Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    doll

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
    3531

    すすき

    DONEブ受マンスリーに参加しました!
    お題「誘惑」ミスブラ

    お酒を使ってミスラを誘うブラッドリーっていいな!と思って書きました。
    それで? と声を掛けられてミスラは一つ瞬きをした。
    「てめえは何しに来てんだよ」
    こんな夜中に、とブラッドリーがちらりと窓の外に視線を向けた。厄災が輝く空はまだ終わりそうにもないのはミスラにもよくわかっている。そんな夜を何度も過ごしているのだから。理由は、と聞かれれば一つしかない。
    「眠れないので」
    「そっちじゃねえよ」
    ブラッドリーが小さくため息を吐いてグラスを傾けた。琥珀色の液体が揺らめいて消えていく。指先をくるりと回してボトルから新しい酒を注ぎ入れ、ブラッドリーが足を組み直した。もう一度グラスを傾けてから、どうしてブラッドリーの部屋を訪ねて来たのかという意味だと付け足される。
    それについての理由をミスラは持っていない。ふと、そういう気分になっただけだった。今日はシャイロックが魔法舎にいなかったこともあるかもしれない。あのバーに行っても、もぬけの殻だった。勝手に飲んでもよかったが、あまりに種類が多くて面倒になって止めた。そうしてバーを出た時に頭に浮かんだのがブラッドリーだっただけのこと。
    1358