没のオクバデ　記憶を持って生まれ、しかも同じく記憶を持ったバデーニと巡りあうという、奇跡のような再会をしたのがおよそ一か月前。衣食住は提供してやるから身を粉にして家事をしろ、とかつてのように大学生の俺を引きずり込んでマンションの一室で共に住むようになったのが、三週間ほど前か。
　ただいま帰りました、といつもの調子で玄関を開ければ、立ったまま腕を組んで壁に体重を預け、こちらを睨みつけるほどの眼光で見つめるバデーニさんと目が合う。
　何かしてしまっただろうか。怒っている...とも少し違うような。おろおろと様子を窺っていると、それを気にも留めずバデーニは徐に唇を動かして名を呼んだ。
　「オクジー君、私と付き合え」
　「は、い？……ど、どこにですか」

オク＆バデ　「デートをする」2020年代の東京に住むオクジーとバデーニは、モノレールに乗車し、並んで座って窓を見ていた。
眼下には、夕陽に照らされた東京の街と運河が見える。
二人は長期休暇中、故郷ポーランドへの直行便の飛行機に乗る為に、空港へ向かっていた。

「ポーランドに帰ったら、何をしましょう？」
オクジーは上機嫌でバデーニに話しかけた。
「そんなに楽しみなのか？」
「はい！東京は遊ぶ所がたくさんですけれど、どこも人がいっぱいで…お金がかかるし
俺はやっぱり、自然が豊かな故郷のポーランドが好きです。」
「―――ハァ、私は今から12時間以上も飛行機で過ごすのが憂鬱だが？」
バデーニは大きなため息を吐いた。
「えっ、俺はバデーニさんのお陰で、飛行機のビジネスクラスに一緒に乗れて嬉しいです。

オク＆バデ 「キスをする」15世紀のP王国に住むオクジーとバデーニが出会ってから、半年が経った。
　彼らは冬の終わりに出会い、春と共に地動説の研究が始まり、夏の終わりに地動説の研究を終えようとしていた。
オクジーは酒場で、ヨレンタとバデーニに「将来は大学で学びたい」という夢を語った。
そのまま何事もなく酒宴を終え、ヨレンタを寮まで送り、オクジーとバデーニの二人は、並んで歩いていた。
「………………。」
　バデーニはずっと黙って歩いていた。
何だか気まずい。
いつもはバデーニが、研究がどこまで進んだか、教会の仕事が煩わしい、といった事を一方的に
オクジーに話しかけていた。
それに対してオクジーがコメントし、二人の会話が続くという状況だった。

オク＆バデ　「映画を見る」”チ。-地球の運動について-実写映画化！！”という衝撃的なニュースが世界中を駆け抜けた。
そのニュースは、2020年代の日本の首都東京に住むオクジーとバデーニの元にも届いた。
「聞いたか、オクジー君！！我々が映画に出るらしいぞ！！！」
「落ち着いて下さい、バデーニさん。俺たちは映画には出ません。」
「はぁ？実写映画化だろ？絵じゃなくて。」
ふぅ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿…。とオクジーは長い溜め息を吐いた。

「バデーニさんは漫画の実写映画化が、どんな悲惨な末路を迎えるか、知らないんですね…。」
「ハァ？オクジーくんこそ、何を知っていると言うんだ。
まるで絶対に失敗するみたいな言い方して…。」
バデーニは不愉快そうに眉間に皺を寄せた。

オク＆バデ　「手をつなぐ」オクジーとバデーニは2020年代の日本の首都東京で生活していた。
東京は坂が多い。
バデーニとオクジーが通う大学周辺には「坂」のついた地名が複数存在するほどだ。

　どこまでも平坦な大地が広がる、ポーランドの古都出身のバデーニには東京の坂が堪えた。
「はぁ、…ひぃ、ふぅ…。」
バデーニが奇妙な溜め息を漏らしながら、坂を登っている。
その横を、二人分の荷物を背負ったオクジーが歩いていた。
「バデーニさん、大丈夫ですか？」
「…は？」
汗をだらだら流しながら、バデーニは答えた。
バデーニは前のめりになりながら、ポケットに手を入れて歩いていた。
そして、老婆の様に腰を曲げヨタヨタと歩いていた。
「坂が急で辛くないですか？」
そう言って、オクジーはバデーニに手を差し出した。