bintatyan
DOODLE滝安←モブ♀ちゃんです演技派の人珍しいことに、わかりやすく安原の機嫌が悪かった。
今日はバイトがないと言うので、滝川の仕事までの間に早めの夕食を共にしようと待ち合わせたのは良いのだが、その待ち合わせの時点で安原はいつもと違ったのだ。遅れたわけでもないし、直接何か言ってくるでもなく本人も取り繕おうとしている様子ではあるので原因は自分ではないのだろうと、滝川は一旦気にしないことにした。
そうやってなんでもないふうにいつも通り過ごしていると、安原の機嫌も向上してくる。目についたからとふらりと入ったカジュアルなイタリアンの食事が思いがけずおいしかったのも功を奏したのだろう。何か嫌なことがあったとか気がかりなことがあるとか、その程度のことは誰にでもあるものだし、恋人になる前にだってあっただろうに今まで彼は上手に隠してきたのだ。疲れました大変でしたとぶつくさ言ってぐでんと座り込むことこそあれど、それすらある程度取り繕って他者に気を遣わせないためにあえてやっているようなところがあったから、少しずつ滝川に甘えるようになっているのだと思うとむしろ少し得意な気分にさえなる。
9958今日はバイトがないと言うので、滝川の仕事までの間に早めの夕食を共にしようと待ち合わせたのは良いのだが、その待ち合わせの時点で安原はいつもと違ったのだ。遅れたわけでもないし、直接何か言ってくるでもなく本人も取り繕おうとしている様子ではあるので原因は自分ではないのだろうと、滝川は一旦気にしないことにした。
そうやってなんでもないふうにいつも通り過ごしていると、安原の機嫌も向上してくる。目についたからとふらりと入ったカジュアルなイタリアンの食事が思いがけずおいしかったのも功を奏したのだろう。何か嫌なことがあったとか気がかりなことがあるとか、その程度のことは誰にでもあるものだし、恋人になる前にだってあっただろうに今まで彼は上手に隠してきたのだ。疲れました大変でしたとぶつくさ言ってぐでんと座り込むことこそあれど、それすらある程度取り繕って他者に気を遣わせないためにあえてやっているようなところがあったから、少しずつ滝川に甘えるようになっているのだと思うとむしろ少し得意な気分にさえなる。
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DOODLE滝安(安不在モブ視点)前作『ラブソング』のオマケです
選択好きなバンドのベーシストに恋人がいた。
ガチ恋、とまではいかないつもりだった。友達が今ネットで話題だと盛り上がっていた曲を聴いてみたら、思いのほか刺さった。それで意識してそのバンドを追いかけるようになり、そのすぐ後に彼らのメジャーデビューが決まった。
友達はギターのファン。私はベースのタキガワノリオのファンになった。見た目もカッコいいと思ったけれど、生でライブを観に行くとリズム隊の上手さが際立っていて、だからその技術に惚れて、その上で性格も好きになれたからラッキー。そのつもりだった。
ノリオが配信をする頻度は、他メンバーより明らかに低い。理由を聞かれた本人は「なんか照れるじゃん」と笑うばっかりで、それが本音なのかどうかも分からない。けれど、そういうところも好きだった。ガツガツとファンやフォロワーを集めようとしない、淡々とした振る舞いがカッコいい、と思った。
4141ガチ恋、とまではいかないつもりだった。友達が今ネットで話題だと盛り上がっていた曲を聴いてみたら、思いのほか刺さった。それで意識してそのバンドを追いかけるようになり、そのすぐ後に彼らのメジャーデビューが決まった。
友達はギターのファン。私はベースのタキガワノリオのファンになった。見た目もカッコいいと思ったけれど、生でライブを観に行くとリズム隊の上手さが際立っていて、だからその技術に惚れて、その上で性格も好きになれたからラッキー。そのつもりだった。
ノリオが配信をする頻度は、他メンバーより明らかに低い。理由を聞かれた本人は「なんか照れるじゃん」と笑うばっかりで、それが本音なのかどうかも分からない。けれど、そういうところも好きだった。ガツガツとファンやフォロワーを集めようとしない、淡々とした振る舞いがカッコいい、と思った。
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DOODLE前半モブ視点の滝安若干、過去作の「連れて逃げてね」(R18)とリンクしてる部分があります。
その信号は青「あ、……これ、お酒だ」
よほど喉が渇いていたのか、勢いよくグラスの中身を飲んだ安原は、困った顔をしてグラスを置いた。
大学でできたこの良き友人は、成績優秀かつ明るく優しく誰にでも親切で、物怖じせず広い視野を持つという到底同年代とは思えないよくできた好人物だった。その上遊び心もあって冗談もよく言う。安原がいると何をしていても心強く、楽しかった。そんな安原は、どうやらかなりアルコール耐性が低いらしい。飲み会でも薄い酒を時間をかけてようやく一杯、その間にもソフトドリンクやら水やらを酒と同量以上摂取することでどうにかこうにかという塩梅だった。それでも飲み会の雰囲気が好きらしく、酒の席を避けずによく顔を出す。今日も同じだ。
