Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    甘味。/konpeito

    800文字チャレンジだったりssを投げる場所

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 115

    甘味。/konpeito

    ☆quiet follow

    本日の800文字チャレンジ
    クロリン/Ⅰ夏至祭前/夏の気まぐれ

    「クロウ先輩、こんなところでサボりですか」
     最近は見慣れるようになった銀髪が、校舎の隅に植えられた、樹木の根元に寝転んでいた。
     額に滲んだ汗を半袖で拭う。ここはちょうど風の通り道のようで、涼やかな風が吹き抜けていた。
    「クロウ、先輩?」
     先ほどの呆れた声は形を潜め、心配の色が帯びる。膝を折り、彼の顔を覗き込んだ。
     目蓋は閉じ、胸部がわずかに上下している。耳を澄ませば、微かな寝息まで聞こえてきた。
    「ね、寝てる……」
     すわ熱中症か脱水症状か、と肝を冷やされたリィンは安堵しながらも恨みがましい目を向けた。
     健やかな寝顔を晒す彼は、いっこうに起きる様子がない。
     しばし逡巡してから彼の隣へ腰を下ろした。
    「先日の、旧校舎ではありがとうございました。エリゼを助けられたのは先輩たちのおかげです。それから、――俺の力のこと、黙っていてくれて、ありがとうございます」
     見上げた木漏れ日を、吹き抜けた風が揺らしていく。寄りかかった幹が冷たい。汗はもうすっかり引いていた。
    「俺、あのとき先輩たちの目が変わってしまうんじゃって、思って、怖かった、です」
     クロウやパトリックを巻き込んでしまった旧校舎での出来事は、幼少期のものと酷似していた。守りたいと強く願えば願うほど、身のうちから湧き上がる、狂気のような力だった。あれ以来、自分が自分でなくなるような不安が常に付き纏っていた。
     そんな自分を見た、周囲の反応に敏感にならざるを得なかったのも、また事実だ。
    「やっぱり、クロウ先輩は不思議な人ですね」
     風がふたりの髪をいたずらに乱していく。目蓋にかかった彼の髪を、そっと避けてやる。まつ毛が震えたものの、目は覚まさなかった。
    「まつ毛、長いな……」
     今はあの、いたずらに煌めく赤い瞳は見えない。
     不意に周囲の音が遠くなった。鼓動が耳の奥から聞こえる。
     触れるつもりじゃなかった、なんて加害者特有の言い訳だ。彼の唇に触れてしまった口元を覆い、転げるようにその場から走り去った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏😭🍬💖💘😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator