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    ベルジャン(2009/12/12)

    夢と浪漫と贅沢な困惑・前休日っていいね、昼までのんびり眠れるってやっぱ最高。

    肌触りのいいシーツに懐きながらうっとりと俺がそう言うと、ベルナルドは同意の笑みを零しながら「明るい太陽の下で、乱れるお前を見れるなんて堪らないよ」と実にベルナルドらしい台詞を吐きやがった。……そういう意味じゃねえっつの。
    ハローハロー、こんにちはミスターエロ親父。今日のデイバンで一番変態だったで賞は、朝一番にお前の受賞が確定だ。

    仕事に忙殺されて、同じ屋敷で寝起きしていながら満足に顔を合わせる時間も取れなかった一週間を終えて、俺達はベルナルドの別宅の一つ、デイバン郊外のアパートにいる。ベルナルドの部屋にしては珍しく、ここには電話線が三本しか引かれていない。三本も、じゃなくて三本しか、だ。電話の王様を引退した後も、ベルナルドの周りから高低様々な音色のベルの音が途絶えることは無かったが、ここについてから丸一晩、俺は鳴り響くその音を聞いていない。そのことからも分かるように、ここは本当にごく一部の部下しか知らない秘密の隠れ家だった。
    一ヶ月ぶりに取れるはずだった丸一日の休暇、本来一週間前に取れていたはずのそれは舞い込んできた仕事に追われて伸びに伸び、結局曜日が一巡りしてしまった。連日連夜ジジイに囲まれ野郎に囲まれて、俺はいい加減へこたれていた。
    このままではなし崩しに休暇が消えてしまうんじゃないか――疲れ果てていた俺と、疲れも溜まっていたがそれ以上に別のモノも溜まっていたベルナルドは、可哀想なイヴァン君に山のような仕事と賄賂代わりのロリポップを押し付けて二人してこの部屋に逃げ込んだ。ルキーノとジュリオはそれぞれ別の用事でデイバンを空けているから、今頃イヴァンは大量の書類と爺様方の小言の渦とに埋もれて、一人壊れたレコードみたいにファックファックと喚き散らしていることだろう。そして明日帰ればきっと土石流の様な盛大なスラングの洪水が待ち構えている。山盛りのホットドッグを土産に買って帰ったら少しはマシになるかな……ムリか。
    それでも、一日くらいはゆっくり羽を伸ばしたい。マフィアのボスと筆頭幹部の夢としてはとてもとてもささやかな願いだった。その程度の贅沢は、許してもらってもいいだろう?

    溶けた脳みそが耳から垂れてくるくらい、どろっどろになるまで思いっきり寝たい。
    一月の間、焦がれに焦がれたお休みが手に入る。俺はジャンプしてふかふかのベッドにダイブして……抱きしめかけた幸せを、追いかけてのしかかってきたベルナルドに取り上げられた。
    や、あの確かにそっちもシたかったですけどネ? あなたのハニーはそろそろ体力限界ですよ――と、訴えた声は届いていたのかいないのか。
    一回目のキスで腰が砕けて、二回目のキスで背骨が蕩け、三回目のキスで頭がイかれた。
    後はもう押して知るべしで、結局は朝陽を拝む頃まで、羊の代わりにベルナルドのキスの回数を数える羽目になった。……まあ、その頃には俺のほうも、「もっと」だの「やめんな」だのとこっぱずかしいうわ言を吐いていた訳、なんだが。
     

    「お前、ホントそれしか考えてることねえのけ? ポカポカな日差しに、優しいシーツの肌触り、のんびりまったり昼まで寝っ転がる幸せが分からないなんて、可哀想な人ねダーリン」
    「うん? 明るい日差しの下でよーく見えるお前の身体中のキスマークに、寝乱れたシーツ……最高の景色だね。これ以上の幸せは、あいにくと知らないな、ハニー」

    上半身を起こして、寝転んだままの俺の傍で人の髪を撫でて遊んでいたベルナルドが言う。
    伸びてきた指先が首筋をくすぐって、それから身体の、幾つかの場所に順に触れた。掠めるような軽い触れ方なのに、びくりと大げさに反応しちまったのは身体に染み付いた昨日の記憶のせいだ。
    触れられたその場所は皆、昨日の晩、ベルナルドの唇が落ちて痕跡を刻み付けた場所だった。

