途綺*
DONE🐑🔮//エヴァの真珠真珠貝の唄(https://poipiku.com/6922981/9265246.html)の続編。前作読了済を推奨します。※👟の友情出演多めです
「〜♪ 〜♪」
普段は昼近くまで寝ている癖に朝から入り浸っては、興味もない本ばかりだからと今まで頼んでも手をつけなかった本棚の整頓を自ら始めた浮奇に、明日は海底火山の噴火でも起きるのかと瞠目していた。鼻歌まじりに作業するその姿にやけにご機嫌だなと思いつつ、理由は余りにもハッキリしているので問い掛けるなんて野暮だと分かっている。それでも少し突っ込んでみたくなるのは、日々魔法の技術を磨く研究者としての悪癖なのかも知れない。
「何か良いことでもあったの?」
小さな鍋をかき混ぜながら聞けば、手を止めた浮奇は嬉しそうに頷いた。
「ふーふーちゃんがね、背中が随分と綺麗になってきたって」
「薬が効いてるようで何よりだよ」
8536普段は昼近くまで寝ている癖に朝から入り浸っては、興味もない本ばかりだからと今まで頼んでも手をつけなかった本棚の整頓を自ら始めた浮奇に、明日は海底火山の噴火でも起きるのかと瞠目していた。鼻歌まじりに作業するその姿にやけにご機嫌だなと思いつつ、理由は余りにもハッキリしているので問い掛けるなんて野暮だと分かっている。それでも少し突っ込んでみたくなるのは、日々魔法の技術を磨く研究者としての悪癖なのかも知れない。
「何か良いことでもあったの?」
小さな鍋をかき混ぜながら聞けば、手を止めた浮奇は嬉しそうに頷いた。
「ふーふーちゃんがね、背中が随分と綺麗になってきたって」
「薬が効いてるようで何よりだよ」
おもち
TRAININGPsyBorg。同級生で同じクラス設定の学パロ。まとめ本のオマケでつけていたものです。
文化祭前日、クラスのみんなが帰った教室で俺は机を挟んだ向かい側に座る恋人のことを見つめていた。真面目な顔で目を伏せていた彼はふと視線を上げて俺と目が合うと、眼鏡越しの瞳をふわりとやわらげる。
「うん? どうした?」
「……まだ終わんない?」
「もうすこし。待てないなら先に帰っても」
「ねえ、それ、本当に俺が先に帰ると思って言ってる?」
「……もう少しだけ待ってろ」
ん、と頷いて、俺は顔を俯けた。机の上に広げられた学級日誌に彼がペンを走らせる。一日中文化祭準備だった日の日誌なんて、書くことないでしょ。それでも真面目な彼は埋められる場所を丁寧に埋めていた。
「シャーペン貸して」
「うん?」
「はーやーく、かーえーろー」
1817「うん? どうした?」
「……まだ終わんない?」
「もうすこし。待てないなら先に帰っても」
「ねえ、それ、本当に俺が先に帰ると思って言ってる?」
「……もう少しだけ待ってろ」
ん、と頷いて、俺は顔を俯けた。机の上に広げられた学級日誌に彼がペンを走らせる。一日中文化祭準備だった日の日誌なんて、書くことないでしょ。それでも真面目な彼は埋められる場所を丁寧に埋めていた。
「シャーペン貸して」
「うん?」
「はーやーく、かーえーろー」
途綺*
DONE🔮🐑//紅色の筏葛ふーふーちゃんを愛で浸して密漬けにする話。
「動かないで」
星々が空を彩る時間、眠る前にと本を読んでたファルガーに浮奇が唐突に告げる。寝巻き姿の浮奇は白い脚を晒すショートパンツで、いくらもこもこした素材の冬のパジャマとはいえ風邪を引くのではと心配になる。寝る前は膝掛けやら靴下やらで覆われていても寝る時はそのままなのだから、金属で出来た冷たい脚を触れさせることのないように他の時季よりも早くベッドに入っている、なんて浮奇は知らないだろうけど。
とにかく、ファルガーは持っていた読みかけの本を置いて、浮奇に向かって両手をあげることで降参を示した。満足そうに笑った浮奇は、近づいてきたかと思うと「手を出して」とにこやかに要求を重ねる。抱きしめて欲しいのかと思い伸ばした腕は柔らかな身体を引き寄せることなく、そっと手首を掴まれて両腕を纏められた。視線だけで問い掛ければ笑みを深めた浮奇が、ファルガーの手首をどこから持ってきたのか分からないもこもこ素材の細いベルトのようなもので縛り始めた。
