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    kikhimeqmoq

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    kikhimeqmoq

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    2020/12/31 伏五が出会った年の年越しです。

    #伏五
    volt5

    「僕さぁ、紅白見んのって初めてなんだよね」
    自分だって初めてだ。
    こんな暖かい部屋で、炬燵の上いっぱいにお菓子を広げ、大人しくテレビを見る大晦日なんてそうそう無い。
    津美紀の母親はスナックで働いていて、クリスマスや大晦日のイベント日は子供達を置いて出勤していた。子供二人だけで見るテレビなんて大して面白いこともなく、冷えた晩飯を食べて早々に寝た。初詣もない。そういやサンタだって来なかった。
    でも今日は大人が、悟がいるから大晦日に夜更かしをしている。だからテレビの内容はどうでもいい。紅白ってすげえ人がいるんだな。
    「津美紀ちゃんは?」
    津美紀は悟に聞かれた質問を笑って誤魔化した。
    津美紀から返事をもらえなかった悟は、炬燵のミニ羊羹をほいほいと口に突っ込む。ついでに残った羊羹で積み木を始めた。明らかにテレビに飽きているのに帰らないのはなんでだろう。夕方突然やってきてから、かれこれ三時間以上は炬燵に入っている。テレビを見る以外は、お菓子を食べるか、津美紀にお茶が欲しいと我儘を言うか、俺を揶揄うくらいで他のことは何もしていない。大人が酒も飲まずにこんなにも何もしないのを初めて見た。
    確かにここは暖かいけれど。

