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    ヴィーノ

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    ヴィーノ

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    なにが、書きたかったのか。

    #秋品
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    澤村遥の引退と共に明るみに出た15年前の野球賭博事件――盗塁だと言われてきた品田のホームランは、勝負師同士の本物の駆け引きだったことになる。なんたる皮肉か、本人があれほど声をあげ訴えてきたことをようやく世間は思い出したということだ。それはある意味ノスタルジックで、しかし品田にしてみればただ忘れようとしていた悪夢をもう一度見ろと突き付けられたことに過ぎなかったのだが。
    球界永久追放を受けている身であるから、品田は野球に公に関わることが出来ない。いまさら復帰する気もない品田は、趣味でやっている各球団のデータをPCへ打ち込む時間が取材で嬢と戯れている時より楽しいかもしれない、と薄ら笑いながら思ったことである。自虐を含んだそれに、品田自身が気づいたかどうかは分からない。それでも、“あの”品田辰雄に野球関連の記事を書いてほしいと依頼が舞い込んでくるのは新しいおもちゃが手に入った世間の風潮がそうさせているのだろう。世間があれほどまでにバッシングした品田を今度は擁護するのだから、世間の意見など秋の空より簡単に変わるのかもしれなかった。

    一昨日食べた朝食すら覚えていないであろう記者たちから逃げるようにインターネットカフェを点々とし、その合間合間で細々と記事を書いていたが、品田はこの生活にうんざりしていた。身体をぎゅうと丸めて、インターネットカフェ独特の静けさを子守歌にするのも楽しくなかったと言えばウソにはなるが、やはり心休まる場所と言うものは欲しくなってしまうものだ。
    そうして秋山の自宅に半ば転がり込むようにして住み始めたのはもう2ヶ月も前だなんて、すっかり秋山との生活が染みついてしまった身としては感慨深いものがある。

    簡単な朝食を作りながら、品田は少しばかり考えた。
    何故、秋山は「うちに来る?」だなんて言ってくれたのか、いまだに聞けずにいる。なんだか、その答えを聞いたら戻れなくなるような気がして聞けるに聞けないのだ。秋山の、あの涼やかな瞳がじっと見つめてくるだけで、責められているような……あるいは。
    ともかく、善意であろうその誘いに乗ったのも自分であるし秋山を頼ったのも自分だ。品田が聞けずじまいの”答え”が品田になにか不利益を被ったりしても、両手を広げて受け入れるしかないだろう。

    「しなだ、」

    「お、っと。おはようございます。今日は早いっすね」

    後ろからぽすんと抱きしめられ落ちそうになった皿を掴んでキッチンに置く。まだ眠たそうな秋山の温かい体温に笑いながら片手で腰に回された腕を撫でた。
    秋山と住んでから、さりげないスキンシップが増えたように感じる。猫のような秋山だからだろうか、ソファに座っていればするりと膝に頭を乗せて寝てしまうし、キッチンに立っていればぎゅうとくっついてくる。ぬいぐるみか何かだとおもわれているのだろうか?それはそれで複雑だ。

    「今日の朝ごはんは?」

    「ベーコンと卵焼いてレタスちぎったやつ。秋山さんはベーコンかりかりでしたよね」

    「そ。よく覚えてんじゃん」

    えらいえらいと子どもを褒めるような手つきで頭を撫でてくるものだから、頭を犬のように振って邪魔をすれば秋山は笑うだけ。

    「も~!秋山さん、邪魔するなら座って待っててよ!」

    「はいはぁい」
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