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    YNKgame

    本名:𝕭𝖗𝖞𝖆𝖓米子。20↑。
    書きかけとか試作とかを投げる予定。反応くれたらうれションして走り回ります。

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    解放者√後のラスティに執着される整備士♀の話

    ②承 戦友――レイヴンの声に応え、共に企業と戦う。
     遥か彼方、高く遠い空の上。地上から聞こえる仲間たちの声に満足感を得ながら、戦友と認めた男と共に、同じ目的のために戦う高揚感に、はっきり言ってラスティは興奮していた。
     だが己の使命を忘れたわけではない。
     だから後ろ髪を引かれる思いを引きずりながらもレイヴンと別れ、彼のサポートをすべくアーキバス艦隊の殲滅に向かった。
     そしてそこで、不明機体の放つ赤い閃光に体を焼かれた。

    「……」

     なすすべもなく落下したスティールヘイズ・オルトゥスは運よくグリッドの一部に引っかかり、発動したターミナルアーマーのお陰で首の皮一枚繋がったような状態ではあったものの、閃光の影響か、或いは興奮のまま新機体に無理をさせすぎたせいか、損傷が激しく、機体はもちろんモニタや計器すべてが沈黙して、ピクリとも動かない。
     ラスティもまた、閃光――ビームめいたコーラルの奔流の影響を大きく受けていた。
     オルトゥスと体がリンクしたように、機体の損傷した部分と同じ場所が熱を持って激しく痛み、だと言うのに意識はぼんやりとして、自我を保っていられない。
     時折何かが聞こえ、それがレイヴンの名を呼ぶ女性であることを捉えつつもそれ以上のことは考えられず、意識が、自我が、眠りに落ちるように散逸していく。

    (ああ、ここまで、か)

     せめて、解放されたルビコンを見たかった。
     企業を追い払ったとて、この星にはまだ山ほど課題がある。戦友は戦いにおいては信頼できるが、その先を引っ張って行ってくれるだろうか。
     彼と共にこの星の未来のために働きたかった。彼と共に、自由に空を飛びたかった。
     ああ、まだやりたいことが山ほどある。これからだったのに。

    「――――」

     わずかな機械音と共に、コア内の計器が息を吹き返す。
     暗闇にぼうっと光が点り、それをぼんやりと眺めている間にコア内の圧がプシュっと抜ける音が聞こえて体が動く。

    「自機リンク確認、接続良好。パイロットを確認」

     自分を覗き込む、やや小柄な人物。
     通信する声から察して女性なのだろうと思いながらぼんやり見つめるその世界は、まるで映画のスクリーンの向こうのようで、現実感がない。
     或いは夢のよう、だろうか。

    「同志ラスティ、意識はありますか?」
    「……」

     ある、と答えようとしたけれど、体がうまく動かせない。
     ぼんやりとした意識のせいか、或いは鈍く感じる痛みのせいか。
     わからないが女性は――パイロットスーツにも似たAC接続用のコネクタを持つ服を纏い、ヘルメットをかぶった人物は、淡々と「意識混濁。損傷多数」――通信を続けていた。

    「失礼します」

     女性が逐一声を掛けてくれるお陰で、意識が散逸せずに済んでいる。
     だが意識を保ち続けていると、鈍くなっていたはずの体の痛みが強くなってくる。
     しかしそれはオルトゥスが受けた痛みでもある。ラスティは歯を食いしばることさえできない体で、ただじっと耐えるしかなかった。
     女性は、ラスティのAC接続ケーブルを的確な手順で外していく。そうして外したそれを、今度は自分のコネクタにつないだ。

    「ッ?! オルトゥス……これは……」

     きっと自分と同じ痛みを感じているのだろう。或いはもう、オルトゥスは修復不可能なほど損傷しているのかもしれない。
     女性の驚きの理由をぼんやりと考えながら、ラスティは小さく息をついた。オルトゥスがもうだめなら、自分もだめなのだろう、となんとなくそんな気がしたからだ。

