの自分が無言で彼女の前に立つ。彼女の頬にはまばたきがひとつ落ちた。丸くてきらきらした瞳が自分を見上げている。互いに無言だ。彼女の唇にはわずかに微笑みがある。瞳には信頼が満ちている。音はなぜか聞こえない。静寂に満ちた世界でゆっくりと手が持ち上がった。自動的に——意識なく。渇いている、と思った。唐突に鼓動を意識する。心臓と眼球が熱を持ち、呼吸が早まる。彼女の瞳に戸惑いがよぎるのを見つける。羽虫のごときおのれには焦りが生まれる。必死で制動をかけようとする。だが身体のほうはいうことをきかない。手のひらはすでに彼女の体温を感じている。産毛の感触を。肌のわずかな湿り気を。半狂乱になった頭が、よせ、と叫ぶ。その人になにをするつもりだ!
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