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    maruo10101

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    maruo10101

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    最近SSSを見直してたら5話切なすぎてついシンウシで投影してしまったので供養。

    #シンウシ

    今も、ずっとその通知音を聞いた瞬間、シンヤは思わず手を止めた。

    「……え?」

    スマホの画面に浮かんでいたのは、見慣れた名前だった。

    ウシミツ
    「今度、日本に行くことになったでござる。時間があれば、お会いできるだろうか」

    それだけの、簡素なメッセージ。
    それでも、シンヤの心臓はひときわ大きく鼓動を打った。

    金髪のセミロングを揺らしながら、無垢に微笑むあいつの姿が、脳裏によみがえる。あまりにも自然に、鮮やかに。

    (……まさか、また連絡が来るなんて)

    3年前、ウシミツがイピリスの実家へ帰るのをきっかけに別れてからも、しばらくは連絡を取り合っていた。誕生日、季節の挨拶、たわいない報告。けれど、やがて返信は数日に一度となり、週に一度に、そして月に一度。
    気づけば、ここ1年は一切の音沙汰がなかった。

    シンヤもまた忙しくしていた。大学に通いながら、家業の温泉宿を手伝い、観光業の研修や帳簿、地元の会合――
    いずれ継ぐことが決まっているからこそ、毎日はめまぐるしく過ぎていった。

    けれど、どれだけ忙しくても、心の片隅から、ウシミツの存在が消えることはなかった。

    宿のロビーにあるテレビで時代劇が流れていると、「拙者」なんて単語を聞けばハッとし、
    商店街の灯りがにじむ夜道で、ふと隣にいる気がして振り返ってしまう。

    忘れた方が楽なのに、忘れられないまま。
    届かないと知っていても、つい誕生日にメッセージを送ってしまったりもした。

    ……もう、会えないと思ってたのに

    そんなある日、突然の連絡。
    胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなる。

    ……また、隣にいられたら――

    あの頃のように笑って、くだらない話をして。
    ほんの少しでも、また一緒の時間を過ごせるなら。
    叶わなかった続きが、今になって始まる気がしていた。





    3年前ウシミツが告げたのは、あの日、街が静まった夜のことだった。

    「……拙者、卒業と同時に、実家に戻ることになったでござる」

    河川敷の風は冷たく、白い息が視界を揺らす。

    「…断れないのか?」

    「無理でござる。……拙者は、あの家に生まれた身。義務からは逃げられぬ」

    その声には、諦めと覚悟が混じっていた。

    あの頃のシンヤは、大学に入ったばかりだった。
    試験、授業、バイト、慣れない人間関係……地元に戻ってくる回数も減っていた。

    二人の時間が、少しずつ減っていくのを、どこかで感じていた。

    今週も予定が埋まってて…そんな言葉を繰り返す自分に、どこか罪悪感もあった。
    でも、仕方ないことだと思っていた。

    だからこそ――別れを切り出されても、怒ることすらできなかった。

    「拙者、殿のことが……好きでござる。でも、それだけではどうにもならぬ」

    「……俺は、そんな終わらせ方したくねぇよ」

    「拙者が、ただの“ウシミツ”だったなら……そう言いたかったでござる」

    言葉を失った。
    ウシミツの目は、まっすぐだった。

    「……そう、かよ」

    シンヤは小さく呟いた。
    それが、最後の会話だった。





    再び訪れる再会の時を前にして、シンヤの心は揺れていた。
    過去は変えられない。
    けれど未来に、少しでも彼と重なる時間が残っているのなら――

    「会いてぇ…」

    それは、ごく自然な願いだった。





    空港の到着ロビーは、どこか懐かしいざわめきと機械音に満ちていた。

    シンヤは指定された時間より少し早く到着していた。
    胸の奥が落ち着かないまま、スマホを握りしめる。

    (……本当に、来るんだよな)

    数年ぶりに会うウシミツ。その姿を想像しようとしても、思い出されるのは高校時代のままの、制服姿とあの柔らかな金髪。

    「……殿!」

    その声が聞こえたとき、時間が一瞬止まった気がした。

    振り向いた先、そこにいたのは――
    確かにウシミツだった。けれど、以前とはどこか違っていた。

    少し背が伸びていて、細身のシルエットに長い金髪が風に揺れる。頬も顎のラインも、以前より少しだけ大人びていた。けれど、そこにあったのはどこか儚くて、見る者を惹きつけるような美しさだった。

    「……久しぶりだな」

    平静を装った声を出すのに、少しだけ時間がかかった。

    ウシミツは、にこりと微笑んでうなずいた。

    「ほんとうに……お久しぶりでござる」

    (……なんで、こんなに綺麗になってんだよ)

    そう思った自分を、シンヤは心の奥で戒める。

    (ダメだ、期待するな。ただの“再会”だ)

