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    ドラコルル長官と副官の小説-13

    ・友情色強め
    ・副官の有能感が薄い
    ・副官が可哀想
    ・全3話予定

    #ドラコルル
    dracol
    #副官
    adjutant
    #長官

    8 -第一章-カタカタとカップを持つ手が震える。

    …大丈夫だ。このまま、そおっと置けば…

    「副官」
    _ガチャン

    自分を呼ぶ声に、副官は動揺のあまり、手を滑らせてしまった。音を立てて置かれたカップからはコーヒーがこぼれ落ち、執務机の天板を汚している。飛び散った液体は、目の前の上官の軍服にも染みを作ってしまっていた。
    「も、申し訳ありませ…」
    「わしに名を呼ばれるだけで、そこまで動揺するとはな…。そんなにわしが恐ろしいか?」
    ギルモアは口角を上げながら、ニヤリと副官に目をやった。
    「め、めっそうもございません。じ、自分はただ…」
    「わしの言葉を否定するか」
    ガシリとギルモアが副官の右腕を掴む。老齢とはいえ、軍のトップに昇り詰めた男だ。力強く握られ、副官の腕は悲鳴を上げた。
    「そこに立て」
    ギルモアは部屋の隅を顎で示した。
    副官は、解放された右腕をさすり、震えながらいつもの立ち位置に着いた。






    「はぁ…はぁ…はぁ……ッ…」
    副官は痛みに脇腹を抱え込んだ。いつものことだが、ひどく息が苦しい。
    「よく耐えた。弾切れだ」
    ギルモアは銃を執務机に置くと、副官に向き直った。副官は脇腹の痛みに耐えかね、床にうずくまっている。
    「わしの銃の腕はどうだ?」
    「…お見事です。将軍…」
    「やはり、お前は逸材だ。6発全て受け止めるとはな。まさに弾除けとはこのことだ」
    ギルモアは満足げに笑った。




    ギルモアが執務室から出て行くのを見届けた副官は、その場に座り込んだ。

    …何度目だろう。この仕打ちは…

    将軍付きとして、指名されたときは信じることができなかった。なぜ自分が選ばれたのか理解することができなかった。副官という役職は、その主人たる上官の補佐だけでなく、代理でもあるのだ。数人の小隊を率いていただけの自分が、なぜそんな大そうな役職を任されることになったのか、あの時は全く分からなかった。部下たちはこの大昇進を、名誉だと言ってくれた。自分もはじめはそう思っていた。

    『そこに立て』

    はじめてギルモア将軍の執務室を訪れたとき、最初に受けた命令だった。言われた通り、指示された場所に立ってすぐ、将軍は自分に銃を向け、何の躊躇もなく、引き金を引いた。
    「…がっ…!!」
    弾が防弾ベストにめり込むと同時に、すさまじい衝撃が体に走る。肋骨が折れたのではないか。2発が限界だった。
    痛みで床にうずくまる副官にギルモアは冷たく言い放った。

    「今日から貴様は、わしの弾除けだ。わしのために命を捨てろ」











    「将軍はおいでか?」
    車を降りたドラコルルは、迎えに出て来た副官に問うた。
    「先ほど、大統領の官邸から戻られたところです。ドラコルル長官がいらっしゃるのを心待ちにされていました」
    副官が答えた。
    「それは、お待たせして申し訳ない。すぐに取り次いでくれ」
    ドラコルルの言葉に、副官はピシアの長官の来訪を告げるべく通信機を手に取った。


    数ヶ月前、政府公認のある機関が発足した。前身は軍の諜報部であり、以前は他国の脅威に備え、国防に特化した情報収集を行っていた。しかし、その優れた情報収集能力は、ピリカ全土にも平和をもたらすことになると、ギルモアは進言した。星一つで、一つの国を成すピリカでは、全ての地域の国民の生活や意見を政府が把握しているとは言い難い。表向きは、皆が幸せに暮らせるよう、国民のあらゆる情報を集め、議会に情報を提供する機関。それがピシアだった。


    そのピシアの長官は、数日おきに軍のトップであるギルモアの元を訪れていた。もともとの前身が軍の諜報部なのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、それでも副官には違和感があった。

    …いくらなんでも、この頻度は多すぎるのでは?

