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    ヴィーノ

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    ヴィーノ

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    少佐とトグサの話。素グサ?モトグサ?になってしまった。

    ぷしゅ、と炭酸の抜ける気持ちの良い音が響く。いまどき珍しく、ぱったりと見なくなった瓶のコーラは冷蔵庫でキンキンに冷やされていたからか、今では汗をいっぱいかいてまるでCMみたいだ。栓抜きと実はそこそこ需要のある瓶の蓋を机に置いて、それこそコーラのCMにでも出た気分で仰いだ。しゅわしゅわと喉を炭酸がくすぐって、すっと落ちていく。ぱちぱちと弾ける爽快で甘ったるいコーラはこの歳になっても最高に美味しい飲み物だ。

    「珍しいな、それ」

    興味深そうに近づいて来た草薙素子――少佐はトグサの手元にある瓶を見て目を細める。それは記憶の彼方にある思い出をたどっているかのようでもあったし、あるいは甘党であるトグサに愛らしさを感じているのかもしれなかった。

    「少佐」

    「それ、コーラだろう?よく手に入ったな」

    「ああ、これ。これ実はうちの娘が作ってくれたもんなんですよ…ほら、職業体験施設の」

    嬉しそうに言うトグサは父の顔をしていた。草薙はパッと電脳でトグサが言っていた施設を検索にかける。そうして頷いた。最先端の職業体験を提供している一種のアミューズメント施設は、あえて古臭い(バトーに言わせれば熱きノスタルジーといったところだろうか?)瓶のコーラを作らせることでお土産や「これを作った」という事実で子供の自尊心や充実感を与えているのだろう。そして、トグサが飲んでいるのはその愛娘が作ったコーラ、ということらしい。確かに、その瓶のラベルには有名なあのロゴではなくトグサの顔らしき絵がまるで神のようにそこにいた。

    「美味しいか?」

    その問いに、トグサは愚問だと言いたげに笑って首を縦に振った。その笑顔を見た草薙はそういやこの男は親バカだったな、と思わず笑ってしまう。やはり、その笑みは愛娘を可愛がるトグサが愛おしくて仕方ないという感じではあったが。

    「炭酸が抜ける前に飲んだほうが良い」

    「ええ。このために冷蔵庫で冷やしてきたんですよ」

    「職場で飲むコーラはどうだ?」

    「少なくともコーヒーよりかは最高っすね」

    肩をすくめたトグサは生身とあってか、コーヒーに含まれるカフェインの影響を受けやすい。だからか、9課の中でコーヒーメーカーと仲が良いのはトグサだろう。
    ごくごくと飲むトグサの存外男らしい喉仏が動くたびに草薙の中でぽわりと何かが生まれる。健全な職場で、うっすらとコーラの甘さに酔いしれているトグサの笑みと、生白い生身は……エロティックだった。そこまで考えてから草薙は髪を耳にかけるような仕草で振り払ってからトグサに片手をあげ別れを告げる。トグサは瓶を口に咥えながら会釈を返してくれる。

    「……まったく、あの子は」

    ダイブルームへと向かいながら零した言葉は誰にも聞かれぬままその場でゆらりと漂い消え去った。
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