「もう発たれるんですね」
忍び装束を身に纏い口布を上に上げたところで背後から声をかけられる。
顔だけで振り返ると髪を下ろした利吉が上体を起こしてこちらを見つめていた。
つい四半刻前までは艶かしく身体をくねらせ情事に耽っていたというのにそれを感じさせない、なんとも涼しい顔をしている。
「いつもあまり長居できなくてすまないね」
「そうですね、やることやったらすぐ出て行ってしまう。いけずな人」
寝間着を羽織りぷいと顔を横に向けてしまう。
スッと鼻筋の通った綺麗な横顔だ。
「今日は随分可愛らしいことを言うんだね、利吉」
「好い人なんですから少しでも長く共にいたいと思うのは当然でしょう。私はいつも寂しくて死んでしまいそうだ」
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