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    朝支度の猗窩煉
    ■現代・同棲軸

    #猗窩煉

    目覚ましにセットしているアラームが鳴り響いて早三分。寝室から漏れ聞こえてくる機械音に気が付ついてからはおおよそ一分弱。未だ音沙汰のない寝室に十分後、未だ起きて来なかったら声を掛けようと決意する。
     五分間鳴り続けたアラームが一度止み、一分間の静寂の後にスヌーズ機能で再び機械音が漏れ聞こえてくる。アラームを掻き消す声量で「えっ」と気の抜けた音が続き、今日も朝から立派な腹式呼吸だと関心する。俺の恋人は、一本筋の通った凛とした声をしている。基礎のなった腹式呼吸で届けられる声音は、一音一音が粒立っていて美しい。慌ただしい足音の後に、扉が歪むんじゃないかという程の勢いで飛び出してきた煉獄はこの狭い1LDKには勿体ないくらいのボリュームで叫ぶ。

    「なんで起こしてくれないんだ!」
    「おはよう、杏寿郎。」
    「おはよう!君、アラーム聞こえなかったか!?」
    「3、4回聞こえたな。朝飯どうする?」
    「なんで起こしてくれないんだ…っ!」

     元来の癖毛が寝癖で更に広がって、後ろ姿のフォルムがたんぽぽのようになっている。朝のルーティンなんて忘れて取り乱しながらパジャマを脱ぎ落としどんどん身軽になっていくたんぽぽの裸の背中を見守る。

    「寝癖がすごいぞ、杏寿郎。」
    「構わないでくれ!」
    「朝飯、どうするんだ?」
    「時間ない!」

     普段ならすんなりと足を通せる靴下に、焦りからぴょんぴょんと片足で跳んで苦戦する様は、野道に根を張るたんぽぽよりもころころと転がるように走るこいぬの方が近いかもしれない。
     きっと慌てて準備をするはめになるだろうと、アラームをBGM代わりにクローゼットから出していたスーツ一式の前で、全く何の足しにもならない足踏みをしながらシャツの小さなボタンを留めるこいぬの毛がふわふわと跳ねる。ランチトートに今朝詰めた弁当箱を納め、通勤中でも腹に入れられるようにと握り飯もいっしょに重ね、テーブルに置かれたスマートフォンの横に並べて置く。

    「行ってくる!」
    「行ってらっしゃいのキスは?」
    「帰って来たらな!」
     上着に袖を通してネクタイをポケットに捻じ込む。跳ね回っている髪は無理やりひっ詰めることで誤魔化すつもりらしい、いつもハーフアップにしている髪を一纏めに束ねながら、ルームスリッパまで脱ぎ散らかして玄関に向かう姿は徐々に煉獄らしく折り目の正しい美丈夫のそれになっている。
     ワイシャツの上から三つ目のボタンが掛け違っていて、変にテンションが加わり糊のきいたシャツが波打っている事を除いて。
     
     案の定置き忘れられたランチトートと、スマートフォンを手に玄関まであとを追いかける。綺麗に磨かれた革靴に足を通し、ポケットからはみ出たネクタイを押し込みながら部屋の鍵を仕舞う煉獄の肩を叩く。

    「杏寿郎、忘れ物。」
    「ん、わかったよ。」
     片手に持ったランチトートを渡すより先に、振り向きざまに唇が触れ合う。ちゅ、と丸文字めいた随分と可愛らしいリップ音がして、続けざまに三軒隣まで聞こえるんじゃないかと思うほどの、絞り間違えたボリュームで「行ってきます!」と声が響く。

     鍵もかけずに飛び出した恋人は直ぐに姿が見えなくなり、その後遅れて扉が自然と閉じた。静かになった玄関にランチトートが落ちる音が響く。

     たんぽぽでこいぬで、とびきりの美丈夫はボタンを掛け違えたまま駆け抜けて、朝食の握り飯と昼食の弁当と、赤くなった自分はそのあと三分ほど玄関に取り残された。
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