はるち
DONE博に恋するモブオペの物語。知人の恋 ――初めてその人に、名前を呼ばれた日のことを覚えている。
「■■■、だね。任務お疲れ様。どうだった?」
オペレーターのコードネームは本名とは別につける人間と、本名をそのまま用いる人間がいる。俺は後者だった。だけどその時、ドクターに名前を呼ばれた時は、本当に、何を言われたのかわからなかった。
呆然としている俺を見て、その人は首を傾げた。
「……あれ、名前を間違えてしまったかな」
「あ、いえ、いいえ。合ってます。俺のコードネームです」
良かった、と目の前で安心したように笑うその人が、俺の知っているドクターのイメージと合致しない。まるで戦場を空から俯瞰しているような戦術を立て、敵を蹂躙する指揮官。誰よりも何よりも凄絶に、敵を殲滅する指揮官。それが俺のイメージするドクターだった。俺のことも、替えの聞く駒としか見ていないんだろう、と。
5385「■■■、だね。任務お疲れ様。どうだった?」
オペレーターのコードネームは本名とは別につける人間と、本名をそのまま用いる人間がいる。俺は後者だった。だけどその時、ドクターに名前を呼ばれた時は、本当に、何を言われたのかわからなかった。
呆然としている俺を見て、その人は首を傾げた。
「……あれ、名前を間違えてしまったかな」
「あ、いえ、いいえ。合ってます。俺のコードネームです」
良かった、と目の前で安心したように笑うその人が、俺の知っているドクターのイメージと合致しない。まるで戦場を空から俯瞰しているような戦術を立て、敵を蹂躙する指揮官。誰よりも何よりも凄絶に、敵を殲滅する指揮官。それが俺のイメージするドクターだった。俺のことも、替えの聞く駒としか見ていないんだろう、と。
はるち
DONE鯉が良くないものに憑かれるお話。sound of silence 自殺で多いのは首吊りと入水だ。飛び降りは意外と少ない。未遂となって終わることが多いのだ。単純に高さが足りなかったり、下にあった植え込みがクッションとなったり。とはいえ生命こそ助かっても大怪我をすることに変わりはなく、折れた骨によっては一生障害を引きずることにもなりかねない。
だから。
彼女は成功したのだと――そういうべきなのだろうか。
「……はあ」
リーが吐き出した紫煙は、立ちどころに龍門の夜へと溶けていった。屋上の喫煙所である。とはいえ一服しに来たのではなく、人探しの依頼のためだった。一週間前に出て行ったきり戻って来ない娘を探してほしい、と涙ながらに訴えていた母親が依頼人だった。以前から自殺を仄めかすことを口にしていた彼女の捜索届は、当局にも出したのだという。しかし成人の行方不明者の捜索は困難であり、こうしてリーのところまで御鉢が回ってきた。
5737だから。
彼女は成功したのだと――そういうべきなのだろうか。
「……はあ」
リーが吐き出した紫煙は、立ちどころに龍門の夜へと溶けていった。屋上の喫煙所である。とはいえ一服しに来たのではなく、人探しの依頼のためだった。一週間前に出て行ったきり戻って来ない娘を探してほしい、と涙ながらに訴えていた母親が依頼人だった。以前から自殺を仄めかすことを口にしていた彼女の捜索届は、当局にも出したのだという。しかし成人の行方不明者の捜索は困難であり、こうしてリーのところまで御鉢が回ってきた。
はるち
DONE列車で旅をする二人の少し不思議な話銀河鉄道の夜と朝 たたたん、たたたん、たたん。
狭い鉄の箱、その壁を超えて、規則的な音が響く。時折混ざる低く重い音は衝撃となって車両を揺らし、そのどれもが中で眠る私にとっては子守唄のようだった。カーテンを閉ざした後では星の光も月の輝きも、室内に満ちる闇を払うことは出来ない。ここにあるのは、一際濃度の高い夜だ。毛布のように暖かく、そして真綿のように首を絞め上げる安らぎに目を閉じて身を委ねようとした時に、先程までとは異なる振動が響いた。振動は次第に大きくなり、どうやらこちらへと近づいてくるようだった。うるさいな、と閉じかけていた目を開ける。こんなところまで、一体何だろうか。
その疑問に答えるように、突然扉が開いた。