    だから、あえて軽く肩を叩き、昔と変わらない調子で言った。

    「観光したいって言ってたな。案内するよ」




    ウシミツは、嬉しそうに街を歩いていた。

    昔ふたりで訪れた浅草の商店街、喧騒と香ばしい匂いに包まれる中、嬉しそうに人形焼を手にして「これ、覚えてるでござるか?」と笑うその表情が、どこか高校時代の彼をそのまま連れ戻していた。

    (あの頃に戻ったみたいだ)

    少し前まで隣にいたような気がしていたのに、もう何年も会っていなかったなんて、信じられなかった。

    笑い合うことが、こんなにも自然で、そして嬉しいことだったなんて。

    シンヤの胸の奥で、何かが静かに温かくなっていく。

    (付き合ってなくても、一緒にいられるなら、それでいい。俺は、それで……)





    ホテルの部屋は、ツインルームだった。
    同じ空間にふたりきり。それでも、空気はどこか静かで落ち着いていた。

    ウシミツはソファに座り、観光パンフレットを静かに眺めていた。

    シンヤは、ずっと我慢していた言葉をようやく口にする。

    「なあ、ウシミツ。……なんで、日本に来た?」

    ウシミツが振り返る。

    「観光だけが目的じゃないだろ?……もしかして、また……一緒に、」

    けれど、その言葉は、最後まで言い終える前に遮られた。

    「――拙者、結婚することになったでござる」

    その声は、静かで。
    だけど、確かに震えていた。

    「……本当は、伝えるかずっと迷ってたでござる。でも……このまま何も言わずに帰るのも、卑怯な気がして……」

    シンヤの口が開きかける。けれど、言葉は出なかった。

    「おめでとう」、そう言わなければいけない。わかってる。けれど、どうしても声が出なかった。

    代わりに、沈黙が降りた。

    「……ごめんなさい、でござる」

    シンヤは目を伏せたまま、拳をぎゅっと握り締めていた。
    堪えきれないものが、胸の奥でぐらりと揺れる。

    (言わないって決めてたのに)
    (過去は過去だって、自分に言い聞かせて……)

    「……ふざけんなよ」

    ぽつりと、低く、喉からこぼれるような声が出た。

    「なんで今さら連絡してきたんだよ。何のために……俺に、会いに来たんだよ……」

    ウシミツは何も言わず、シンヤを見つめていた。

    声が、少しずつ震えてくる。
    苦しいほど胸の奥が熱くなって、呼吸すらまともにできなかった。

    「……俺は、ずっと、お前のこと……」

    言葉が、詰まる。
    これ以上言ったら、もう後戻りできなくなるとわかっていた。

    でも――止められなかった。

    「……今でも、ずっと好きだった」

    ついに、こらえていたものが溢れた。
    一筋の涙が、頬を伝って落ちる。

    もう言葉にならなかった。

    ただ、静かに涙が落ちる音だけが、部屋の空気を揺らしていた。

    ウシミツは、動かなかった。
    シンヤの言葉を遮らず、慰めもせず、ただ黙って見つめていた。
    その瞳の奥には、強く抑え込まれた感情と、深い寂しさが滲んでいた。
    それでも――ウシミツは何も言わなかった。

    ただ、自分のせいで泣くシンヤの姿を、受け止めるように見つめていた。

    (また、殿を泣かせてしまった
    ……こんなにも、大切だったのに)

