「あんまり吸うと身体に悪いよ」
夕暮れ時、ベランダで一服しているKKに暁人が声を掛ける。
「こうやって身体に溜まった穢れを祓ってんだよ、お前も吸うか?」暁人は煙草を勧めてくる手を払い除けながらKKの隣に立ち、人が行き交う街を見下ろす。煙草にそんな効果があったなんて知らなかったな。それにしても。
「…KKってさ、そうやってまめに祓ってた割には悪霊じみてたよね」
そう言ってKKの目の前で暁人が右手をひらひらさせると、KKが暁人の脇腹を肘でどつく。あんときは仕方なかったんだよ。
「マレビトのコアってのは穢れの塊みたいなもんだ。あんまり触ると穢れがこっちにも伝染っちまうんだよ」
しばらく自分の左手を矯めつ眇めつ眺めていた暁人がKKの横顔を見てポツリとつぶやく。
「それで、穢れを溜め続けるとどうなるの」
あの夜を超えて幾日か。暁人の左手には今もコアの手触りが残っている。
「そうだな…普通はせいぜいマレビトになれる程度だが、頑張って溜めれば悪霊になれるぞ」KKがそう答えれば「…悪霊ってポイント制なんだ」と暁人は思わず吹き出す。
そのまま紫煙を燻らせ続けるKKと暁人の間にゆるりとした時間が流れていく。
「…やっぱり一本頂戴」
「吸わないんじゃなかったのか」
「吸ったことはないけど、マレビトにはなりたくないしね」暁人はそう言いながらKKに火の点け方を教えてもらうと、そのまま大きく吸い込み、盛大に咽せる。
「ま、お暁人くんはお子ちゃまだからな」お約束通りの展開に満足したKKは涙目の暁人の顔を覗き込み、声を潜める。
「大丈夫だ、オレがお前の穢れを吸ってやる」
そう囁くと暁人の柔らかい唇に自分の唇を重ねた。
「…ん…なんか苦い」
「…大人の味だろ?」