邂逅オレは昔から喧嘩をすることを普通のことだと思っていた。
オレが小学生の頃から一緒につるんでいた幼馴染の一人である棪堂哉真斗に「それが普通だ」と、そう言われ続けてきたからだ。
でも、なんとなくその哉真斗の発言にオレは違和感を感じていた。
それなら何故オレたちは他の人間に、恐ろしいものを見るような目で見られているんだ?
きっとオレは心の中で気付いていたのかもしれない、オレたちがやっていることが“異常”であるということを……。
「桜君、少し話をしてもいいかな」
「……なんだよ」
放課後の教室でオレを呼び止めたのはこのクラスに配属になった教育実習中の教師だった。
どうせ、あまり学校に行かないし学校の人間となんて深く関わることは無いだろうと思っていたから名前すら覚えていなかったが。
だからこそそいつのその言葉にオレは困惑した、最近学校で大人に話しかけられたのは生活指導の教師に髪の毛を染めろだの言われた時以来だった気がする。
「キミがよく一緒にいる二人組がいるだろう?」
アイツらの話題が出てオレはつい顔が強張り、そいつを睨みつける。
「……アイツらが、一体どうしたっていうんだよ」
オレの反応を見ては真剣な顔つきで「あの二人と一緒にいるのはやめてほしい」と言うのだ。
「……は?」
アイツらは幼い頃にこの奇っ怪な見た目をして両親にすら爪弾きにされていたオレを受け入れてくれた唯一の存在だった。
今のオレがあるのはアイツらの……哉真斗と矢のお陰なんだ、アイツらはオレの命の恩人なんだ。
アイツらと離れたら……オレは……また、一人ぼっちに戻るしかなくなる。
そんなのは、嫌だ。
「彼等は危険だ、このままだと後々に大変な過ちを犯す危険性がある」
「……な、何を言って」
あの二人が、そんなことをする理由は……ない、とは言い切れなかった。
「こんな喧嘩じゃなくて、焚石の為にももっと大きなことをやりてぇなぁ……」と矢を見ながら哉真斗は言っていたことがある……。
それが、そのままの意味だったのなら……この男の言うことも理解が、出来てしまう。
「あの二人とずっと関わっていたキミは、そのことに心の底では気づいているんだろう……あの二人の危険性に……」
「……っ!」
たまに何を考えているか分からなくなる哉真斗に、一度喧嘩をして暴れたら手のつけられない矢……。
でも、アイツらは初めてオレをオレだと認めてくれたたった二人のオレの理解者。
分かってる、あの二人は歯止めが効かなくなればどんなことでもやらかしてしまう危険性があることを……でも、オレにはその二人を止めることができなかった……逆らえば二人に捨てられてしまうかもしれない、そう思ったから。
「あの二人に付き従い、非行を続ける……キミは本当にそれでいいのかい、桜君」
そう、眼帯で片目は隠れているがオレの目を見つめながら真剣な顔で教師は言う……。
コイツは、今まで会った他の大人とも……哉真斗や矢とも違う気がした。
オレのことを真剣に心配をしてくれて、そして本気でこんなオレの身を案じてくれている。
「お前……どうしてオレみたいな不良を、しかも変な見た目のヤツを気にかけるんだよッ!」
「キミの見た目……? それが、どうしたんだい……オレはキミがオレの生徒だから気にかける、それのどこがおかしいのかな?」
「……は?」
オレが感情的になってつい言ってしまった言葉に対して教師はきょとん、としながらそう言い放つ。
「それに、キミのその左右違った瞳もツートンカラーの髪の色も生まれ持ったキミの個性だ。 オレは綺麗だと思うよ」
オレの見た目に嫌悪の目を向けるどころか、それを“綺麗”だのと宣う教師の言動に突然オレの顔にブワッと熱が籠もるのを感じた。
「なななな……何言ってやがるっ!!?」
そうオレが怒鳴ると、教師は「本当のことなのになぁ……」といいながら、胡散臭い笑みを浮かべていた。
それが、オレとただの教育実習生だと思っていた男、“蘇枋隼飛”との初めての邂逅であった。
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