6408よほど喉が渇いていたのか、勢いよくグラスの中身を飲んだ安原は、困った顔をしてグラスを置いた。
大学でできたこの良き友人は、成績優秀かつ明るく優しく誰にでも親切で、物怖じせず広い視野を持つという到底同年代とは思えないよくできた好人物だった。その上遊び心もあって冗談もよく言う。安原がいると何をしていても心強く、楽しかった。そんな安原は、どうやらかなりアルコール耐性が低いらしい。飲み会でも薄い酒を時間をかけてようやく一杯、その間にもソフトドリンクやら水やらを酒と同量以上摂取することでどうにかこうにかという塩梅だった。それでも飲み会の雰囲気が好きらしく、酒の席を避けずによく顔を出す。今日も同じだ。
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DOODLE付き合ってる滝安(全然直接会話しない)恋人は仙人あれ、と思った。聞き覚えのある声がする――薄い板で区切られたすぐ近くから。
チェーンの居酒屋で、滝川はバンド関係の友人たちと酒を飲んでいた。価格が安く、そのぶんアルコールも薄い。酒が目当てなら来ない場所だったが、12月も末になって近頃は酷く冷える。だらだらと友人の愚痴を聞きつつ駄弁る会ということであったので、手近な店に適当になだれ込んだのだった。
そこで、席につき、しばらくくだらない話をしていたのだが。
『……だよね、それはでも……』
席は半個室といえるかどうか、座った滝川の頭の上あたりが格子状になっている木製の薄い壁で、テーブルごとに区切られている。賑わっているので特定の誰かの会話を聞き取るのは難しいが、さすがに隣のテーブルから恋人の声がすれば判別は簡単だった。滝川の背中の後ろ、薄い木の壁を隔てたところに安原修が座っているのではないかと思う。
5902チェーンの居酒屋で、滝川はバンド関係の友人たちと酒を飲んでいた。価格が安く、そのぶんアルコールも薄い。酒が目当てなら来ない場所だったが、12月も末になって近頃は酷く冷える。だらだらと友人の愚痴を聞きつつ駄弁る会ということであったので、手近な店に適当になだれ込んだのだった。
そこで、席につき、しばらくくだらない話をしていたのだが。
『……だよね、それはでも……』
席は半個室といえるかどうか、座った滝川の頭の上あたりが格子状になっている木製の薄い壁で、テーブルごとに区切られている。賑わっているので特定の誰かの会話を聞き取るのは難しいが、さすがに隣のテーブルから恋人の声がすれば判別は簡単だった。滝川の背中の後ろ、薄い木の壁を隔てたところに安原修が座っているのではないかと思う。
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DOODLE付き合ってる滝安エロくないけど会話が不健全
このあとすること恋人のことをいやらしい目で見るのはむしろ健全だ、と滝川は思う。誰彼構わずエロいなと思うようなケダモノよりかはずいぶん一途でいじらしいことではないか。だが、最近の己はさすがに度が過ぎているように思えてならなかった。
クッションを抱え込んて床に転がっている安原は、至って普段通りにTシャツとゆったりとしたハーフパンツという部屋着姿で、図書館で借りてきたらしい仏教の歴史がどうのこうのいう分厚い本を眺めている。せっかく安原の部屋に2人きりだというのになぜ、と思うのだが、安原は「分からないことや気になることがあったらすぐその道の人に聞けるのって有り難いですね」と満足げで、その表情は悪くない。
そんなわけで、たまに質問が投げかけられるのをなるべく丁寧に答えてやっていた。
2755クッションを抱え込んて床に転がっている安原は、至って普段通りにTシャツとゆったりとしたハーフパンツという部屋着姿で、図書館で借りてきたらしい仏教の歴史がどうのこうのいう分厚い本を眺めている。せっかく安原の部屋に2人きりだというのになぜ、と思うのだが、安原は「分からないことや気になることがあったらすぐその道の人に聞けるのって有り難いですね」と満足げで、その表情は悪くない。
そんなわけで、たまに質問が投げかけられるのをなるべく丁寧に答えてやっていた。
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DOODLE『一歩』の翌日浮かれた滝の独白 あからさま
浮かれポンチすごかった…、と滝川は1人、車内で脱力した。
昨夜、最近ようやく恋人になった安原の部屋に泊まった。もちろん下心はあった。安原も同じようだったので、自分が初めての恋人らしい安原には展開が早すぎるかもしれないと思いつつまあいいかと喜んで流された。