1603星々が空を彩る時間、眠る前にと本を読んでたファルガーに浮奇が唐突に告げる。寝巻き姿の浮奇は白い脚を晒すショートパンツで、いくらもこもこした素材の冬のパジャマとはいえ風邪を引くのではと心配になる。寝る前は膝掛けやら靴下やらで覆われていても寝る時はそのままなのだから、金属で出来た冷たい脚を触れさせることのないように他の時季よりも早くベッドに入っている、なんて浮奇は知らないだろうけど。
とにかく、ファルガーは持っていた読みかけの本を置いて、浮奇に向かって両手をあげることで降参を示した。満足そうに笑った浮奇は、近づいてきたかと思うと「手を出して」とにこやかに要求を重ねる。抱きしめて欲しいのかと思い伸ばした腕は柔らかな身体を引き寄せることなく、そっと手首を掴まれて両腕を纏められた。視線だけで問い掛ければ笑みを深めた浮奇が、ファルガーの手首をどこから持ってきたのか分からないもこもこ素材の細いベルトのようなもので縛り始めた。
𝓪𝓶𝓾
DONE140㎜のキス:🐑🔮りんどうさんありがとうございます💞
突発でお題をいただいて書きました。お題は「シガレットキス」です。
いままであんまりお題に添って書いたことがなかったので、上手にできなかった(こじつけみたいになっちゃった)けど、良ければどうぞ♡ 3928
おもち
TRAININGPsyBorg。💒明日は大切な日だから寝坊なんてしないように早く寝なきゃいけないのに、そう思えば思うほど眠気は遠ざかっていった。最近はすこしマトモになっていたけれど俺は元々夜型の人間だし、明日のことを考えてしまうと緊張と興奮が脳を刺激する。
俺はもぞもぞと寝返りを打って隣で眠る恋人の方へ体を向けた。こちらに背を向けている彼は俺と違って規則正しい生活をしているからか、こんな日でもいつも通りにぐっすり眠れるようだ。穏やかな呼吸音を聞くとすこし気分が落ち着いてくる。もっと彼に落ち着かせてほしくなった俺は体をじりっとにじり寄らせて彼の背中に額をくっつけた。
トク、トク、と伝わってくる彼の心臓の音が、触れたところから俺の心のリズムも正してくれる。安心して吐き出した熱い呼気は彼の肌を撫で、ビクッと彼が体を震わせた。
2121俺はもぞもぞと寝返りを打って隣で眠る恋人の方へ体を向けた。こちらに背を向けている彼は俺と違って規則正しい生活をしているからか、こんな日でもいつも通りにぐっすり眠れるようだ。穏やかな呼吸音を聞くとすこし気分が落ち着いてくる。もっと彼に落ち着かせてほしくなった俺は体をじりっとにじり寄らせて彼の背中に額をくっつけた。
トク、トク、と伝わってくる彼の心臓の音が、触れたところから俺の心のリズムも正してくれる。安心して吐き出した熱い呼気は彼の肌を撫で、ビクッと彼が体を震わせた。
途綺*
DONE🔮🐑//貴方を護る星空の祈り少し疲れて夢見が悪くなった🐑の話。「君の知らない真夜中の攻防(https://poipiku.com/6922981/8317869.html)」の対になるイメージで書きましたが、未読でも単体で読めます。
人間にはそれぞれ活動するのに適した時間帯があるのだと、ファルガーが教えてくれたのはいつのことだっただろう。朝が得意な人もいれば、夜の方が頭が働きやすい人もいる。だからそんなに気にすることはないと、頭を撫でてくれたのを覚えている。あぁそうだ、あれは二人で暮らし始めて一ヶ月が経った頃だった。お互いに二人で暮らすことには慣れてきたのに、全くもって彼と同じ生活リズムを送れないことを悩んでいた。今になって考えれば些細なことだと笑えるけれど、当時は酷く思い悩んで色んな人に相談して、見兼ねたファルガーが声を掛けて「心地よくいられること」をお互いに最優先に生活しようと決めたのだった。
そんなやり取りから数ヶ月。いつも通り深夜に寝室へ向かった浮奇は、すっかり寝入っている愛おしいひとの隣へ潜り込もうとベッドへ近づいた。静かにマットレスへ膝を付いて起こしていないことを確認しようと向けた視線の先で、眉を顰めて時折呼吸を詰めるファルガーを捉える。