    「……っ、なっ、ば……ばっか、お前……っ!」

    残されたこいつの痕を思い出して、俺は慌ててシーツにくるまる。皮膚がベルナルドの唇の感触を……時には甘く歯を立てられたその感覚を思い出した。
    エロオヤジの台詞の所為で、さっきまで心地良いまどろみをくれるばかりだったシーツが羞恥心を煽り立てる代物になり変わる。
    二人して転がり込む前までは、コインを落とせばきっちり1インチ弾むくらい完璧なベッドメイクをされていたこのベッド。一本の皺も無くピンと糊の効いていたシーツなのに、今ではくしゃりと皺だらけだ。腰を高く上げた姿勢で這わされて、ホンモノの犬みたいに涎垂らしてアンアン鳴かされながら、縋りつくようにシーツを掴んだ。今、俺の顔の横にくっきりと刻まれているシーツの皺……一際目立つその痕跡は、まさかあの時の痕なのか?
    「――っ、」
    さっきまで気にならなかったはずなのに――部屋の中、俺たちの周りにシーツに染み付いた精液の匂いが充満している気がする。
    そのシーツにくるまっている所為で、匂いは余計に強く感じられて。でもその下で俺はなにも身に纏わずに目覚めたときのままの姿だったから、這い出ることもできなかった。

    「どうした、ジャン? 顔が赤いぞ?」

    わざとらしく、ベルナルドが俺の顔を覗き込んでくる。
    わかっていやがる癖に――熱でもあるのかな、なんてとぼけながら額を寄せてきた。デイバンで一番白々しいエロ親父で賞の受賞が確定。朝っぱらから二冠達成おめでとう、ダーリン。あなたのハニーとしてとっても鼻が高く――ない。まったくもって嬉しくないわダーリン。
    こつんと額をあわせれば、当然顔と顔も近くなる。
    ベルナルドの高い鼻が俺のとくっつく位に寄せられて、間近で見る緑の瞳はドロップみたいな旨そうな色とは裏腹に、俺の背中に電流を流してびくりと震わせる光を悪戯そうに灯していた。
    薄い唇が、ニィとつりあがって……舌先が、唇を舐める。舌は赤くて、俺はその熱さを知っていて、そんでもって、多分俺が吸い寄せられそうになってるこの衝動のままにほんの数インチ距離を詰めればベルナルドはきっとすげえ熱くて甘いキスをくれる……。
    ……くれる、って……俺は何を考えてんだ。
    俺が欲しいのは久しぶりの休暇、仕事の時間に追われることなく呑気に昼までいびきを掻いて寝てることだったはずだろう? なにをコイツに釣られてその気になりかけてるのかしらね、俺の馬鹿。

    「あのな……、ベルナルド……」
    「なにかな、ジャン」
    「っ、あ、そ……そのですね、ったく、お前はー……」

    もごもごとどもりながら、俺はなんとか話を逸らす術を探す。
    どうにかして逃げねえと、本当に丸一日こいつの下で喘がされることになる。それこそ、このシーツがとても寝てられなくなっちまうくらいドロッドロになるまでだ。昨日の夜だけでも散々ヤリまくったのに、眠って起きてまたセックスだなんてちょっくら爛れすぎちゃいませんか?
    尋いちまったら絶対に、思わないねという否定の言葉が――いや、それの何がいけないんだいと開き直ったいい笑顔が落ちてくるのがわかってたから言わなかった。その代わりに、なんとか巧い口実を探す。だが間近から射竦められる視線がただでさえお馬鹿な脳みそを更に鈍くしていて、思考は空回り。周り車を必死で回すネズミみたいに、同じところをカラカラと回っている。
    ベルナルドは余裕顔――すっかりと楽しそうに、俺を見下ろしてにやついていた。
    エロ親父め……。
    ベルナルドが笑いながら喉を鳴らすと、喉仏が上下する。余計な肉の一切ついていないベルナルドの身体は、筋肉の動きが一目で分かるくらい綺麗なモンだった。俺と同じように素っ裸のままで、俺がひっくるまっているシーツの端が下半身を隠している。しかしさっき俺が包まるために引っ張ったせいか、きわどい部分までずり下がっていた。見えそうで見えないギリギリ感……微妙に嬉しくないチラリズムだ。シーツの隙間から見上げた輪郭は、日がな一日椅子に座っているばかりの癖に一向にたるんじゃいなかった。
    そりゃそうだ。どこのウサギさんかってぐらいに小食なくせに、あの食事内容で太れるんだったらその方がおかしい。
    こいつを見てると、人間の三大欲求ってのは嘘なんじゃないかと思うことがある。
    ダイエット中の女だってもう少し食うんじゃないのかっていう量の食事に、いつもいつも東の空が白み始める頃まで明かりがつきっぱなしの執務室。
    食欲と睡眠欲が欠けている代わりに、性欲が三倍増になってるんじゃないだろうか、この男は。