    「悟くんは大晦日にいつも何をしてるの?」
    炬燵で暇そうにしている悟を気遣って津美紀が聞いた。気遣ったというか、単に無言が嫌なだけだったかもしれない。
    「だからさあ、悟って呼びすてていいよ」
    悟の頼みを聞いた津美紀は困ったように微笑んで首を傾げた。津美紀と悟の会話の殆どは一方通行で津美紀が困って終わる。こうやって困った時だけ津美紀は年相応に子供らしく見えた。いつもは小さい大人みたいなのに。
    「しょうがないな……」
    またも津美紀に振られた悟は呼び捨てを諦める。
    「えっと何だっけ?」
    「大晦日は何をしてたんですか?」
    「あー?同期とオールで遊んだり?」
    「オール?」
    津美紀が不思議そうに聞くと悟笑い、大人になったらね、と髪を撫ぜた。
    「あとねぇ、その同期と海まで行ったりねー」
    冬の海の何が楽しいのか自分には全く分からなかった。でも、さっきよりもずっと嬉しそうにテレビ画面を見る悟の顔を見ると、分からないのは自分が子供だからじゃないんだろうな、とふと思う。この人の思い出の中で、寒くて暗い冬の海が、今見るテレビのアイドルよりも眩しいのだ。たぶん。なぜなのか、といったところまではよく分からないけれども。
    静かな部屋に紅白の賑やかな声だけが響く。夜も更け、暖かさと静かさに目蓋が重くなってきたその頃に隣の男がボソボソと何か呟いた。
    「実家じゃこんなん見れないしね」
    あれ?と思った隙に、小さく言った口にすぐにチョコパイが放り込まれ、続きを聞くことが出来なかった。
    自分と津美紀も実家という実家はもうない。悟と出会ってから、前に津美紀の母と三人で住んでいた部屋を引き払ってしまった。
    それなら子供二人で暮らすこの部屋が自分達の実家か。今日の悟はその二人の部屋にすっかり馴染んでいるが、この人はいったい俺の何だろう。
    保護者らしいのだけど、生活費以外の保護者らしいことはしてもらったことがなく、師匠……としては尊敬しているが、力の底が見えず、俺はまだついていくこともできていなかった。
    炬燵にうつ伏せ、目を閉じながら、悟ことを考えるのを止められない。側にいればその滅茶苦茶加減に腹が立つのに、だからといって離れることもできず、年の瀬に言い表せない荒れた気持ちでいっぱいになっている。
    黙って頭をぐるぐるさせている自分の隣で、悟がまた呟く。たぶん俺が寝ていると思っている。
    「あいつ、これ見てんのかな…………誰と」
    なぜだか唐突に冬の海が脳裏に浮かび、泣きたくなった。
    「さとる」
    「なに?」
    お子様は寝てんのかと思ってた。聞かれたのを誤魔化すように悟は俺の癖っ毛をクシャクシャとかき混ぜた。
    「いってえよ」
    頭を掴む手が強すぎて、ウザいと頭を振ると悟は愉快そうに背を反らせて笑った。
    良かった。笑った。
    「冬の海なんてさあ、寒いから春になったら俺と海に行こう」
    「なに?連れてってくれんの?春の海」
    ニヤニヤと人の悪い笑顔で俺を覗き込む悟は、揶揄うような口元とは逆に素直に嬉しそうだった。
    そう、俺が連れてってやる。と言いたかったのだが、海に行ったことがない自分が悟をちゃんと連れて行けるのかどうか迷っていると悟がまた髪をクシャクシャにした。
    「なに?俺とはやっぱ行かない?」
    「ちがう。俺、海行ったことないから」
    「あ、そうなの?」
    「悟をちゃんと連れて行けるか分かんないし」
    聞いた悟は吹き出して「恵は小さいのに真面目だな」とついには倒れ、笑い転げた。コロコロと本当に回転するから、巻き込まれた炬燵がカタカタと揺れ、机の上の蜜柑が崩れる。
    テレビは紅白が終わり、暗い画面に切り替わっていた。よくみたら、グレーの背景に白い雪が舞い、それから黒っぽい瓦の建物が現れる。「年末のなんとか寺では初詣に向かう人々が……」テレビから面白くないアナウンサーの声が聞こえた。
    「そういや俺、雪も見たことない」
    「そうなの?」
    まだ床に転がっていた悟が頬を床につけたまま俺を見あげ、青い目がクリと丸くなる。悟に出会ってずいぶんたったのに、未だに時々ドキドキとした。
    「雪なんて、来月高専に来たら嫌になるくらい見れるよ。ほんと嫌になる」
    心底嫌そうに言い放った悟はもぞもぞと体を回転させ、みゅーんと変な声を出しながら床に伸びた。なんか、白黒の猫みたいだ。
    「津美紀、寝ちゃったね」
    床に伸びた悟の右手には、同じく床に横になる津美紀が寝転んでいた。いつも「炬燵で寝ないで」と口やかましい奴が気持ちよく寝ている様子は少し面白い。涎を垂らさんばかりに顔を緩め寝ている津美紀は、本当に幸せそうだ。
    「めぐみ」
    「ん?」
    離れているのに悟は囁くように呼び掛けた。悪巧みをする、子供みたいに。
    「海と雪、見に行こうか?」
    「は?」
    「津美紀も寝たし、ちょっと出かける?」
    俺の返事を待たずに悟は炬燵から抜け出した。蛍光灯が立ち上がった悟の背中に邪魔され、部屋が薄暗くなる。戸惑っているうちにすぐに眩しくなったな、と思ったら悟は津美紀を抱えて寝る部屋に連れて行くところだった。
    「恵、なにしてんの。コート着て。マフラーも」
    津美紀を起こさないように小さな声なのに、ワクワク感を隠せない弾んだ口調で悟は言う。本当は俺もさっきまで眠くてたまらなかったくせに、悟の楽しそうな顔を見た途端、あっというまに目が覚めた。ちょっと心臓がドキドキとする。コートを取りに行く歩調が自分でも分かるほど素早かった。
    「マフラーした?」
    津美紀を布団に寝かせたらしい悟が、玄関で待っていた俺を覗く。
    「モコモコ過ぎない?」
    マフラーをしろと言ったり、やり過ぎだと言ったり、滅茶苦茶なことをいう悟は靴を履き、トントンと爪先を慣らした。
    行こうか、と手を引かれ外に出ると真っ暗な夜空に冷たい風が吹く。
    「さみい」
    意味なんてない。感じたままを思わず呟くと上から「フフフ」と抑えた笑い声が聞こえた。
    「これからもっと寒いところ行くよ」と鍵をかけながら悟は言う。ガチャガチャと扉を確認する仕草も、真夜中だからか今日は少し丁寧だな、とぼんやり思っていると「いくよ」という声と同時に浮遊感を感じた。