2893そんなやり取りから数ヶ月。いつも通り深夜に寝室へ向かった浮奇は、すっかり寝入っている愛おしいひとの隣へ潜り込もうとベッドへ近づいた。静かにマットレスへ膝を付いて起こしていないことを確認しようと向けた視線の先で、眉を顰めて時折呼吸を詰めるファルガーを捉える。
途綺*
DONE🐑🔮//貴方と世界を繋ぐもの突然ドッゴの言葉が分かるようになる話。ほぼ🔮とドッゴの二人きりです。
四ヶ月、はたまた半年、もしくは二ヶ月に一度。彼の背骨は悲鳴を上げる。『現代』の医療では手の施しようがない痛みを抱える彼に不安げな表情を見せた浮奇に、プログラムされた制御がきちんと統制されていれば生身のそれよりも随分と便利なものだと、彼は笑った。彼の義肢の仕組みなど分かる訳もない浮奇は、それが強がりなのか本心なのか見抜くことができず、彼の引いた線を無理に踏み越えないことに決めた。最も、浮奇だって彼に施設での出来事を話していないのだから、きっとお互い様なのだ。
そんな不便で便利な義肢を持つ彼は、『現代』に来て様々な仲間と出会う中で優れた技術者とコンタクトを取ることができたようで、浮奇と出逢う少し前から数ヶ月に一度ほどいわゆる定期検診に向かう生活を送っていた。浮奇と共に生活をするようになってからもそれは変わらず、二日がかりで検診をしている間はドッゴとお留守番をするのが恒例になっている。カレンダーに丸く印を付けられた今日が、まさにその日だった。
9768そんな不便で便利な義肢を持つ彼は、『現代』に来て様々な仲間と出会う中で優れた技術者とコンタクトを取ることができたようで、浮奇と出逢う少し前から数ヶ月に一度ほどいわゆる定期検診に向かう生活を送っていた。浮奇と共に生活をするようになってからもそれは変わらず、二日がかりで検診をしている間はドッゴとお留守番をするのが恒例になっている。カレンダーに丸く印を付けられた今日が、まさにその日だった。
おもち
TRAININGPsyBorg。引っ越したばかりのピカピカの新居は半ば物置になっていて、俺は週に一、二度しかそこで眠ることはなかった。自宅以外のどこで寝てるかって、そんなの恋人の家に決まってる。
今までは遠距離で何日か休みがないと会いに行けなかったけれど、俺が彼の住む街に引っ越したことで気軽に遊びに行けるようになった。夜までそこにいたら帰るのは億劫で「泊まって行ってもいい?」と聞けば、どんどん俺に甘くなっている彼は渋々といった体で「明日はちゃんと帰れよ」と言う。でもね、そう言う彼の顔は毎回嬉しそうに微笑んでいるんだよ。帰りたくなくなるのもしょうがないでしょう。
「朝起こすからな。朝ごはんもちゃんと食べないと健康に悪い」
「んー……ね、ふーふーちゃん」
4172今までは遠距離で何日か休みがないと会いに行けなかったけれど、俺が彼の住む街に引っ越したことで気軽に遊びに行けるようになった。夜までそこにいたら帰るのは億劫で「泊まって行ってもいい?」と聞けば、どんどん俺に甘くなっている彼は渋々といった体で「明日はちゃんと帰れよ」と言う。でもね、そう言う彼の顔は毎回嬉しそうに微笑んでいるんだよ。帰りたくなくなるのもしょうがないでしょう。
「朝起こすからな。朝ごはんもちゃんと食べないと健康に悪い」
「んー……ね、ふーふーちゃん」
途綺*
DONE🐑🔮// 君と空を描く綺麗だと思える心を柔らかな愛で包んで大切にしたい話。
「...んっ、」
固まった身体をほぐす様に両手を天井へ向けて伸びをする。長時間の配信はしないようにする、と言ったのが少し懐かしく思えるくらいには、もうすでに片手では足りないほどの時間を費やしていることが増えている気がする。ストーリー重視のゲームは楽しい分、辞めどきが分からなくなるのが困りものだ。
すっかり飲み干して空になったグラスを掴んでキッチンへ向かう。愛しい同居人が水分補給にはうるさいため配信中に気にするようになってから、長時間配信の後に喉に違和感を覚えることが減った気がしていた。何度言われてもつい疎かにしてしまう節があることに呆れた浮奇が、画面に付箋を貼った時は手を叩いて爆笑したのもよく覚えている。誰のせいだとしっかり詰められて怒られたが、その健気さが愛おしくて今もそのままだ。
