狼×兎の火車堀🐺🐇狼族(偉い)の広光さんとこの火車くんが、奴隷市で売られていた黒兎の堀さんを見て、あれがほしい、と言うところから始まる火車堀
※奴隷とかそういう倫理観が当たり前の世界線だと思ってください
いろいろな種族の奴隷が売られている中で、ひとりだけ目隠しをされている黒い毛並みの兎族の奴隷がいました。理由を聞けば、小さい時分から奴隷にするために暗い部屋に閉じ込めていたため、光を浴びないようにしているのだとか。
だから黒い髪なのにこんなに白いんだなぁとか、その布の下にどんな目があるんだろうとか思った火車切は、気づいたら、ほしい、と言っていました。
弟の珍しいおねだりに、大倶利伽羅はすぐにお金を出してやります。
奴隷にするというよりも、友になりたかった火車切は、すぐに兎の目隠しを取ってあげました。家に連れて帰る道すがらも、あれこれといろんなものをみせたり話して聞かせたりします。
兎の堀川は、思っていたことは違う奴隷生活の始まりに戸惑いましたが、これが今の自分の役割なのだと思うことにしました。実際、外のものはなにもかも初めて見聞きするものばかりで、主人となる狼の男の子の話をうんうんと頷きながら聞いていました。
さて、屋敷に着き、夜です。堀川は、奴隷になるために育てられました。しかも兎族の奴隷ですから、主人の床で伽をするのが本来の仕事です。大事な商品ですから、傷物にはされていません。ほんの少しの自負と共に、主人の寝床へ忍び込みます。
しかし火車切は、堀川に奴隷としての振る舞いを求めているわけではなく、ただ色んなものを見せてやりたいのだと言って、誘いを断りました。だが堀川も折れません。あなたはお金と引き換えに僕を買った、その対価を受け取らねばならない、と言いました。何度も。
押し問答の末、あなたが受け取らないならもうひとりの主人であるあなたの兄に受け取ってもらう、と堀川が言って、火車切が折れて、その夜を共にしました。堀川が暗闇の中で蓄えた知識は、ほんのひとつかふたつしか活かせませんでした。奴隷としての振る舞いしか、知らなかったのです。
それから、火車切は堀川をあちらこちらに連れ出しました。色んなものを見て、食べて、触れて、堀川は知らないものがこんなにたくさんあったことを知りました。
夜になれば、仕事をしました。でも、堀川が本当に仕事をさせてもらえることは、ほとんどありませんでした。これを仕事と呼んでいいのだろうかと思いましたが、主人の命に背くこともできませんでした。
そんな中、ある夜、満月により発情した火車切に手酷くされてしまいます。痛みにも過ぎた快楽にも慣れていたつもりなのに、堀川はいつの間にか気を失っていました。
目を覚ますと、金髪翠眼の猫族の男の子が心配そうに覗き込んでいました。初めて会った彼も、実はこの屋敷の住人でした。山姥切と名乗った彼は、火車切の兄のパートナーだと言いました。
実は山姥切も元は奴隷です。運悪く奴隷商人に捕まったものの持ち前の脚力で試みた道中、たまたま通りがかった身なりの良さそうな狼に金目の物を奪う目的で襲いかかりました。それが大倶利伽羅でした。すったもんだしているうちに追手に追いつかれてしまいましたが、大倶利伽羅がその場で自分を買うと言ったので、それ以上逃げなくてよくなりました。
山姥切は、商品としての取引が成立している以上、費用に見合う対価を発生させなければと思いましたが、大倶利伽羅は、俺は商人に金を払っただけだ、あとは勝手にしろ(自由を手に入れたのだから自由に生きてください)と言うだけでした。勝手にしろといわれたので勝手に大倶利伽羅の家に住み着いて、勝手に仕事の手伝いやら屋敷の整備をするようになりました。共に暮らすうちに、存外、優しいところや可愛らしいところがあるのだと山姥切は知りましたし、大倶利伽羅はそもそも山姥切の顔がドタイプでした。大倶利伽羅も山姥切も自然とお互いを好き合うようになり、普通に恋人同士になりました。なお、山姥切が、弟君の教育に悪い、とかなんと言ってきたせいで長らく手を出させてもらえなかったというのは今となってはいい思い出です。
