Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ほしいも

    @20kmtg

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 138

    ほしいも

    ☆quiet follow

    ■現代パロディ(ほんのりキメ学)
    ■狛恋と猗窩煉
    ■狛治くんと猗窩座くんが双子

    #猗窩煉

    リビングが甘ったるいチョコレートの匂いで満たされている。鼻の奥が熱くなるような、朝一に浴びるには少し重たい香りだ。キッチンに立つ兄弟の背中は、後ろ手に結んだのであろうエプロンの結び目が逆さまになっている。
    「おい、朝から何してるんだ。」
    「カヌレを作っている。」
    「かぬれ…なんで?」
    「バレンタインデーだから。」
    「バレンタインデーだから…?」
     キッチンに踏み入ると、甘い匂いが強くなる。
     効率よく家事を熟することを半ば趣味にしている兄弟を中心に、予め用意されている材料や道具が広げられている。手元を覗くと大きなボウルが湯で満たされていて「湯せん…。」と、先日覚えたばかりの調理工程を呟く。簡単な食事の支度をする事はあっても、菓子作りについては全く明るくないので並べられている道具も、一度も触ったことがないものもちらほら目に付く。
     湯を張ったものより二回りほど小さいボウルに入れられているチョコレートをひと欠片拝借して、口に放り込む。漂っている香りよりも直接感じる甘味はくどくなく、カカオの香ばしさも感じ取れる。大量に削っているが、結構良いチョコレートなんじゃないか。

    「バレンタインは、女がチョコを配り歩く日だろう。」
    「そうか?」
    「そうだ。杏寿郎が女子校生に群がられる日だ。」
    「大切な人に、日頃の感謝を伝える日だろう。」
    「そんなの何時だっていいだろう。今日だっていい。」
     去年初めて、恋人が大きな紙袋を両手に下げて帰って来る姿を見た時は面食らった。学内の売店でも売っているような菓子から、チョコレート以上の重みを感じそうな手作りのものまで、とにかく大量なのだ。取捨選択することなく全て受け取って、次の月にきちんとお礼の一筆書きを認めているのを見た時はその真面目さに眩暈がするほどだった。
    「チョコレート会社の陰謀でも百貨店の陰謀でもなんでもいい、俺は感謝の気持ちで菓子を贈る。」
    「ムキになるな。どうせ恋雪に強請られたんだろう?」
    「恋雪さんはそんなことしない。」
    「狛治さんが作ったお菓子が食べたいです!って言われたんだろう。」
    「気色悪い声を出すな。」
     渾身の裏声を出すとゴムベラでチョコレートを混ぜっ返す手が止まる。両手が塞がっている兄弟から勢いの良い蹴りが繰り出され、その爪先が届かないように冷蔵庫の前へと避難する。これ以上からかうと痛い目を見るのが理解って、冷蔵庫を開けて茶を濁す。昨日まではなかったチョコ菓子が幾つも並んでいる。どこまでも恋人の言葉に踊らされる性格にため息が出る。見た目だけじゃなく、こんなところまで瓜二つなのだ。


     明らかに手作りです、といった風体のチョコレートを躊躇いなく頬張る恋人に、目を剥いた。プロの作ったもの以外口に出来ないというほど潔癖という訳ではないが、少しくらい躊躇いがあってもいいだろうと思ったんだ。
    「何が入っているか分かったもんじゃないぞ。」
    「何が入っていても嬉しいだろう。さっきのは芋餡がはいっていた!これは…マシュマロかな、これもうまい!」
     そういう事じゃない、と口にしかけて、人を疑うことを知らない恋人のおやつタイムに水を差すのは憚られて押し黙る。個包装のチョコレートをひとつ握らせられて、ほしいならそう言えばいいのに、と勝手に食い意地のはったやつだと決め付けられた。
    「渡してくれるときの顔を見ればわかる。売り物と区別する訳ではないが、手作りだからといって嫌厭するものでもない。」
    「そうか。」
    「売り場に行く時間も、作っている時間も、自分の限られた時間を使ってくれているのに変わりないからな!」
    「お前はそういう奴だったな。」
     わざわざ言うまでもなく、俺の心配に先回りする。渡されたチョコレートの包みを開いて、小さなハート型を口へ放り込む。舌の上で溶け出す前に奥歯で噛むと、甘い匂いがする恋人に引き寄せられてキスをする。
    「次は、君の時間も贈ってくれるな?」
    「もうお前の両手はもういっぱいじゃないか。」


     一年前の恋人の言葉を思い返し、もう一度深く溜め息を吐く。冷蔵庫で眠らされているオランジェットを摘まみ食いして、爽やかなオレンジとビターチョコの苦みを味わう。並べ置かれたムースショコラ、ブラウニー、クッキー、どれをとっても水準以上の味がする。使っている素材が良いのか、腕がいいのかは分からないが気合だけは十二分に伝わってくる。
     キッチンの壁に掛けられた色違いのエプロンを手に取って、後ろ手で逆さまのちょうちょ結びを作る。兄弟の隣に立って手を洗うと、どれが美味かった?と誰に聞かれる訳でもないのに息交じりの小さな声が聞こえる。バレンタインデーを前に、二人揃って少しだけ臆病になる。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🍼😚😚😚💕💕💕🍫🍫🍫😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    Haruto9000

    DONE「クー・フーリンが女性だったら」妄想。
    ※FGO第1部のみの情報で書いていたので、設定ズレなどはご容赦ください。

    【あらすじ】
    スカサハのもとで成長したクー・フーリンは、敵国女王オイフェとの一騎打ちで勝利した。
    だが、喜びも束の間、彼女の活躍をよく思わない弟子仲間たちに薬を盛られ、暴行を受けてしまう。
    ひどい精神的ショックを受けた彼女を救いたいと思うフェルディアだったが…。
    ミラーリング #9(影の国編:中編)暗雲
     キィ、ときしんだ音を立てて扉が開く。フェルディアは顔をあげた。
     暗い顔で出てきたウアタハは、フェルディアの姿を見て驚いたように目を丸くする。
    「ずっと待ってたの?」
    「ああ。──あいつは?」
    「眠ってる。……でも」
     ウアタハは痛ましげに眉をひそめた。フェルディアは再びうつむいた。


     クー・フーリンが気を失った後、フェルディアとスカサハはもたもたしてはいなかった。
     フェルディアがマントで包んだクー・フーリンを抱き上げると、スカサハは「ウアタハの元へ行け」とだけ告げた。
     スカサハの双眸は冷え切っていたが、奥底に溶岩のように滾りたつものを感じ、一番弟子は久しく見なかった師の怒りに足が震えた。
    41947