10234狭い鉄の箱、その壁を超えて、規則的な音が響く。時折混ざる低く重い音は衝撃となって車両を揺らし、そのどれもが中で眠る私にとっては子守唄のようだった。カーテンを閉ざした後では星の光も月の輝きも、室内に満ちる闇を払うことは出来ない。ここにあるのは、一際濃度の高い夜だ。毛布のように暖かく、そして真綿のように首を絞め上げる安らぎに目を閉じて身を委ねようとした時に、先程までとは異なる振動が響いた。振動は次第に大きくなり、どうやらこちらへと近づいてくるようだった。うるさいな、と閉じかけていた目を開ける。こんなところまで、一体何だろうか。
その疑問に答えるように、突然扉が開いた。
dokuitu
DONEまた書いちゃった鯉博 (博の性別不定)食べたいよな、先生の夜食
子守唄はあなたの味深夜。孤独な執務室。
ぼちゃぼちゃ
勢いよく小さな白い塊を黒い液体の中に落としていく。総数はもう数えていない。
カップを揺らしながら中身を攪拌して、そのまま一気に呷る。
「ちょっとドクター? 何してるんです?」
……が、中身が口内になだれ込む前に、大きな黄色い手袋に取り上げられてしまった。
ドクターは不満げに下手人たるリーを見上げるが、彼の視線はたった今取り上げた狂気の産物に向けられている。
黒い液体の正体は漆黒としか形容できないほどに濃い珈琲で、少し鼻を利かせるだけで目が覚めそうな苦味を感じた。
テーブルの上には、空っぽなブドウ糖の包み。
確かに甘味ではあるだろうが、リーの記憶が正しければこれは食用ではない。
つまり、現在リーを見上げながらとても不満そうな顔をしている指揮官殿は、極端に苦く煎れた珈琲に、こっそり持ち出した食用ではない人工甘味料を何個も入れて飲もうとしていた訳だ。
3111ぼちゃぼちゃ
勢いよく小さな白い塊を黒い液体の中に落としていく。総数はもう数えていない。
カップを揺らしながら中身を攪拌して、そのまま一気に呷る。
「ちょっとドクター? 何してるんです?」
……が、中身が口内になだれ込む前に、大きな黄色い手袋に取り上げられてしまった。
ドクターは不満げに下手人たるリーを見上げるが、彼の視線はたった今取り上げた狂気の産物に向けられている。
黒い液体の正体は漆黒としか形容できないほどに濃い珈琲で、少し鼻を利かせるだけで目が覚めそうな苦味を感じた。
テーブルの上には、空っぽなブドウ糖の包み。
確かに甘味ではあるだろうが、リーの記憶が正しければこれは食用ではない。
つまり、現在リーを見上げながらとても不満そうな顔をしている指揮官殿は、極端に苦く煎れた珈琲に、こっそり持ち出した食用ではない人工甘味料を何個も入れて飲もうとしていた訳だ。
dokuitu
DONEとうとう書いちゃった鯉博(性別不明)脳内設定と基地ボイスの衝突事故で大爆発したやつです
ほぼほぼ捏造注意
その甘美は月のように前々から協力関係だったリー探偵事務所の所長を、本格的にオペレーターとして迎えてから数日後の事。
ドクターは通り過ぎる廊下の向こう側に、彼の姿を見た。
背の高さと黒を基調とした服、そして大きな尾はここからでもよく目立つ。
「やあ」と一言声をかけようとした瞬間、彼が口元に手を寄せる仕草を確認してすぐに駆け寄った。
「こら、艦内は禁煙だぞ」
腕に手をかけて引き寄せる。
不意をついたからか、筋肉質の腕は特に抵抗する事もなくドクターの細腕にされるがままに動いた。
だが、その手の中にライターのようなものは無い。
疑問に思って顔を黄色い手袋の掌から上に向けると、小さな黒眼鏡の奥、金色の瞳と目が合った。
一瞬見開かれていた目は動揺を隠すためか、即座に緩く細められる。
1892ドクターは通り過ぎる廊下の向こう側に、彼の姿を見た。
背の高さと黒を基調とした服、そして大きな尾はここからでもよく目立つ。
「やあ」と一言声をかけようとした瞬間、彼が口元に手を寄せる仕草を確認してすぐに駆け寄った。
「こら、艦内は禁煙だぞ」
腕に手をかけて引き寄せる。
不意をついたからか、筋肉質の腕は特に抵抗する事もなくドクターの細腕にされるがままに動いた。
だが、その手の中にライターのようなものは無い。
疑問に思って顔を黄色い手袋の掌から上に向けると、小さな黒眼鏡の奥、金色の瞳と目が合った。
一瞬見開かれていた目は動揺を隠すためか、即座に緩く細められる。