1782固まった身体をほぐす様に両手を天井へ向けて伸びをする。長時間の配信はしないようにする、と言ったのが少し懐かしく思えるくらいには、もうすでに片手では足りないほどの時間を費やしていることが増えている気がする。ストーリー重視のゲームは楽しい分、辞めどきが分からなくなるのが困りものだ。
すっかり飲み干して空になったグラスを掴んでキッチンへ向かう。愛しい同居人が水分補給にはうるさいため配信中に気にするようになってから、長時間配信の後に喉に違和感を覚えることが減った気がしていた。何度言われてもつい疎かにしてしまう節があることに呆れた浮奇が、画面に付箋を貼った時は手を叩いて爆笑したのもよく覚えている。誰のせいだとしっかり詰められて怒られたが、その健気さが愛おしくて今もそのままだ。
途綺*
DONE🐑🔮//真珠貝の唄人魚姫パロ。※👟 の友情出演があります。※🐑の翻訳はTwitterで投稿していますが、見なくても楽しめます。
海底に住む人魚が陸に住む人間に恋をする、遥か昔から語り継がれる物語。好奇心旺盛な人間と人魚によって、いつしかその物語は人間と縁を切っても切れない存在である人魚の世界にも広まっていた。人間の世界のそれとは、少し話の尾鰭を変えて。
「ねぇ、お願い!」
「やだってば」
海底深くにある煌びやかな世界で生まれ育った浮奇もまた、人間の世界に憧れる人魚だ。もう何十回も断られているにも関わらず、諦めの悪い浮奇は今日も人魚の魔法使いであるシュウの元へ通っていた。
「シュウもほんとしつこいよね」
「浮奇が言えたことじゃないよ、これで何回目だと思ってるの」
「十五回くらい?」
「三十二回目だよ」
わざわざ数えていたことに笑い出す浮奇を横目に、シュウは溜息を吐いた。作業場に篭りがちなのをいいことに二日と間を空けずに通ってくるこの人魚は、小さい頃から知っていることもありシュウにとっては弟的な存在である。
12106「ねぇ、お願い!」
「やだってば」
海底深くにある煌びやかな世界で生まれ育った浮奇もまた、人間の世界に憧れる人魚だ。もう何十回も断られているにも関わらず、諦めの悪い浮奇は今日も人魚の魔法使いであるシュウの元へ通っていた。
「シュウもほんとしつこいよね」
「浮奇が言えたことじゃないよ、これで何回目だと思ってるの」
「十五回くらい?」
「三十二回目だよ」
わざわざ数えていたことに笑い出す浮奇を横目に、シュウは溜息を吐いた。作業場に篭りがちなのをいいことに二日と間を空けずに通ってくるこの人魚は、小さい頃から知っていることもありシュウにとっては弟的な存在である。
途綺*
DONE🐑🔮//俺の世界を見て言葉を介して伝えるのが苦手な🔮の話。※🎭が友情出演しています
「ふーふーちゃんなんて、きらい!」
星空のような輝きを閉じ込めた両眼にいっぱいの涙を溜めて半ば叫ぶように言葉を放った浮奇は、近くにあったスマホを引っ掴んでファルガーと二人で住む家を飛び出した。咄嗟に伸ばされた手を避けるように背を向けて、焦ったように名前を呼ぶ声に振り向きもせず、目に入ったスニーカーに足を入れて玄関のドアを乱暴に開ける。ファルガーが追いかけてくるだろうことを分かっていたため、周りの目も気にせずに車通りの多い道まで走った。
「...っ、はぁ、は、」
呼吸の苦しさに足を止め、後ろを振り返りファルガーの姿がないことを確認する。なんとも言えない気持ちを抱えながら前を向いて踏み出せば、疲労のせいかスニーカーの爪先が地面を擦って、前のめりにバランスを崩しそうになったのを寸でのところで耐えた。浮奇の横を行き交う車も人間も、道端で息を切らして中途半端に引っ掛けただけだったスニーカーを履き直す浮奇に目もくれない。荒波のような心の浮奇には、その無関心さが救いだった。