    ……と。

    「そうだ、メシ! メシだ!」

    ようやく思いついて、俺は思わず叫んでいた。
    朝起きたら朝飯を食う、それが常識。……すくなくとも朝起きてまずセックスをするよりは、一般的だ。
    朝は経済紙を読みながらコーヒーを飲んで済ませちまいがちなベルナルドは、声高に空腹を主張した俺を見て首を傾げた。

    「ん? なんだ、腹が減ったのか?」
    「減った減った。ちょー減った。そういや、昨日はロクに喰えなかったんだよ。ランチは役員の爺様たちの説教がソース代わりだったし、夜はどっかのパーティに招待されて、オードブルつまむ暇も無く次から次に話しかけてきやがる相手がいてさぁ」

    おまけに深夜の大運動会だったし?
    とりあえずイケナイ方向に突っ走る流れを変えようと言い出しただけだったが、口に出してみると俺の身体は本当に腹が減っていた。きゅう、と場の空気を読んだかのようになった腹にナイスタイミングと親指を立てて何かあったかなと冷蔵庫の中身に思いを馳せる。

    「そりゃご苦労様。言ってくれれば、昨日のうちに夜食を用意させたのに」
    「……あー……まあ、ね……」

    そうしてもらえばよかったな。つか、腹が減ってたら自分で適当に買ってくりゃよかったのに、なんでしなかったんだっけ?
    昨日の晩の自分を思い返して……うん、言わないほうがいい。
    早く会いたいと焦る余りに空腹をすこんと忘れていたなんて……恥ずかしすぎるにも程がある。

    「そんなことより、早くメシにしようぜ。腹が減ってクラクラしてきた」

    適当に話を濁して、俺は勢い良くシーツを剥いだ。下手に恥じらいを持つと逆に変な空気が残っちまうから、豪快にだ。
    ベルナルドは少し名残惜しそうに背中越しの視線を送ってきたが、こちらが本当に空腹だというのを悟るとすうっと纏う空気を改めた。なんというか、夜から朝へ。とっくに空けたはずの夜の気配を色濃く背負っていたベルナルドの笑顔が、朝らしい爽やかなものに切り替わる。たったそれだけで印象がまるで違うんだから、人間ておもしろいよな。そして朝のベルナルドは、人の足の指までしゃぶりついてくる変態さの面影も無く文句なしにいい男だった。
    ずっとこうならいいんだが、と思わなくも無いが、ダメオヤジじゃないベルナルドなんてベルナルドじゃないからな。そこはそれ、惚れた弱みだから仕方が無い。
    んーっ、と、大きく背を逸らして伸びをする。
    えっと、パンツはどこへやったかな。すぽんと脱いで適当に放り投げちまった昨日の衣服が、部屋の床に点々と散乱していた。とりあえずシャワーでも浴びるまでは、脱いだものを適当に身に着けていればいいだろう。
    そう思って、ベッドから降りたところで踏んづけたシャツを拾い上げて適当に羽織る。

    ……って、これベルナルドのだ。

    昨日の夜、見せ付けるようにゆっくりと服を脱ぐベルナルドに、焦れて引っぺがして放り捨てたやつ。ろくに柄も見ずに袖を通したが、ふわりと生地に煽られて漂ってきた匂いで気が付いた。まあ別にいいだろう、と思ってそのまま着る。だけど、着てから気が付いたのはこれ……デカイ。
    体格が違うのはわかってたんだが、肩幅はだぶだぶだし裾も余る。ベルナルドは身長は高いがガタイがいいわけじゃないから胸の厚みはそう変わらなかったが、長い袖なんかは指先まで隠れそうなほどだった。
    ……うう、なんか悔しいわ……。
    脱いじまおうか……でも、それもなんだか負けた気になる。
    まあいいや、と複雑な心境を放り投げて、真ん中辺りのボタンをひとつ、適当にとめた。あー、穴ズレてる……。シャツ自体がデカイから大雑把に着ると上手く着れないんだな。でもま、別にいいか。どーせキッチンに行くだけだし。

    「おい、……ジャン? お前……」
    「なんだよ。イイだろ? ちょっとくらい借りたってさあ。また脱ぐのめんどくせーんだよ」
    「いや、そういう意味じゃなくてね。……まさか、無意識か?」
    「は? 何が? とりあえずメシにしようってば、俺ホント腹減ってんだよー」

    へこたれた声を上げると、ベルナルドは掠れた声で一応は頷きながらも、はあと深く溜息をついた。なんなんだか……首を傾げて、俺は辺りを見回す。
    で、……パンツはどこだったっけ? 
    散らかった床に落ちていたそれを発見し、拾い上げようと屈みこんだあたりでベルナルドがまたも変な呻きを上げた。






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