火車切は大倶利伽羅より小さいですが、成体です。何代も前の先祖が醜い家督争いを繰り広げたせいでどこかの神の怒りを買ったらしく、それ以来長男以外は体が小さく生まれる家系になりました。
無関心な主人から溺愛・束縛してくる彼氏に変身をとげた大倶利伽羅に山姥切はほぼ軟禁されているので、堀川とは会ったことがありませんでした。堀川をどこへでも連れて歩きたい火車切とは違い、大倶利伽羅は山姥切を屋敷からは当然出さないし、自分が屋敷にいなければ部屋からも出さないという徹底っぷりです。こういうところはあまり似ていません。
山姥切によると、大倶利伽羅も満月で発情するようですが、彼は馬でも一秒で昏睡するような強い眠り薬を飲み、満月の夜を眠ってやり過ごすそうです。山姥切はそれがつまらないようでしたが、だから部屋から出てこれたのでしょう。
火車切が屋敷の端にある、屋根が高い建物の屋根裏にいると山姥切から聞いて、堀川はそこへを向かいます。長いはしごを登った先、膝を抱えて座る火車切がいました。隣に座ると、爛々と輝いていていた金の瞳は元に戻っていました。酷く落ち込んでいる火車切の体にぴったり寄り添うように体の側面をくっつけます。
――ああいうのこそ、奴隷の仕事でしょ?
暗闇の中で、右も左も分からないまま来る日も来る日も強いられてきたことはすべてこの日の彼のためだったのだ、と堀川は思っていました。
狼族といえば、野蛮で何人も妾を抱えて偉そうにしている、という印象です。弱い存在である兎族からすれば特にそうです。でも本当は、彼らの凶暴さを、最愛の対象に向けたくないからこそ妾を抱えるものもいるのだと共に暮らしてみて知りました。
実のところ、堀川は兎のわりには、狼を恐れていませんでした。というもの、昔、どこからか堀川のいる地下室に忍び込み、外のことを色々と話して聞かせてくれた狼がいました。群れの移動ですぐにどこか遠くへ行ってしまいましたが、堀川にとって、暗闇以外の世界は彼だけでした。北からやってきたというその狼が、なぜ堀川の元に来て堀川に興味を示したのかは分かりません。ただそういう運命だったのでしょう。その姿をはっきりと見ることはついぞ叶いませんでしたが、暗い格子越しに見るその影は、大きくて、強くてかっこよかったのです。
さて、現在に時を戻します。
ろくに手足も口も動かさないまま、ただ恋人のように扱われて終わる夜を、伽と呼んでいいのだろうかと堀川はずっと思っていました。それなら今日のような方がずっと奴隷らしく振る舞えたような気がします。これこそが奴隷である自分の仕事だ、と。
でも。どちらがいいかと聞かれたら、堀川はもう一つしか答えを持っていませんでした。
いつもだって、ああやってしていい権利がある、でもそうしないのはなぜ、と堀川は己の主人に問います。
――ごめんね、ご主人様のお許しがないと、僕からは言えないんだ。
堀川がそこまで言うと、火車切は観念したように息を吐いて、好きだと言いました。本心を包み隠さず教えてと言われた堀川も、心のままに好きだと答えました。
格好悪いところ見せてごめんね、と口をとがらせて言う火車切に、僕のご主人様はずっと格好いいよ、と一層強くくっつきながら言うと、照れ隠しのキスが降ってきました。
大倶利伽羅は満月を眠りでやり過ごしていると知った火車切は、自分も同じようにすると言い出しました。でも、そんなことをするなら僕はその間山姥切さんと寝る、と堀川が言うと火車切は思いとどまりました。彼の兄たちがどうなったかは堀川も知りません。相変わらず屋敷で彼に会うことはありませんが、聞くところによれば円満にやっているようです。
されてばかりだった堀川も、恋人という建前があれば少しわがままを言えるようになりました。皆の前では立派に振る舞う主人が戸惑うさまを自分だけが見られるのです。それが嬉しいと堀川は思いました。
そんなこんなありまして、二匹と二匹は末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし。
って話が読みたい。