Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    yuno

    @inblue_info

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 39

    yuno

    ☆quiet follow

    男やもめ江澄な曦澄の続き。葬儀の悲しみから少し落ち着いた頃あたりです。藍曦臣の独白ターンで、気遣う曦臣と立ち直ってく江澄。まだ関係深めは蝸牛の歩みです。曦臣も無自覚。

    #曦澄

    【曦澄】もう一度 #2気丈な人の気落ちした背中が胸に痛く、少しでも慰めになればと、あれから季節の折には文を送り、子供たちへと菓子を贈った。
    そんなこちらの気遣いを、江晩吟は丁重に受け取ってくれた。
    返礼の文に添えられた、子供たちが菓子を喜んで食べていた様子に藍曦臣も慰められたように思う。
    葬儀で目にした幼子たちは、突然の母親の死に戸惑い、嘆き悲しみ、怯えているようにも見えた。
    おそらく初めて触れたであろう死というもの。喪失の悲しみや寂しさに加え、何か得体の知れない恐れを感じ、父親の傍を離れなかった姿を思い出す。不安に怯える幼子の姿を見るのは心苦しい。そんな子供たちを、決して失うまいと抱き寄せていた彼の人の腕もまた震えていたのを覚えている。
    その幼子たちが菓子を喜んでくれたという。子の笑顔はきっと彼の慰めにもなったことだろう。

    手紙には、藍曦臣の気遣いのお返しにと、蓮花塢に招きたい旨が記されていた。
    葬儀からもう半年。季節が巡り、もうすぐ夏になる。蓮の開花の時期だ。
    湖一面に広がる蓮の花はさぞ美しく見応えがあるだろう。
    蓮は泥に染まらず美しく咲く花。強く清らかな花が彼らを慰め、励ましてくれるに違いない。

    「……」

    一度だけ蓮花塢の蓮を見たことがある。婚儀の折、客房に泊めて貰い、翌朝案内してもらった。蓮の開花はここ蓮花塢の朝の宴なのだと江晩吟は誇らしげに笑っていた。
    湖一面を覆い尽くす、言葉を失うほどの美しい神秘的な光景。彼の人の満ち足りた微笑み。在りし日の幸福の記憶だ。

    その思い出の場に、もう一度招かれる。
    その場に自分を招いてくれるのかと、光栄に思うとともに、身の内に留まらず、客人を招ける江晩吟の心の強さを見た気がした。

    彼は立ち直り、思い出に浸り留まることなく、再び前を向いて生きていこうとしている。
    悲しみに暮れるのではなく、こうして自身を労った者に感謝し、礼を返そうと心を配っている。文にも、今を生きる子らの姿を見る姿勢があった。

    「やはり貴方はお強い。今を生きる方だ」

    知らず、笑みが浮かんだ。
    宗主として、また共に戦線を潜り抜けた者として、これまで浅くはない縁があったと思う。
    思い出すのは気丈に前を向く背中と、真っ直ぐに見据える眼差し。涙し、慟哭する姿を見たこともあったが、彼の目は常に前を向き、生きている今を見ていた。

    「まるで蓮の花のようだよ」

    苦難に挫けることなく、面を上げ、強く生きる。その姿は美しい。
    その強さに、美しさに、時に驚かされ、時に眩しく、また励まされたことを思い出す。

    「もしかしたら、慰められているのはまた私の方なのもしれないね」

    在りし日を懐かしみながら、藍曦臣は江晩吟の筆跡をそっと撫でた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘💘☺🙏👏💖🇪🇴💖💖💖🙏🙏☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

    takami180

    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

    takami180

    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

    recommended works

    sgm

    DONE猫の日の曦澄。
    ひょんなことからイマジナリー(霊力)猫耳と尻尾が生えて猫になった江澄。
    何かとご都合。
    他作リアクションありがとうございます!!
    「魏公子。これは、一体……?」
     藍曦臣は目の前のことが信じられず思わず隣に立つ魏無羨に訊ねた。
    「見ての通りです」
    「見ての、通り」
    「ですね。見ての通り、江澄の奴、猫になりました」
    「……猫」
    「猫、ですね」
     笑いを含んだ魏無羨の言葉に藍曦臣は改めて日の当たる場所で丸くなっている江澄を眺めた。薄っすらと透けた黒い三角の獣の耳が頭に。やはり薄っすらと透けた黒く細長い尻尾が尾てい骨の当たりから生えている。猫と言われれば確かに猫だ。
     藍曦臣はさらなる説明を魏無羨に求めた。

     昨日から藍忘機が雲深不知処に不在だからと蓮花塢に行っていた魏無羨から急ぎの伝令符が来たのが、卯の刻の正刻あたりだった。
     藍曦臣は起きていたが魏無羨がその時間に起きていることなど珍しく、受け取ったときは驚いた。よほどのことが蓮花塢であったのだろうと慌てて急務の仕事を片付け、蓮花塢に到着したのが午の刻になったばかりの頃。案内をされるままにまっすぐに江澄の私室に向かい、開けなれた扉を開けた藍曦臣の目に飛び込んできたのは魏無羨の赤い髪紐にじゃれて猫のように遊ぶ江澄の姿だった。
    3340

    sgm

    DONE曦澄ワンドロお題「失敗」
    Twitterにあげていたものを微修正版。
    内容は変わりません。
    「なぁ江澄。お前たまに失敗してるよな」
     軽く塩を振って炒った豆を口に放り込みながら向かいに座る魏無羨の言葉に、江澄は片眉を小さく跳ね上げさせた。
    「なんの話だ」
     江澄は山のように積まれた枇杷に手を伸ばした。艶やかな枇杷の尻から皮をむいてかぶりつく。ジワリと口の中に甘味が広がる。
    「いや、澤蕪君の抹額結ぶの」
     話題にしていたからか、ちょうど窓から見える渡り廊下のその先に藍曦臣と藍忘機の姿が見えた。彼らが歩くたびに、長さのある抹額は風に揺れて、ふわりひらりと端を泳がせている。示し合わせたわけでは無いが、魏無羨は藍忘機を。そして江澄は藍曦臣の姿をぼんやりと見つめた。
     江澄が雲夢に帰るのは明日なのをいいことに、朝方まで人の身体を散々弄んでいた男は、背筋を伸ばし、前を向いて穏やかな笑みを湛えて颯爽と歩いている。情欲など知りません、と言ったような聖人面だった。まったくもって腹立たしい。口の中に含んだ枇杷の種をもごもごと存分に咀嚼した後、視線は窓の外に向けたまま懐紙に吐き出す。
     丸い窓枠から二人の姿が見えなくなるまで見送って、江澄は出そうになる欠伸をかみ殺した。ふと魏無羨を見ると、魏無羨も 2744