    静寂の中、シンヤは涙を拭おうともしなかった。何も隠せない。抑えてきた気持ちが全部、言葉になってしまった。

    自分で自分がみっともないと思いながらも、それでも止められなかった。

    そんなシンヤを、ウシミツはただ黙って見ていた。ほんのわずかに、その喉が揺れ、唇がかすかに震えていた。

    そして――ウシミツが、そっと口を開いた。

    「……拙者も、ずっと、殿のことが忘れられなかったでござる」

    その一言に、シンヤの呼吸が止まった。

    「どれだけ離れても、どれだけ時が経っても……拙者の心には、ずっと殿がおりました」

    静かで、穏やかな声。
    でもそこに込められた想いは、あまりにも深くて、切なくて。

    ウシミツは、ゆっくりと歩み寄った。

    「でも、拙者はもう――戻れぬ立場でござる」

    言いながら、シンヤの頬にそっと手を添える。

    涙で濡れた頬を、優しく撫でる指先。
    その温もりが、懐かしくて、やさしくて、痛かった。

    「だから……最後に」

    ウシミツは、ほんの少しだけ目を伏せ、そして――唇を重ねた。

    それは、静かなキスだった。
    けれど、すべてを伝えるためのキスだった。

    言葉では語れなかった想い、
    触れられなかった時間、
    抱きしめられなかった日々。
    そのすべてを込めるように、ウシミツは唇を重ねた。

    やがて、唇が離れると、ウシミツはそっとシンヤの体を抱きしめた。

    細くて、でも確かに温かい腕が、ゆっくりと背中を包み込む。

    「殿が……くれた時間、全部、拙者の宝物でござる」

    シンヤはもう、言葉を返せなかった。
    ただ、その胸に顔をうずめ、残された温もりを必死に焼き付けるように、目を閉じた。

    これで最後になると、分かっていたから。






    空港のロビーは賑やかで、旅立つ人、見送る人であふれていた。

    けれど、シンヤとウシミツの間だけは、時間が静かに流れていた。

    搭乗口の手前。
    保安検査場の前で、ウシミツは静かに振り返る。

    「……拙者、きっともう日本に来ることはないでござる」

    その声は、あまりにも静かで、まるで自分に言い聞かせるようだった。

    「最後に…殿に会えて、本当に良かった」

    ウシミツの目が揺れている。
    けれど、涙はこぼさなかった。ただ、強く、まっすぐにシンヤを見ていた。

    「どうか……殿は拙者がいない世界でも、幸せになってください」

    それは、願いであり――
    祈りであり――
    さよならだった。

    シンヤは、言葉を飲み込んだ。喉が詰まりそうで、息が苦しかった。
    それでも、目をそらさず、口を動かす。

    「……お前も……」
    声にならない。
    それでも、伝えたかった。
    「……お前も、幸せになれよ」

    ウシミツは、そっと微笑んで――

    「ありがとう、でござる」

    そう言い残し、くるりと背を向けた。
    そして、ゆっくりとゲートへ向かって歩き始めた。

    その背中は、小さく、どこか遠くに感じた。
    けれど、ひとつひとつの足取りが確かで、どこまでも美しかった。

    シンヤは、ただ黙って、その後ろ姿を見つめ続けた。目が霞んで、どこまでが現実でどこまでが夢なのか、もうわからなかった。

    けれど、はっきりしていたのは――
    あの背中が、もう戻ってくることはないということ。

    保安検査場の奥に、淡い金色の髪が消える。

    それでも、シンヤはしばらく動けなかった。
    まるで何かを取り戻すかのように、立ち尽くしたまま――
    その後ウシミツが乗る飛行機が見えるデッキまで、歩いていた。

    やがて、イピリス行きの便の飛行機がゆっくりと滑走路を進み、大きく羽ばたくように、空へと舞い上がっていく。

    シンヤは、ただその機体を見上げていた。飛行機が小さくなって、雲の中に溶けていくまで、ずっと――。
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    maruo10101

    MOURNING🐺と🐮🍯が初めて出会った日イメージの、シンウシです。

    ※シリアスメインですが🐺に出会ってるので救いあり
    ※プリパラ本編のひびき様の過去話から、🐮🍯の両親も同じ船に乗っていたら似たようなことが起きるかも?という妄想から来てるのでその辺りは同じ展開です。
    ※ウシミツが基本忍者言葉ではなく基本敬語です(中学の時に日本に留学してから忍者語になっていったと勝手に思っているため)
    また、会えたらまだ朝霧の残る静かな日。
    小川のせせらぎと蝉の声、遠くの鳥のさえずり。それらすべてが心をくすぐるような、まるで絵本のような風景。

    「これが……本物の温泉旅館!!」

    当時9才のウシミツが目を輝かせながら見上げたのは、木造三階建ての歴史ある日本家屋。
    数寄屋造りの屋根、石畳の玄関、そして浴衣を着た仲居たちの出迎え。

    ウシミツは貴族の子ではあったが、日本の忍者、そして日本という地に強い憧れを抱いていた。

    両親は旅客船でしばらく家を空けており、当時ウシミツはその期間、執事と使用人数人、そして彼の「友人たち」である同世代の子どもたちを連れての滞在だった。

    「ねえ、温泉っていうのに行ってみよう」
    「先にアイス食べようよ」
    「それよりゲームした方が楽しいよ」
    7870

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    maruo10101

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    ※シリアスメインですが🐺に出会ってるので救いあり
    ※プリパラ本編のひびき様の過去話から、🐮🍯の両親も同じ船に乗っていたら似たようなことが起きるかも?という妄想から来てるのでその辺りは同じ展開です。
    ※ウシミツが基本忍者言葉ではなく基本敬語です(中学の時に日本に留学してから忍者語になっていったと勝手に思っているため)
    また、会えたらまだ朝霧の残る静かな日。
    小川のせせらぎと蝉の声、遠くの鳥のさえずり。それらすべてが心をくすぐるような、まるで絵本のような風景。

    「これが……本物の温泉旅館!!」

    当時9才のウシミツが目を輝かせながら見上げたのは、木造三階建ての歴史ある日本家屋。
    数寄屋造りの屋根、石畳の玄関、そして浴衣を着た仲居たちの出迎え。

    ウシミツは貴族の子ではあったが、日本の忍者、そして日本という地に強い憧れを抱いていた。

    両親は旅客船でしばらく家を空けており、当時ウシミツはその期間、執事と使用人数人、そして彼の「友人たち」である同世代の子どもたちを連れての滞在だった。

    「ねえ、温泉っていうのに行ってみよう」
    「先にアイス食べようよ」
    「それよりゲームした方が楽しいよ」
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