からんころん、からんころん。
下駄を鳴らして歩く浴衣姿の秋山は、どこか不思議で。まるで秋山の周りだけが切り取られたかのように静かだ。
からんころん、からんころん。
どこで誂えたのか紅い浴衣は秋山にぴったりと似合っていて、まるでずっと昔からその着物を着ていたみたい。こちらを振り返って笑う秋山は、チョイチョイと手を振った。少しばかり遅いこちらが気に入らないのだろう。慌てて秋山の傍に行けば、満足したようにまた歩き出す。
からんころん、からんころん。
ざわざわと祭り特有の騒がしさが、いつの間にか消え失せていた。周りを見れば、静かな木々と鳥居、そして神社がある。立派な鳥居に思わず足を止め、見上げてみれば秋山は「口開いてる」と言って笑った。ばっと口を塞いで、秋山をじとりと睨みつけた。
「あはは、ごめんごめん!あんまりにも間抜け面だったからね」
「ちょっと、秋山さん???」
「怒んないでよ、ほら。ね?」
手を差し出される。自分はそれを握って、あの鳥居を潜るのだろう。
――けれど、なんだか、おかしい。
小さな不快感。ひとつひとつはさほど気にならないけれど、1度気にしてしまえば目をそらすことは出来ない。
どうして、今、自分は秋山と一緒にいるのだろう?
どうして、今、自分はお祭りに来ているのだろう?
どうして、今、自分はここに居るのだろう?
ここは、一体どこだ?
「品田」
ハッとして、秋山を見上げた。いつの間にか地面を見つめていたらしい。秋山は少しだけ悲しそうな、それでいて困ったような顔をしながらなおも手を差し出し続ける。
「品田」
あぁ、そうだ。そうだった。早くこの手を取って歩かねばならないのだ。
急かすような声に、品田は秋山の手を握って照れたように頭をかいた。なんだかずっとこうしていたかったように思える。自分は、秋山の手を取りたかったのだろうか?
「さ、行こうか」
「――はい、秋山さん」
さっきまでの疑問や疑念が全て消え失せた品田は、ただ虚ろな瞳で綺麗に微笑んだ。