    「さとる!さむい!くらい!しろい!なにこれ!」
    「にほんかい!めぐみ、しってる?にほんかい?」
    「しらない!」
    「しらないの?子供はなんにもしらないな!」
    「しらないよ!さむいって!」
    悟が術式で飛んだ先は埼玉の夜よりずっと暗くて、黒い世界に白い何かが横向きにドンドン吹いてて、風が痛いほど冷たく、足下から聞いたことのないくらい大きな波の音が聞こえた。波ってこんなに凄い音なの?なんか割れてそうな音だし、テレビで見てるのと全然違うんだけど。
    悟の術式で宙を浮いているのに、足元をすくわれそうな気になり、彼にしがみつく腕に力をこめた。抱き締めている腕だけはあたたかい。
    「さむい!」
    また叫ぶと悟が笑う。ケラケラとさも愉快そうに口を開け、その口にハラハラと白い雪が舞いこむ。冷たくないのかな?と思ったけれど、暗い中でも分かるピンクの口に雪が吸い込まれて溶けていくのは美しくて、目を離せなかった。美しいとはちょっと違うなとは思う。でも、今の自分には言い表す言葉が分からない。とにかく、頭の奥がチリチリと痺れ、胸が締め付けられるような気がした。速くなったり締め付けられたり、今日の俺の心臓はさっきからとてつもなく忙しい。
    笑いながら悟は俺を掴み直し、胴に巻きついていたのを肩まで引き上げる。
    「雪と海と同時に見たでしょ」
    「暗くて海なんか見えないじゃん」
    「見えないね」
    「なんだよ。悟だって見えてないんじゃん」
    「見えてないね。思ったよりも暗かったわ」
    ワハハと笑う悟の口から白い息が吐きだされ、俺の頬にかかる。湿ってあたたかくて少し甘い匂いがした。
    「めぐみ!僕を離さないで」
    俺を抱き直した悟が叫ぶ。
    そんなこと言われなくても、もう離さない。
    うまく言えない。とにかく、いま凄く心臓の音がうるさい。冷たい世界に反して、腕の中の大きな悟は温かい。
    「あ!日付変わった!」
    耳元で悟が叫ぶ。
    「あけましておめでとう!」
    自分が叫んだ声は風でかきけされたような気がする。強い風が吹いて、術式で浮かんでいるはずの悟でさえも揺らいでいる。寒いはずなのに、それも忘れて可笑しく楽しくなってきた。
    「めぐみ!僕を離さないで」
    悟がもう一度叫ぶ。
    だから、俺はもうあんたを離さないから大丈夫。
    悟が心配しないようにもう一度、この人を掴む腕に力を込めた。自分の頬も、肩も、胸も、腹もぴったりと密着させ、足を絡める。
    「抱きつきすぎじゃん!僕のこと大好きかよ」
    悟は暗い海の上で、嬉しそうに笑い続ける。
    俺は答えずまた彼を強く抱きしめた。


    俺の2010年は、この人を抱き締め始まった。
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    kikhimeqmoq

    DOODLE伏五の五条が直哉と話しているだけの落書き。たぶんなんか、あんまり良いネタじゃない。恵が高一の五月くらい。誤字脱字衍字および重複は見直してないです。「君さあ、なんでずっとムカついた顔してんの?」
    久しぶりに御三家の会合があった。うちの当主は二日酔いで欠席するとだらなことを言い出し、次期当主である自分に名代を務めるよう言いつけてた。それはいい。それはいいが、なんでこいつと控え室が一緒やねん。俺、ほんま嫌いやねんけどら
    「悟くんはなんで似合わへん東京弁を使ってるの?」
    「似合ってるでしょ。君の金髪よりはずっと似合ってるし。直哉って昔は可愛い顔してたのに、いつのまにか場末のヤンキーみたいな金髪ピアスになったのは社会人デビューなの?」
    ハハッと乾いた笑いを付け加えた男といえば白髪が光っていた。銀髪というほど透けていないが、真珠みたいに淡く柔らかく発光している。下ろした前髪から覗く青い目はこれまた美しく輝いていたが、柔らかさなんて一欠片もなく世界を圧倒する力を放っている。それは自分が呪術者だから感じる力であって、その辺の猿どもが見たってガラス玉みたいに綺麗だと褒めそやすだけなんだろうが、こいつの真価はそんな見た目で測れるものじゃない。まあ、えげつない美しさっちゅうのは事実やけど。
    「もうすぐ禪院の当主になるっていうもんが、いつまでも五条家に 3020