6163星空のような輝きを閉じ込めた両眼にいっぱいの涙を溜めて半ば叫ぶように言葉を放った浮奇は、近くにあったスマホを引っ掴んでファルガーと二人で住む家を飛び出した。咄嗟に伸ばされた手を避けるように背を向けて、焦ったように名前を呼ぶ声に振り向きもせず、目に入ったスニーカーに足を入れて玄関のドアを乱暴に開ける。ファルガーが追いかけてくるだろうことを分かっていたため、周りの目も気にせずに車通りの多い道まで走った。
「...っ、はぁ、は、」
呼吸の苦しさに足を止め、後ろを振り返りファルガーの姿がないことを確認する。なんとも言えない気持ちを抱えながら前を向いて踏み出せば、疲労のせいかスニーカーの爪先が地面を擦って、前のめりにバランスを崩しそうになったのを寸でのところで耐えた。浮奇の横を行き交う車も人間も、道端で息を切らして中途半端に引っ掛けただけだったスニーカーを履き直す浮奇に目もくれない。荒波のような心の浮奇には、その無関心さが救いだった。
おもち
TRAININGPsyBorg。🔮🐏寄り。ワードパレット「オパール」心・曇り・包み込む、がお題です。長らくお待たせしました…!言葉がうまく紡げない時期が続いていた。打ち込んだ文字は中身のないからっぽな文章に思えて、書いては消してを繰り返す。一日中パソコンの前にいたのにたったの一行も完成せずに、夜になってパソコンの電源を落とす。インプットが足りないのだろうか。でも最近は暑くて散歩以外で出歩く気が起きず、毎日冷房をつけた部屋で本を読んだり映画を見たりして過ごしている。感動して心が熱くなるような感覚だって確かにあった。だけどいざ文章を書こうとすると、頭の中が真っ白になる。
インターホンが聞こえたのは夕方、執筆はしばらく時間を置こうかと憂鬱な気持ちで今まで書いたデータを整理していた時だった。日が長い夏はまだ外が明るく時間の感覚がブレる。時計を見て、配達業者が来る時間ではないことを確認してから玄関へ向かった。
2274インターホンが聞こえたのは夕方、執筆はしばらく時間を置こうかと憂鬱な気持ちで今まで書いたデータを整理していた時だった。日が長い夏はまだ外が明るく時間の感覚がブレる。時計を見て、配達業者が来る時間ではないことを確認してから玄関へ向かった。
途綺*
DONE🔮🐑//サードアイにはご注意をうっかりやらかすサイボーグの話。機械なのを良いことに色々ずぼらになってたら可愛い。
『いま駅に着いたとこ、何か買って行くものある?』
電車を降りて改札へ向かいながら、すっかり見慣れたアイコンのトーク画面を開いて文字を打ち込む。数秒もせずに既読が付いて、ファルガーからのメッセージが届いた。
『特にないな。雨が降ってるし、やっぱり迎えに行こうか?』
『ううん、まだそんなに強くないし大丈夫だよ』
大切にされていると分かる優しさに、浮奇の頬が自然と弛む。スマホを上着のポケットに入れてお気に入りの傘を広げ、空から降り注ぐ雨がゆっくりと濡らしていく地面へ踏み出した。一ヶ月ぶりに取った数日間の休暇をリラックスして過ごすべく、浮奇はファルガーの家へと向かっている。「ふーふーちゃんの家で休暇を過ごしたい」と半ば思い付きで伝えた浮奇を、コラボも含めて配信の予定が入っているが、それでも構わないなら、とファルガーは快く受け入れてくれた。
3026電車を降りて改札へ向かいながら、すっかり見慣れたアイコンのトーク画面を開いて文字を打ち込む。数秒もせずに既読が付いて、ファルガーからのメッセージが届いた。
『特にないな。雨が降ってるし、やっぱり迎えに行こうか?』
『ううん、まだそんなに強くないし大丈夫だよ』
大切にされていると分かる優しさに、浮奇の頬が自然と弛む。スマホを上着のポケットに入れてお気に入りの傘を広げ、空から降り注ぐ雨がゆっくりと濡らしていく地面へ踏み出した。一ヶ月ぶりに取った数日間の休暇をリラックスして過ごすべく、浮奇はファルガーの家へと向かっている。「ふーふーちゃんの家で休暇を過ごしたい」と半ば思い付きで伝えた浮奇を、コラボも含めて配信の予定が入っているが、それでも構わないなら、とファルガーは快く受け入れてくれた。