    「ここまで頑張って……ありがとう」

     女性が呟く。
     その呟きに、ラスティはかすかな怒りを覚えた。
     そんな言葉を吐くぐらいなら、最初から灰にまみれた警句になど縋らないで、もっとまともにルビコンを守り栄える方法を考え、行動してくれればよかったのに、と。
     だが。

    「ありがとう、オルトゥス」

     続いた言葉に、今度は羞恥心が湧く。
     彼女が感謝していたのは、自分ではなく限界まで働いたスティールヘイズ・オルトゥスだったのだ、と。
     ヴェスパーの番号付きと呼ばれ、いつのまにか自分も、尊大になっていたのだろうか。お前らもここまでやってみろと、できやしないだろう。私にしかできないんだ――そんな風に思っていたのかもしれない。
     一人では、成し得なかったくせに。

    「後で迎えに来ます。貴方の搭乗者を救出したら、必ず」

     やや荒っぽい応急処置を施し、女性はラスティを持ち上げる。
     思いのほか力強く自分の体が持ち上げられたことに驚きつつも、ラスティは少しずつ離れていくオルトゥスを見ていた。
     オルトゥスは、彼女の言葉通り、きっとずっとここで待ち続けるだろう。
     私も、出来るだけ早く戻る。戻らなければ。こんなところで死んでたまるものか。
     そう強く思うと、湯に漂うように散逸していた意識が固まってくる。

    「スティール、ヘイズ、」

     自機の名を呼び、手を伸ばす。
     持ち上げられ移された、知らないコア。狭いその中で、モニターに映るボロボロのスティールヘイズ向かって伸ばされたラスティの手を、女性が力強く握った。

    「必ず元に戻します。いえ、次は今以上の性能を。でもまずは、貴方が先です」

     お互いグローブ越しなのに、握るそのやや小さな手が、熱い。
     席に座って自機との接続を終えると、女性は太ももの上にラスティの尻が収まる横抱きのような状態で固定した。

    「器用な、ものだな」
    「できるだけ、安全運転で行きます」
    「たの、ん、だ」

     こんなに至近距離で見上げているのに、霞む視界とヘルメット越しのせいで、女性の顔はわからない。
     ただACの操作技術はそれなりで、狭いコアに余計な荷物ひとつ積んでいるにも関わらず、その機体は滑らかに発信した。
     モニターに、遠ざかるスティールヘイズ・オルトゥスが映る。

    「コーラル酩酊のような症状が見られましたが……投入されたと噂のコーラル兵器でしょうか?」
    「ああ、だから、赤く……」
    「同志ラスティ、出血は少し多いですが、許容範囲内のように思います。私は救護班ではないので、正確にはわかりませんが、酩酊が抜けたのなら命に別状はないかと」
    「そう、なのか? だいぶ、痛みがひどい、が」

     コーラルによる酩酊、ドラッグにも似たその強烈な効果がかき消していたのか、だんだん痛みがひどくなってくる。
     落下の衝撃で打ち付けた全身、そしてオルトゥスの損傷と同じ場所。
     だがラスティがそれを確認しようとすると、女性は「下を向くと酔いますよ」と忠告して手をやり、半ば無理やりラスティの顔をモニターへと向けさせた。

    「あと10分、堪えてください」
    「わかった」

     正直息をするのも精いっぱいだ。だが10分なら、歯を食いしばっていれば耐えられる。なのに女性は、会話を続けた。

    「オルトゥスの乗り心地は、どうでしたか?」
    「どう……?」
    「防御性能は格段に良くなったかと思います。重さもできるだけ抑え、接近戦でより確実に敵を仕留められるよう調整しました。ピーキーだとか、コア理論に忠実すぎるという声もありましたが、乗り手としてはどう感じていますか?」
    「ああ……確かに、ピーキーと言えば、その通り、だが――」
    「ゆっくりで大丈夫ですよ、まだあと7分ありますから」
    「……そう、だな……もう少し射撃系の火力があれば、より――」

     痛く、苦しく、もう眠らせてほしい。
     だが女性はラスティが話すことを望む。
     ぜいぜい息をしながら、請われるままラスティは話し続け、そうして解放戦線の基地に到着、担架に乗せられ顔に呼吸器を装着したあたりで、ようやく望み通り痛みから解放されて眠りにつくことができた。