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    津美紀は悟に聞かれた質問を笑って誤魔化した。
    津美紀から返事をもらえなかった悟は、炬燵のミニ羊羹をほいほいと口に突っ込む。ついでに残った羊羹で積み木を始めた。明らかにテレビに飽きているのに帰らないのはなんでだろう。夕方突然やってきてから、かれこれ三時間以上は炬燵に入っている。テレビを見る以外は、お菓子を食べるか、津美紀にお茶が欲しいと我儘を言うか、俺を揶揄うくらいで他のことは何もしていない。大人が酒も飲まずにこんなにも何もしないのを初めて見た。
    確かにここは 4110

    kikhimeqmoq

    DONE2021/01/23 2300字 恵が高専1年で、伏五は付き合ってます。五条の家で迎えた夏の朝の描写。あんまり何も起きないです。山の群青が濃くなったかと思うと、すぐに稜線が金色に光り、あっという間に空が黒から青になる。夏は夜のうちから気の狂った蝉が鳴いているが、朝になれば本格的に合唱が始まる。ここにいると煩いし暑いしそろそろ移動しないとな、と思いつつ二本目に火をつけた。
    「朝っぱらから人んちのベランダで何してんのこの不良は」
    「ベランダが駄目なら部屋で吸ってもいいんですか」
    「それは嫌」
    じゃあ仕方ないでしょ、と言って煙を吐くと彼が長い腕を伸ばして咥えていたものを取り上げた。高専に入ってから禁煙したが、事後はどうしても吸いたくなることを最近知った。現実逃避にちょうどいいのだ。何も考えずに火をつけてボンヤリすると、夜あった出来事が煙と一緒に消えていくような気がする。自分がどれだけ必死だったかとかそういうことが。
    「寝てないの?」
    まだ長かった煙草を柵に押し付けながら、彼はだらだらと話し始める。頭を緩く振ると「あ、そう」といって面白くなさそうに口だけで笑った。
    「やると早起きだよね。恵は。何にも無いと授業も平気で遅刻してくるぐらい寝坊助なのに」
    朝からデリカシーのない声が蝉の合唱に混じって霞む。彼は話し続けるが、何 2310

    nnn

    DOODLEとーじにやられた時の傷が残ってたら、な伏五ちゃん
    どんなに痕残したり傷つけたりしても結局反転で消えちゃうのに、ただ一つ痕残せたのがめぐの父親であるとーじってめちゃめちゃエモくないですか
    額に落ちる前髪を鬱陶しげにかき上げたときに見えたのは、陶器のように艶やかな肌に似つかわしくない瘢痕だった。
    彫刻か何かのように、一つの狂いすら許さないものと思っていた彼の身体に残る歪な傷跡は伏黒に鮮烈な印象を与えた。

    穏やかでない色を潜めた深緑の瞳に気付かない訳もなく、刺すような視線を一身に浴びる五条は仕方ないと言った様子で真っ白な髪を上にやり、視線の求める先を露わにする。

    自ら求めたはずなのに、いざまじまじと見せつけられてつい目を逸らしてしまう。
    向かい合って座る伏黒のそんな様子を気にすることもなく、血の気のない指先で額を撫でながら言葉を転がし始めた。
    「もっとザクザクって刺されて、ズバーッてぶった斬られたんだけど、他は綺麗さっぱり。ここだけ残っちゃったんだよねえ。ま、初めて反転使ったのがこの時だからいきなり100パー完璧になんて無理だったのかな」
    けらけらと笑いながら口にされる、捉えようのない抽象的な擬音と不穏な言葉の羅列に、伏黒は隠すこともなく顔を顰めた。

    「どしたの恵難しい顔して。もう痛くないしただのケロイドだよ?」
    「五条先生に傷つけるなんて、よっぽどの奴ですよね」
    1140