途綺*
DONE🐑🔮//ポルックスの羽化SF要素強め。星のチカラに振り回されて繭に籠る話。ポルックスは🔮の誕生星。
途轍もなく、むしゃくしゃしていた。
胎児のように体を丸めて頭から布団を被って、母親の優しい体温を思い出して眠ってしまいたいような、そんな気分だった。最も残念ながら、浮奇にはそんな風に縋れるほど優しい幼少期の思い出なんて無いけれど。
やるせなさに泳がせた視線がお湯を沸騰させる鍋を捉える。ふつふつと沸き上がる湯を見ていると自分の中の何かが暴れ出しそうな感覚がして、気持ちを抑え込もうとキツく目を閉じた。
気持ちに影響されているのか体がぐらぐらと揺れる感覚がして、やがて目の前がぐるぐると回るような眩暈へと変わる。倒れる、と気付いて咄嗟に伸ばした手は何かにぶつかって支え損ねた。重力に従って硬い床に体をぶつけた感覚を最後に、浮奇は意識を手放していた。
5966胎児のように体を丸めて頭から布団を被って、母親の優しい体温を思い出して眠ってしまいたいような、そんな気分だった。最も残念ながら、浮奇にはそんな風に縋れるほど優しい幼少期の思い出なんて無いけれど。
やるせなさに泳がせた視線がお湯を沸騰させる鍋を捉える。ふつふつと沸き上がる湯を見ていると自分の中の何かが暴れ出しそうな感覚がして、気持ちを抑え込もうとキツく目を閉じた。
気持ちに影響されているのか体がぐらぐらと揺れる感覚がして、やがて目の前がぐるぐると回るような眩暈へと変わる。倒れる、と気付いて咄嗟に伸ばした手は何かにぶつかって支え損ねた。重力に従って硬い床に体をぶつけた感覚を最後に、浮奇は意識を手放していた。
おもち
TRAININGPsyBorg。やきう部の🔮と、ほけんの先生🐏。窓を開けたら夏の音がした。遠くで鳴く蝉の声をBGMに、グラウンドで走る運動部のかけ声、校舎裏のプールで水泳部が水を蹴る音、窓を開け放っているのか吹奏楽部の高らかな演奏も聴こえてくる。生徒たちの重なる声は青春を耳で味わわせてくれる。
だが外の空気は青い春だなんて言ってられないくらいに夏をまとっていた。触れられそうなくらいモワッと蒸した空気がクーラーで冷えた薬品臭い保健室の中に入り込んでくる。
さっきまでベッドで眠っていた体調不良の生徒が保護者が迎えにきて帰って行ったから、空気を入れ替えようと思って窓を開けたけれど、これで室内の空気が新鮮になっているのかどうかは甚だ疑問だ。
空気の入れ替えは諦めてアルコール消毒を念入りにしようか、と開けたばかりの窓を閉めようとしたその時、ふわりと涼しい風に乗って「先生!」という声が届いた。
2201だが外の空気は青い春だなんて言ってられないくらいに夏をまとっていた。触れられそうなくらいモワッと蒸した空気がクーラーで冷えた薬品臭い保健室の中に入り込んでくる。
さっきまでベッドで眠っていた体調不良の生徒が保護者が迎えにきて帰って行ったから、空気を入れ替えようと思って窓を開けたけれど、これで室内の空気が新鮮になっているのかどうかは甚だ疑問だ。
空気の入れ替えは諦めてアルコール消毒を念入りにしようか、と開けたばかりの窓を閉めようとしたその時、ふわりと涼しい風に乗って「先生!」という声が届いた。
おもち
TRAININGPsyBorg。風邪っぴき🐏と誕生日の🔮。また泣かせちゃった。コンコンとノックをすればすぐに「はい」と声が返ってきた。寝ているかと思ったけど、もう寝るのにも飽きちゃったかな。
「おはようふーふーちゃん。体調はどう?」
「おはよう浮奇。まあまあ……。……無理はできない感じだな」
「ん、無理しないでゆっくり休んで。レストランの予約はちゃんとキャンセルした? ケーキ屋とか花屋、俺が代わりに行ってこようか?」
「……、……俺、寝ぼけておまえに何か言ったか?」
「ううん。でも俺の彼氏ってすっごいロマンチストでキザなんだよね」
「……レストランはキャンセルの連絡を入れた。ケーキは、浮奇が配信中に食べられるように明日予約している。今日しっかり休めば明日は動けるようになるはずだから……というか、動けないと浮奇の配信を見られなくて困るから、今日で体調は治す。それと、……花屋、……」