    副官は隣を歩く男の姿を横目で観察した。深くかぶられた軍帽とサングラスのため、その表情は読めない。だが、この男にまつわる悪い噂は、何度か聞いたことがあった。

    …いざとなったら俺が将軍を守らねば。

    どんなにひどい仕打ちを受けようとも、自分にとってギルモア将軍は守るべき存在だ。自分はあの人の副官なのだから。



    ギルモアの執務室の前に着いた副官は扉に手をかけた。
    「将軍」
    扉を開き、副官はギルモアに声をかけた。ギルモアは執務机に広げていた書冊を読むことをやめ、顔を上げた。
    「ピシアのドラコルル長官がお見えです」
    「ご苦労」
    ギルモアは立ち上がると中央のソファに移動し、ゆっくりと腰を下ろした。ドラコルルも部屋に入り、下座に腰を下ろした。
    「…紅茶を淹れてきます」
    副官は頭を下げると執務室を後にした。




    「よい部下をお持ちですね」
    執務室を出た副官の足音が聞こえなくなったのを確認し、ドラコルルは口を開いた。
    「というと?」
    ギルモアが問うた。
    「あの男のことですよ。ここへの道中、私から一瞬たりとも視線をはずさなかった。私はずいぶんと警戒されているようですね」
    「仕方あるまい。悪魔のように冷酷なピシアの長官なのだろう?副官である以上、わしを守るのが、あの男の責務だ」
    「副官には計画のことはお話しになっていないので?」
    ギルモアはしばらく間を置いてから答えた。
    「…あの通り、気の弱い男だ。今、話せば必ず動揺するに決まっておる。動揺どころか大統領側に告げ口をしかねん。わしでさえ、決行には迷いがあるというのに」
    「いちばんの側近であるはずの副官を全く信用なさっていないというわけですか。私でしたら耐えられませんな」
    「お前はあの男を買いかぶり過ぎだ」
    ギルモアが告げた。
    「あまり関わっておらんお前には分からんだろうが、真面目な割に、ところどころで詰めが甘い。感情も顔に出やすい。さっきのお前への視線もそうだ」
    ギルモアは続けた。
    「本来ならば、気づかれてはならん。相手に警戒していることを悟られるなどもっての他だ」
    「ずいぶんと副官に手厳しいことで。あの忠誠心は役に立つと思いますが?」
    「忠誠心と体格だけで副官にしているようなものだ。いざというときは、あの男に弾除けになってもらう」
    「………」
    ドラコルルはしばらく黙り込んだ。そのとき執務室の扉が開かれ、トレーを持った副官の姿が現れた。


    副官はトレーをソファテーブルに置くと、ティーポットに入った紅茶をカップに注ぎ始めた。そのときの表情にドラコルルの目が止まった。

    …ずいぶんと緊張しているような?

    副官はカップに紅茶を注ぎ終えると、ドラコルルの前に置くべく、ソーサーごと持ち上げた。その手はカタカタと震えている。

    「副官」

    ギルモアの声が執務室に響いた。その瞬間、ガチャン!と音がし、ドラコルルは膝に熱い痛みを感じた。テーブルの上のカップは倒れ、こぼれた紅茶が自身のズボンを濡らしていた。
    「ド、ドラコルル長官!?も、申し訳ありませ…」
    「副官」
    再度、執務室にギルモアの声が響いた。ピンと空気が張り詰める。ドラコルルは副官に目をやった。その顔は青ざめ、体はガタガタと震えていた。