    ◇◇◆◇◇◆◇◇

     だが思えばあれは、あえて眠らせないための方法だったのだろう、とラスティは思う。
     女性は救護班ではない故、はっきりとわからないと言うようなことを言っていたが、運び込まれたラスティは重傷を負っていた。
     多少抜けたもののコーラルの影響は強く、基地内の誰よりも重篤な患者として扱われ、しばらく集中治療室から出ることもできなかった。
     だがそう言わなければ、そしておびただしい出血量で赤く濡れた身体を見ていたら、死を受け入れ、ここにはいなかったかもしれない。

     通常の病室に移り、リハビリもあらかた終えて、後は縫い付けた傷口が治るのを待つばかりとなった頃。
     ラスティはようやく、格納庫でスティールヘイズ・オルトゥスとの再会を果たした。
     まだ復旧途中ではあったものの、あの日見たボロボロの姿とは程遠く「お前も良く生き残った」なんて呟くと、感慨深くて少し泣きそうになったほどだ。
     オルトゥスの隣、今はぽっかりと空いた空間には、戦友・レイヴンの機体が収まるらしい。彼は今、任務をこなしに行って不在とのことだった。

     あの日、オルトゥスの元に駆けつけ、ラスティを救った人物についてはわかっていない。救護班でもなければ、ラスティを助けるために派遣された要因というわけでもなく、機体は解放戦線内ではよく使われるタイプの量産型で、ラスティを降ろすとそのまま去っていったのだとか。
     せめて一言、礼が言いたい。
     集中治療室で目が覚めてから今まで、ラスティはずっと自分を救ったあの女性のことを考えている。
     何故あそこに現れたのか。何故自分を救ったのか。どうして名乗らないのか。
     だが、ヒントはある。
     彼女はオルトゥスを必ず迎えに来ると言い、その機体性能を把握し乗り手に感想を聞きたがる様子から察するに、整備士か設計関係者ではないかと思えたのだ。
     無事回収されたオルトゥスの姿を見たいのももちろんだが、格納庫に足を運んだのは、彼女を探すためでもある。
     彼女の顔はわからないが、今でもこびりついて離れない、決して忘れることのできないあの声を聞けば、絶対にわかる。

    「……」

     ラスティはオルトゥスの周りで作業を進める整備士たちを眺めた。
     女性もそれなりにいる。格納庫は鉄板の削り出しや磨き上げ、その他諸々の様々な音がしてやかましく、人間の声などかき消されてしまう。
     しかし。

    『コア付近、正面の傷はどう?』

     ラスティが立つ足場は、オルトゥスの腰のあたりの高さにあり、作業進行状況を示すモニターと無線でやり取りする整備士の声を拾うスピーカーがある。

    『職人たちがもう一回叩きなおさなきゃだめだって言ってたけど、うまくごまかせそう?』
    『主任、あれ、もしかしてラスティさんじゃ……?』
    『え?』

     ああ、ここにいた。やっぱり、そうだった。
     胸の内が歓喜に震え、体が熱くなる。
     彼女はどこにいるのだろうか。探して見上げると、オルトゥスに向かっていた整備士たちが皆ラスティを見ていた。
     彼女も、自分を見ているだろうか。
     ラスティは軽く微笑み、手を上げる。入院着の上に羽織ったカーディガンが、さらりと揺れた。

    『ラスティさん! いらっしゃってたんですね!』
    『みんな! もう一人の英雄がきたぞ!』

     騒ぐ人々の声に、彼女の声はない。
     作業を中断し、ラスティの方へやってくる人々。
     彼らに応えながらも、その中に彼女が混ざっていないか、よく耳を澄ませた。
     いない。
     そうしてふと、顔を上げると。

    「……」

     頭部パーツのあたり。組んだ足場に座ってこちらに見向きもしない、小柄な姿がある。ラスティの胸に、怒りにも似た感情が湧く。
     いやそれは、嫉妬だった。
     あの日、彼女がオルトゥスに掛けた声が頭をよぎる。
     オルトゥスに礼を言い、必ず戻ると言ったあの言葉には、熱がこもっていた。
     決して自分には向けられない、熱が。