1768「おはようふーふーちゃん。体調はどう?」
「おはよう浮奇。まあまあ……。……無理はできない感じだな」
「ん、無理しないでゆっくり休んで。レストランの予約はちゃんとキャンセルした? ケーキ屋とか花屋、俺が代わりに行ってこようか?」
「……、……俺、寝ぼけておまえに何か言ったか?」
「ううん。でも俺の彼氏ってすっごいロマンチストでキザなんだよね」
「……レストランはキャンセルの連絡を入れた。ケーキは、浮奇が配信中に食べられるように明日予約している。今日しっかり休めば明日は動けるようになるはずだから……というか、動けないと浮奇の配信を見られなくて困るから、今日で体調は治す。それと、……花屋、……」
おもち
TRAININGPsyBorg。🔮がカフェ店員してる話。特に誕生日の話ではないんですがしっかり長めに書いたので誕生日のお祝いとして投稿です🎂 太陽が傾き始めて空が華やかに彩られる。店の扉が開くたびに空の色が変わっていくこの時間が俺は好きだった。
それに、いつもこのくらいの時間に来る、とあるお客さんも。
週に数回、曜日は決まっていなくて、混雑が途切れて気を緩めた途端に来ることが多いその人は、毎回同じカフェインレスのコーヒーを頼んでいく。アイスかホットかはわりとランダム。寒い日にアイスコーヒーを頼むこともあったし、たぶん気温とかじゃなく気分で選んでいるんだと思う。
そろそろ来るかなと期待した気持ちで扉を見つめていると、本当にその人が扉を開けて入ってきた。俺は表情を綻ばせ、まだ彼が店の中に完璧に入ってはいないのに「いらっしゃいませ」と声をあげた。他の店員たちも次々といらっしゃいませと声を出す。
14702それに、いつもこのくらいの時間に来る、とあるお客さんも。
週に数回、曜日は決まっていなくて、混雑が途切れて気を緩めた途端に来ることが多いその人は、毎回同じカフェインレスのコーヒーを頼んでいく。アイスかホットかはわりとランダム。寒い日にアイスコーヒーを頼むこともあったし、たぶん気温とかじゃなく気分で選んでいるんだと思う。
そろそろ来るかなと期待した気持ちで扉を見つめていると、本当にその人が扉を開けて入ってきた。俺は表情を綻ばせ、まだ彼が店の中に完璧に入ってはいないのに「いらっしゃいませ」と声をあげた。他の店員たちも次々といらっしゃいませと声を出す。
おもち
TRAININGPsyBorg。図書館にお迎えに行く話。高い天井まで届きそうなほど、所狭しと本が詰まった棚が壁を覆っている。もしかして本が緩衝材の役割を果たしていてこんなに静かなのかな。誰の話し声もしないシンと静かな図書館の中は、ページを捲る音とペンが紙を擦る音ばかりで、時々椅子が引かれるとびっくりするくらいにその音が響く。時計の針の音すら聞こえそうなくらいの静寂の中に視線を走らせ、俺は探していた人を見つけ出した。
大きな机には本を何冊も重ねた人たちが間隔を空けて数人座っていた。彼の周りは前後左右ぐるりと席が空いており、俺はそのうちのひとつ、ちょうど中途半端に引かれて動かさずに座ることができそうだった彼の向かい側の椅子に腰掛け、通りがけに適当に手に取った本を開いた。数秒文字を目で追って、すぐに視線を上げる。
2274大きな机には本を何冊も重ねた人たちが間隔を空けて数人座っていた。彼の周りは前後左右ぐるりと席が空いており、俺はそのうちのひとつ、ちょうど中途半端に引かれて動かさずに座ることができそうだった彼の向かい側の椅子に腰掛け、通りがけに適当に手に取った本を開いた。数秒文字を目で追って、すぐに視線を上げる。
おもち
TRAININGPsyBorg。夏のSS。お風呂から上がって寝室に向かった俺を、ドアを開けた途端に寒いくらいの冷気が包み込んだ。うわぁ、とちょっと引きながら部屋の中に入りベッドに横になるふーふーちゃんの隣にくっつく。
「おかえり。ちゃんとあったまってきたか?」
「ただいま。あったまったけどさ……ねえ、ちょっとこの部屋寒すぎない? ふーふーちゃんってそんな暑がりだっけ」
