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    ヴィーノ

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    ヴィーノ

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    高杉さんと品田がただ虫取りに行くだけの話。

    「もぉ〜!たかすぎさぁん!かえろーよぉ!」

    品田は買ってもらった麦わら帽子が風で飛ばされぬよう片手で押さえながら、虫網を構えている普段より随分ラフな格好をした男――高杉に声掛けた。

    「俺、眠いよぉ!」

    「うるせぇ!静かにしろ!」

    「うぇ〜…」

    高杉の一喝に品田は項垂れ、その場にしゃがみこむ。朝日が未だ空を染め上げぬ早朝、品田はただ早起きなセミの声を聞きながら足元で列を作りなす蟻の行列を見つめた。その姿は大人の事情で無理やり連れてこられた行事がつまらなくて拗ねている子供のそれであったが、実際品田の心境は同じである。

    「も〜…ほんと、ねむいんだけどなぁ……」

    猫が毛ずくろいをするように、ぐしぐしと目を擦った品田は雑草を掻き分けずんずんと進む高杉に「そんな遠くに行かないでくださいよぉ!」と声かける。既に高杉から託された虫かごには3匹ほどのカブトムシやクワガタがいた。気まぐれに虫かごを目の前に掲げて虫たちを観察する。少しだけ口をとんがらせて、熱心に見つめる。
    そこまで虫に詳しくはない品田だが、確かにカブトムシやクワガタなどの"夏の虫"というのはカッコイイ。故に、虫かごを見つめる品田の瞳はきらきらと輝いていた。別にあくびのし過ぎ、というわけでは断じてない。

    「品田ァ!」

    「な〜ぁに?!見つけたの?」

    「見ろ!立派なカブトムシだ!」

    「わぁ〜…うん?うーん、立派だねぇ…?」

    「ほら、虫かご」

    「うん」

    立ち上がって、高杉に首からかけた虫かごをずいと差し出す。高杉は素直に差し出された虫かごの蓋を開けて、今しがた獲ったカブトムシをポイと入れた。これで虫かごの中にいる虫たちは4匹となった。
    高杉は前日に仕込んだ他の罠の所へと行きたいが、くわりと大きなあくびを隠しもせずもらし眠たそうにぽやぽやさせている品田を見るとなんだか今日はもういいか、という気分になってくる。これもまた品田の特性――とでも言うべきなのか。高杉は少しばかり苦笑しながら、品田のかぶっている麦わら帽子のツバをぐいと下げた。

    「帰るぞ、品田」

    「えぇ!?もういいの?まだあるんじゃない?」

    「どうせ確認したところでいなさそうだしな。ほら、駄賃ついでに飯奢ってやるよ」

    「やったぁ!ありがと、高杉さん!」

    俺冷やし中華がいいなぁ!だなんて嬉しそうに笑う品田は真っ青な夏の空と良く映えて、高杉の一生忘れられない夏の思い出のひとつとなった。
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