快晴だ。太陽の陽射しは鋭く、熱く、けれど優しさをもって人々を照らしている。外はきっと暑いだろうし、レースのカーテンすらない窓は太陽光の確かな熱を伝えてくるが、クーラーの効いた部屋でさらりとしたシーツの海に沈んでいればそんな杞憂は無用だと言えよう。
「起きた?」
ガチャ、と部屋のドアを開けて主である秋山が顔を出した。どこかに出掛けていたのかしっかりと着ている秋山と違って、未だシーツの海に揺蕩う男――品田は素っ裸だ。
「、ん」
品田は裸体を隠すこともせず、眠たげな顔でただ見つめた。暖かさと寒さが相まって、なぜだかとても心地よいのだ。
そんなぽやぽやとした品田を愛猫を見るような瞳で見つめ返している秋山は品田の元へと歩み寄り、ベッドへと腰を下ろした。ぎし、と抗議の声をあげたベッドのスプリングなど気にせずに秋山は品田の厚ぼったい唇へと口付ける。触れるだけのキス、まるで付き合いたての高校生のようなそれに品田は夢と現実の境目に立ちながらくふくふと笑った。
「ぁき、や、ま、さ…」
お互いの唇が触れ合ったままに品田は話す。昨日の情事を少しばかり抱えたまま、うっとりと目を細めた品田に秋山はただ愛おしそうに笑った。
「なぁに?」
んん、と焦れったそうに唸った品田は寝起きで力の入っていない腕で秋山の肩を押しのけた。その弱々しい力に逆らうことなく身を離した秋山はくしくしと目を擦ってぐっと伸びをする品田を眺める。最後にくわりと大きな欠伸をしてようやっと覚醒した品田はただ一言「おきる」と言って身を起こす。
惜しげも無く光の下に曝される品田の整った身体。野球の為だけに存在していた、この身体を自分が"支配"している事実をそっと噛み締めながら秋山はぴょんぴょんと跳ねた品田の寝癖を梳いてやった。
「まだ寝てていいのに」
「ん、ん……でも腹へりました」
「あらら。出前でもとる?」
「ん〜」
「どっちよ、その声」
どっちつかずな声音に秋山は思わず、と言ったようにどっと笑った。起きるとは言ったもののまだまだ眠そうな品田の頭をゆっくりと撫でる。温かい秋山の手がすっかり秋山家にあるシャンプーでさらさらになった髪を梳いていく度になんとも言い難いぽわりとしたものが品田の胸にぽつぽつと生まれる。それは、あたたかくて、柔らかくて、きっと名をつけるとしたら"幸せ"なのだろう。
「どうする?出前にする?それとも外に食いに行く?」
「あきやまさんは、どっちがいいです?」
「俺?」
問いに対しての丸投げな答えに思わず声をあげた。秋山は先程までスカイファイナンスにいて、出かけるまでこんこんと寝ていた品田が心配だからと戻ってきただけで特に決めてはいなかった。秋山としてはどっちでもいい――品田と一緒ならばなんだっていいのだ。
「品田、今から着替えて外出る気力ある?」
「……無い」
「じゃ、出前だね」
「はぁい」
ちゅ、と品田の髪にキスをひとつ贈ってから立ち上がった秋山はいそいそとどこかに電話をして部屋から出ていった。
「あ、俺シャワー浴びるから。俺があがるまでには着替えててよね」
程なくして出前の注文が終わったのだろう、ドアの隙間からぴょっと顔を出した秋山がそう言うので思わずぶぶぶと唇を揺らせば秋山は呆れたように笑うだけ。
「外そんなに暑いんすか」
「暑いよ、暑い!」
捨て台詞のようなそれはとたとたと遠くなる足音と共に消えた。
ひんやりと冷たくなったシーツへと背中を戻せば、楽しげな子供の笑い声が容赦なく耳を貫いていく。
「うーん……」
間抜けな声は差し込む光にたえかねて溶けていった。