    「彼女にも話を聞きたいんだが、いいだろうか? オルトゥスの修復状況を詳しく教えてほしいんだ」
    「ああ、なら彼女が最適ですよ。彼女はオルトゥスの設計段階から関わっていて、今回も復旧の主任ですから。主任~! ナマエ主任~!」

     振り返った顔は、まだ遠くて良く見えない。
     でも、ああ、もう少しで会える。
     初恋をした少年のように胸が高鳴り、頬が熱くなる。
     だがラスティの想いは、一瞬で打ち砕かれた。

    「やあ、君がナマエだな? ずっと会いたいと思っていたんだ」
    「え?」

     降りてきた女性に、握手を求めつつ微笑みかける。
     だが彼女は一瞬硬直し、それから困ったように微苦笑を浮かべた。

    「初めまして、同志ラスティ。解放の英雄に会いたいと言われるなんて、夢にも思っていませんでしたから、少し驚きました」

     彼女が発する声は、間違いなく自分を助けた彼女のものだ。
     なのに彼女は知らないふりをするばかりか、初対面だと言う。
     ドロドロと熱く重いものが、ラスティの胸をかき乱す。
     だがあの日の事、公にはできない理由があるのかもしれない。
     ラスティは微笑みを続行したまま、握られない手をもう一度差し出した。
     そして戸惑いがちに差し出されたナマエの手を、逃がさないと言わんばかりに握りしめる。

    「あの、」
    「あそこに座って、話を聞いてもいいか? オルトゥスの修復状況について聞きたい」
    「あ、ああ、そうですね。見るからに病室を抜け出してきた感じですけど、大丈夫ですか?」
    「動き回るのには問題ない。ヴェスパーにいたころだったら、出撃していたさ」
    「無理は良くないですよ。オルトゥスも復旧にはもう少し時間がかかりそうですし」

     ラスティの言葉に、ナマエはあたりさわりのない上辺の返事をする。
     違う、もっと別の話がしたい。
     ラスティは心の底で牙を剥いている狼を、理性という名前の枷で押しとどめた。
     今ここで逃がすのは得策ではない、と。

     だが結局、周囲に聞き耳を立てるような人々がいなくなっても態度を崩さず、あの日のことを切り出しもしないナマエにじれて、ラスティは判断を誤った。

    「君に、惚れているんだ」

    ◇◇◆◇◇◆◇◇

     溢れる気持ちを、オルトゥスではなく自分を見てほしいと言う気持ちが先走るあまり抑えられなかったラスティは、以来、ナマエに避けられ続けている。
     避けられれば避けられるほど追いかけたくなるのが狼の性だが、逃げられると何故だと機嫌が悪くなるのも事実だった。
     結果ますますナマエには怯えられ、しかもやはりあの日のことは話せていない。
     次こそは――あの日のことを公にできないのであろうナマエに配慮して、二人きりで話せる環境を用意した暁には、あの日救われたことへの感謝と自分の気持ちを真摯に打ち明けるつもりでいるのだが。

    「また君か、戦友。まさか君も、彼女を狙っているんじゃないだろうな?」
    「まさか。でも彼女は友達だよ」
    「へぇ……? 私もまだそう呼んでもらっていないのに、君が先に……そうか」
    『レイヴン、ラスティの機嫌が著しく悪いです。この状況は、ちょっと……』

     四度目の妨害。
     さすがの戦友にも腹が立ってくる。
     その上彼はいつの間にかナマエの友人とやらに収まっているらしく、彼とナマエの間にあって自分との間にはない信頼や友愛に、嫉妬心が燃えた。
     だが……ラスティは一息ついて冷静さを取り戻すと、ぎらついた瞳でレイヴンを見つめる。

    「戦友、君にはすべて話す。どうして私が彼女に執着するのか……それはもちろん、彼女に惚れているからなんだが、どうしてそうなったのか、聞いてほしい。そのうえで、判断してくれないか。このまま彼女の僚機でいるか、或いは私に協力してくれるのかを」
    「……わかった」
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