    ドラコルルは今度はギルモアに目をやった。

    ギルモアは静かに副官を見つめている。が、すぐにその顔を緩ませると副官に告げた。
    「…氷をとってこい」
    その言葉を受け、副官は大急ぎで執務室から出ていった。


    「見ての通りだ」
    副官が出て行ってしばらく経った頃、ギルモアは口を開いた。
    「この通り、紅茶のひとつも満足に淹れることが出来ん。膝は大事ないか?」
    ギルモアがドラコルルにタオルを差し出した。
    「少々服が汚れただけです。今日はずいぶんと緊張していたようですね。前来たときとは様子が違う」
    タオルで下半身を拭いながらそう答えたとき、ドラコルルの頭にある考えが浮かんだ。
    「…まさか毒でも?」
    「…ぶっ!はっはっはっ!」
    ギルモアの笑い声が執務室に響いた。
    「そんな根性も覚悟もあの男にはない。気になるのなら、本部にそのタオルを持っていけ。鑑定すれば毒の成分くらい、すぐに出よう」
    今なお笑い続けるギルモアをドラコルルはじっと見つめた。
    「では、そうさせていただきます。将軍、今回の件は、あまり副官を責めないでやってください。仮に毒が入っていたとしても、悪い噂の絶えない私から、将軍を守らんとする忠誠心でしょう」
    ドラコルルはタオルを鞄にしまい込んだ。





    「…先ほどは申し訳ありませんでした」
    ギルモアとの会合を終えたドラコルルをエントランスへ案内しながら、副官はしょんぼりと肩を落とした。
    「気にしなくてもいい。失敗の一度や二度、誰にでもある。私よりも君の方が心配だ」
    ドラコルルの言葉に、副官が歩みを止めた。
    「ギルモア将軍のことだ。私が帰った後、きつくお叱りを受けるのではないか?」
    ドラコルルは副官の顔をじっと見つめた。副官はしばらく何も答えなかった。

    「…大丈夫です」
    しばらくの沈黙のあと、副官は笑顔を見せた。
    「叱られるのは慣れています。それに、将軍はこんな俺でもお側に置いてくださいます。絶対に任を解いたりはしません。こんな俺が、将軍付き副官だなんて今でも信じられないくらいです」
    副官はニッと笑った。そんな副官にドラコルルも微笑んだ。
    「私もこの立場になる前はいろいろ言われたものだ。このあとのお叱りは、話半分で聞いておけ。反省の態度だけは崩さんようにな」
    そう言うと、ドラコルルはポンッと副官の肩を叩いた。




    「ここでいい」
    エントランスに着き、ドラコルルは副官に顔を向けた。
    「承知しました。どうかお気をつけて」
    「ああ。ところで一つ、気になることがあるのだが…」
    ドラコルルの言葉に、副官はキョトンとしながら話の続きを待った。

    「君、防弾ベストはいくつ持っている?」

    ドラコルルの言葉を聞いた瞬間、副官の顔がこわばった。ドラコルルはさらに続けた。
    「上官を守ることは、副官職の責務の一つだ。だから、防弾ベストの着用が義務になっている。…だが、毎回君に会うたびに胸元のナンバーが変わっているのはなぜだ?そんな頻繁に変えるものでもないだろう?」
    ドラコルルの言葉に副官は何も答えることが出来なかった。しばらくの沈黙ののち、副官は、声をしぼり出すようにして答えた。
    「…じ、自分は、汗っかきなもので。す、すぐ臭いがついてしまうんです」
    その言葉にドラコルルは笑みを浮かべた。
    「…そうか。妙なことを聞いてすまなかった」





    本部への帰り道、ドラコルルは車を運転しながら先ほどの副官とのやりとりを思い出していた。

    …将軍のおっしゃる通りだ。あの男は分かりやす過ぎる。

    ドラコルルは静かに独りごちた。

    「汗っかきだと?まるで子どもの言い訳だ。今は冬だぞ」


     



    つづく
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