途中までは良かった。滝川は少々暴走気味だったが、笑い話の範囲だろう。ただ、ほとんど初めて見るくらい本気で血の気の引いた顔をした安原に、頭を殴られたような衝撃を受けた。
彼と初めて出会った緑陵高校の件で、自覚のないままに行使された学生たちの呪詛を返す話になった時にはさすがに顔色が悪かったけれども、基本的に安原の精神は強靭で打たれ強く、また非常にマイペースだ。命にかかわる可能性を示唆されても毅然としていた。
1822昨夜、最近ようやく恋人になった安原の部屋に泊まった。もちろん下心はあった。安原も同じようだったので、自分が初めての恋人らしい安原には展開が早すぎるかもしれないと思いつつまあいいかと喜んで流された。
途中までは良かった。滝川は少々暴走気味だったが、笑い話の範囲だろう。ただ、ほとんど初めて見るくらい本気で血の気の引いた顔をした安原に、頭を殴られたような衝撃を受けた。
彼と初めて出会った緑陵高校の件で、自覚のないままに行使された学生たちの呪詛を返す話になった時にはさすがに顔色が悪かったけれども、基本的に安原の精神は強靭で打たれ強く、また非常にマイペースだ。命にかかわる可能性を示唆されても毅然としていた。
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DOODLE滝安名有りのモブちゃんがいる
「恋人できたの?」「恋人とすること」とゆるーく繋がってる
恋人できたよ「ぼーさんっ、彼女できたの!?」
数日ぶりにSPRのドアをくぐった滝川に投げかけられた第一声は、予想だにしないものであった。
オフィスには、麻衣とタカ、そしてもう一人。
「トキ?」
滝川が趣味でやっているバンドを応援してくれている、大学生の時田あゆみだった。
マイナーなアマチュアバンドのおっかけとしては少しばかり珍しいかもしれない、清楚という形容がぴったりの外見だ。ライブに来るときはさすがにヒールは履いてこないのだが、今日はかかとの細いパンプスで、白い薄手のニットに膝丈のブラウンのスカート姿だ。女性のファッションには詳しくないが、靴以外はいつもこういう雰囲気の服をしているよな、という印象は滝川にもある。
「ノリオ……」
11988数日ぶりにSPRのドアをくぐった滝川に投げかけられた第一声は、予想だにしないものであった。
オフィスには、麻衣とタカ、そしてもう一人。
「トキ?」
滝川が趣味でやっているバンドを応援してくれている、大学生の時田あゆみだった。
マイナーなアマチュアバンドのおっかけとしては少しばかり珍しいかもしれない、清楚という形容がぴったりの外見だ。ライブに来るときはさすがにヒールは履いてこないのだが、今日はかかとの細いパンプスで、白い薄手のニットに膝丈のブラウンのスカート姿だ。女性のファッションには詳しくないが、靴以外はいつもこういう雰囲気の服をしているよな、という印象は滝川にもある。
「ノリオ……」
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DOODLEできてない滝安ゴムの話
恋人できたの?「……彼女できたの?」
指で摘んで見せたのは、未開封のコンドームであった。
滝川が勝手知ったる渋谷サイキックリサーチのオフィスに訪れたところ、そこにいたのは事務のバイトを務める安原修だけだった。
所長のナルや調査員のリンの姿が見えないことは特に珍しくもないが、麻衣は学校が終わっている時間ならば大抵はいる。もちろん、バイト代のために。
「こんにちは、滝川さん」
「よう少年。1人か」
「所長とリンさんはいつも通りです」
言って、安原は所長室と資料室に視線を向ける。あの二人が閉じこもっているのはなるほど通常営業だ。
「谷山さんは今日はお休みだと連絡がありました。どうやら風邪を引いたそうで」
「あれま」
「先ほど松崎さんがいらして、そういうことならと谷山さんに差し入れを持っていく算段をしていましたよ。必要ならキッチリ病院連れていくから任せなさい、だそうです」
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滝川が勝手知ったる渋谷サイキックリサーチのオフィスに訪れたところ、そこにいたのは事務のバイトを務める安原修だけだった。
所長のナルや調査員のリンの姿が見えないことは特に珍しくもないが、麻衣は学校が終わっている時間ならば大抵はいる。もちろん、バイト代のために。
「こんにちは、滝川さん」
「よう少年。1人か」
「所長とリンさんはいつも通りです」
言って、安原は所長室と資料室に視線を向ける。あの二人が閉じこもっているのはなるほど通常営業だ。
「谷山さんは今日はお休みだと連絡がありました。どうやら風邪を引いたそうで」
「あれま」
「先ほど松崎さんがいらして、そういうことならと谷山さんに差し入れを持っていく算段をしていましたよ。必要ならキッチリ病院連れていくから任せなさい、だそうです」