「あ……ふふふ、もう少ししたら温度を上げるよ」
「……なに笑ってんの」
「いいや?」
くっつくだけじゃ足りなくて、彼の体温を探ってぎゅーっと抱きしめる。ふーふーちゃんは俺のことを抱きしめて腕の中に閉じ込めくすくすと楽しそうに笑った。なぁに、と唇を尖らせれば温かい唇がちゅっと触れる。
「浮奇、暑いの苦手だろ?」
1114「おかえり。ちゃんとあったまってきたか?」
「ただいま。あったまったけどさ……ねえ、ちょっとこの部屋寒すぎない? ふーふーちゃんってそんな暑がりだっけ」
「あ……ふふふ、もう少ししたら温度を上げるよ」
「……なに笑ってんの」
「いいや?」
くっつくだけじゃ足りなくて、彼の体温を探ってぎゅーっと抱きしめる。ふーふーちゃんは俺のことを抱きしめて腕の中に閉じ込めくすくすと楽しそうに笑った。なぁに、と唇を尖らせれば温かい唇がちゅっと触れる。
「浮奇、暑いの苦手だろ?」
おもち
TRAININGPsyBorg。服屋🔮と小説家🐏。『ずいぶん前に選考委員をやった文学賞があるだろう。あれの授賞式に参加してほしいんだ』
担当編集からの電話を受けた俺はその言葉を聞いて返事もせずに電話を切った。すぐに再び着信を知らせる携帯をしばらく無視し、あまりのしつこさに仕方なく耳に当てる。
「しつこい」
『ああ、繋がった。電波が悪かったか? 話の途中で切れたから驚いたよ。それで、おまえは授賞式に着て行くような服なんて持っていないだろう。俺の知り合いの店に話を通しておくからちょっと行ってこい』
「……締切があって忙しい」
『先週書き上げたものの返しはまだ来ていないはずだが他にも何か?』
「……次回作の案を練っている」
『それなら外に出て刺激に触れたほうが良いな。散歩がてら行ってこい』
3016担当編集からの電話を受けた俺はその言葉を聞いて返事もせずに電話を切った。すぐに再び着信を知らせる携帯をしばらく無視し、あまりのしつこさに仕方なく耳に当てる。
「しつこい」
『ああ、繋がった。電波が悪かったか? 話の途中で切れたから驚いたよ。それで、おまえは授賞式に着て行くような服なんて持っていないだろう。俺の知り合いの店に話を通しておくからちょっと行ってこい』
「……締切があって忙しい」
『先週書き上げたものの返しはまだ来ていないはずだが他にも何か?』
「……次回作の案を練っている」
『それなら外に出て刺激に触れたほうが良いな。散歩がてら行ってこい』
おもち
TRAININGPsyBorg。仲直りの話。「ただいま〜」
いつも通りの声を意識したそれはちょっとだけわざとっぽかったけど、俺は彼みたいに演技が上手じゃないんだ。震える手を気にしないようにしながら靴を脱いでスリッパを履き、返ってこない「おかえり」の声に泣きそうになった。ほんと、自分勝手で嫌になるな。
キャリーバッグを玄関に置いて俺は家の中に進んだ。チリンと鈴の音がしてリビングの方向から猫が転がるように駆けてくる。俺の足にぽてっとぶつかり頭を擦り寄らせてくる愛猫を抱き上げ「ただいま」とキスをした。続いてパタパタ歩いてきたのは足元に子猫たちを連れた大型犬で、俺は片手で彼らのことも優しく撫でる。
ねえ、君たちのパパはどこにいる? もしかしてお昼寝の途中かな? そうだったら良いんだけど。
2489いつも通りの声を意識したそれはちょっとだけわざとっぽかったけど、俺は彼みたいに演技が上手じゃないんだ。震える手を気にしないようにしながら靴を脱いでスリッパを履き、返ってこない「おかえり」の声に泣きそうになった。ほんと、自分勝手で嫌になるな。
キャリーバッグを玄関に置いて俺は家の中に進んだ。チリンと鈴の音がしてリビングの方向から猫が転がるように駆けてくる。俺の足にぽてっとぶつかり頭を擦り寄らせてくる愛猫を抱き上げ「ただいま」とキスをした。続いてパタパタ歩いてきたのは足元に子猫たちを連れた大型犬で、俺は片手で彼らのことも優しく撫でる。
ねえ、君たちのパパはどこにいる? もしかしてお昼寝の途中かな? そうだったら良いんだけど。