忘らるる花の散るが如く─沢蕪君が怪我を負われたそうだ。
その報せが届いた頃には既に、噂の張本人は回復し執務に就いていると言う。その話を聞いた日、江澄はひと月ぶり程に雲深不知処の門を潜った。
その日は前々から予定されていた。藍氏と江氏の若手達を集めて合同演習を行う事についての話し合いをする予定だったからだ。座学で有名な藍氏だが、それだけではなくこの所じは実技にも力を入れているらしい。提唱者は意外にも藍曦臣で、その補佐としてかつての義兄も一枚噛んでいるだとか。
その流れだか縁だか知らないが、江澄に協力の要請が掛かり今に至る。江澄としても現在大事な甥が座学に参加しているということもあり、協力する事に否はなかった。あの義兄と、ついでにその横の仏頂面と顔を合わせなければならないのは少しばかり業腹であったが。
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