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    餅@94

    PAST以前にTwitterであげた眠りミカと小さな透君のお話に若干の加筆修正をしたものです。春なので再掲。
    うっすら拳→ミカ。


    数十年後、桜の下を元気にビキニで練り歩く儚さのカケラも無くなった次兄を見てこっそりため息を吐く透君が居るとか居ないとか。
    花守り 桜もそろそろ咲こうかとする頃、どこかから一通の手紙が送られてきた。
     その中身を読むなり、拳兄は大慌てで俺を隣のおばちゃんに預けてどこかへ飛び出て行って、それから数日経ってようやく帰ってきた。


     その腕の中に眠ったままの綺麗なお姫様を抱いて。

     ▼▼▼

     そのお姫様は実はお姫様じゃなくて、ずっと行方不明になってた俺のもう一人の兄ちゃんだった。
     名前はミカエラ。
     初めて拳兄からその名前を聞いた時は、この国じゃ馴染みの無い音だなって思ったけど、こうやって本人を前にすると舶来人形みたいに綺麗なこの人にはとても良く似合う名前だと思う。

     ミカ兄はずっと寝ていて目を覚さない。

     拳兄が言うには、ミカ兄は俺がうんと小さい頃に俺達とはぐれちゃって離れ離れになったんだって。拳兄はミカ兄を探してあちこちを転々としてたんだけど、たった一人で、しかも俺を連れてだから中々の上手く行かなかったらしい。
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    kurautu

    DONE王子様としての一歩目の話です。みのりさん誕生日おめでとう!
    おうじさまのはじまり 足の裏に伝わるのは硬い床の冷たさだ。大きな窓から降り注ぐ光は明るいけれど、広々としたこの場所の空気を温めるのには時間がかかる。開場して人が集まれば消えてしまう温度を存分に味わう事ができるのは、出演者である俺たちの特権だ。俺たちといっても、今ここにいるのは俺だけだけれど。
     夢の中だった。裸足で歩いている俺も、スタッフさんの声一つ聞こえないこの場所も、ありえないのだと知っている。それならばいっそ、この空間を楽しむだけだ。願えば床を一蹴りするだけで簡単に飛べそうだけれど、俺はそれを選ばなかった。それよりもここを歩いていたかった。
     穏やかな日差しの中に並ぶフラワースタンドを一つ一つ眺めながら歩いていく。夢の中のフラワースタンドたちは、俺が目を覚ました世界のどこにもない。だからこそ目に焼き付けたい。作り出しているのは俺の記憶だとしても、それを作り上げているのは今までに触れた花たちだ。もらった花、贈った花、誰かが贈るための手伝いをした花。花の中には俺たちの名前も、俺の名前も掲げられていた。それを当たり前のように思い描けるほどに、たくさんの気持ちを受け取ってきた。手を伸ばして花に触れれば、水を含んだ冷たさが伝わってくる。大事な舞台を前にした緊張と高揚をそっと鎮めてくれるような温度だ。
    1937