霧を突っ切る方法を見つけ、ガソリン、タービンホイール、そして冥界の香油を集めたところで暁人が倒れた。
俺はふらふらとする暁人の身体をなんとか動かし、一旦ベンチで横になる。
無理もない。もともと事故で死にかけてた身体に俺が入って無理矢理霊力を使わせている。飲み込みが早いので忘れそうだがどれも一日で使いこなせるような技ではない。
適宜回復しているとはいえ、霧や穢れにも触れている。
何よりこの雨だ。いくら夏だからと言ってもずっと体が濡れているのは流石に堪えるだろう。
「僕は大丈夫だよ…KK…早く麻里を助けに行こう」
気力で立ち上がろうとする暁人の意識を抑え、無理矢理座らせる。クソッ雨がまた降ってきやがった。
一旦屋根のあるところでちゃんと寝かせてやりたいが、残念なことにアジトもガレージもそこそこ遠い。このまま暁人の体を引きずっていくのは骨が折れる。
暁人の意識が薄れているのを感じる。出会ったときであれば、このまま身体を頂くところだったが今となっては…
暁人の意識に配慮しつつ身体を動かすのは骨が折れる。どうしようかと考えていると突然地縛霊に声をかけられた。
「あの~あなた私が見えますよね?
私、このマンションの202号室に取り憑いた霊に呪い殺されたんです!あれを祓っていただけませんか?じゃないと…」
渡りに船。つまり合法的に202号室に入れるということだ。入れということは鍵は開いているだろう。「おう、やってやるぜ」己のセリフが暁人の声で発せられる。こんな時じゃなきゃ笑えるんだけどな。
地縛霊の不安そうな視線を背中に受けながらマンションに入る。階段を上がるにも二人分の身体を支えているような負荷が掛かる。
ヨロヨロしながらも202号室に到着した。郵便受けから何やらオーラが漏れ出ている。このまま入って大丈夫かと不安が過ぎったがそれよりもさっさと祓って暁人を休ませてやりたかった。
中に入る。オーラは奥の部屋から流れ出ている。祓い用の札を構えながら進む。
部屋からは紙をめくるような音が聞こえてきた。
思い切ってドアを開けるとそこには女の霊が居座っている。
漫画を読みながら。
「なんだ?お前」
聞くと隣の部屋に住んでいた女の霊らしい。
「隣人を呪い殺して居座っていたのか?」
「違いますよ〜間違って部屋に入ったらびっくりさせちゃったみたいで…」そのまま心臓麻痺で逝っちまったらしい。可哀想に。「ちゃんと119したんですよ?」知るか。
面倒なのでとっとと祓ってやる。
ホッとしたら力が入らねぇ、我ながらめんどくせぇ身体になっちまったなぁ…と独り言つ。
体を引きずりながらベッドに横たわる。ようやく暁人の意識を解放しオレは元々の居場所、暁人の右手にもどる。額に手を当てると少し熱い。
ちょうど手の届くところにタオルがあったので失敬して体を拭く。拭ききれてはいないが濡れっぱなしよりは幾分マシだろう。タオルを放ったら暁人の身体に布団を掛けてやる。
暁人の意識は戻らない。深い眠りに就いているようだ。「無茶しやがって…」思わず口に出したが無茶をさせてるのは他の誰でもない。オレだ。
暁人の寝息を聞きながら、なんとなくオレは右手を暁人の頭に当てそのまま撫でてやる。
お前、よくやってるよ。
傍から見たら暁人が頭をかいているようにしか見えないだろうが、これが今オレにできる精一杯だ。
「…父さん…母さん…麻里…」
暁人の寝言を聞きながらオレは暁人を撫で続けた。