ダイの剣が色んな意味で活躍する話「んー……」
部屋に差し込める眩しい朝日を浴びながら、おれは起き上がると、ベッドの上で大きく伸びをする。
なんだか久しぶりによく寝たかも。
ふかふかのベッドと、何よりも気をはらなくていいおれの部屋で寝れるのは、やっぱり安心する。
おれの剣を作りに行く前にここで休んで以来だから……十日振りぐらいか。
ここ数日の出来事を思い出したら気が抜けて、おれはぽすんとまたベッドに横になった。
十日程前──
ロン・ベルクさんに剣を作ってもらっていると、パプニカが鬼岩城により襲撃された。
剣が出来上がり、急いでおれはパプニカへ向かったんだけど、そこで見た光景はおれの予想に反するもので。
船は壊され、街はみんなメチャクチャにされている……と思いきや、パプニカの街は全くもって無事だったんだ。
正確には、人々は逃げまどってはいたんだけど、港も街も、どこも壊されていなくて。
じゃあ鬼岩城はどこにいたのかというと……パプニカの周りをずっとウロウロしていたらしい。
一応魔影軍団はいたみたいなんだけど、街には攻め込まず、みんなと戦っていたんだって。
とりあえずこんな所にいつまでも居られても迷惑だから、元の世界と同じように鬼岩城はおれが剣で真っ二つにした。
でもポップは、キルバーンとミストバーンが一体何をしにやって来たのかツッコまずにはいられなかったみたいで、二人を追って行ってしまったんだ……!
結局おれがポップを追いかけることになり、辿り着いた先の死の大地で、ハドラーと対決することになった。
そこから先は、元の世界と同じ流れで……。
氷山にぶつかったおれを助けてくれたのは、新しく相棒になったおれの剣で、氷河の中からおれを見つけ出したのは、やっぱり相棒のポップだった。
色々あった後、みんなでパプニカに戻ってきた時には、おれは疲労と安堵による高熱で、ポップの腕の中で横抱きにされたまま気を失っていたらしい。
マァムの話では、おれは、さむい、さむい……とうわ言を言っていたらしく、それを聞いたポップが何故か服を脱ぎだしたんだって。
その場にいた先生やクロコダイン、ノヴァ、ベッドで寝ていたヒュンケルにもポップは止められたらしいんだけど、誰が介抱するかってよく分からない話し合いを始めたらしい。
当然マァムやレオナ達はそんなの待ってられないからって、城中から毛布を集めたり、部屋をあっためたりしてくれたんだってさ。
そのおかげで、おれの体調も3日経つ頃にはすっかり良くなり、隣のベッドで休んでいたヒュンケルと話した結果、その翌日武器の修理をお願いしにロンさんの所へ行くことになった。
ロンさんは、予想通りムチャクチャ機嫌が悪く、あの地獄の特訓がまた始まるんだなぁとおれは思った。
久しぶりに手合わせしたロンさんはやっぱりすごく強かった。
あっちと違って、ヒュンケルは今も鎧の魔剣を使っているから、ヒュンケルはロンさんとほぼ互角に渡り歩いていた。
でもそれに対しておれは……正直おれってまだまだだなぁなんてちょっと悔しい思いをしていたんだ。
日中は、その厳しい修行と、鍛冶仕事の為の雑用なんかをしていたから、夜はクタクタで。
ロンさんが提供してくれた、おれとヒュンケルが休める部屋は、普段は物置として使ってる部屋で、寝られるスペースも限られていた。
ベッド代わりになりそうな大きな木箱を並べ、そこで休むことにしたんだけど、ヒュンケルがおれにその場所を譲ろうとしたから、おれは二人で寝ようって言ったんだ。
ヒュンケルは、中々うんって言ってくれなかったけど、最後には根負けして、おれの真横に横になった。
昼の疲れと、ぴったりとくっついた温もりと、どことなく安心するような、ヒュンケルのいい匂いがして、夜はぐっすり眠った。
でもヒュンケルはよく眠れてなさそうだったから、ちょっと悪いことしちゃったかな……。
最後の日、ヒュンケルに謝ったら、おまえが気にすることじゃないって言ってくれたけど。
そんな感じで修行を終えて、こっちへ戻ってきたのが昨日のことだ。
今日から数日は、水面下の準備を整える為、そして各自の準備を整える為の調整期間らしい。
それが終わると、いよいよ死の大地へ乗り込むのだそうだ。
そして、この間のアップデートの時にゴメちゃんが言ってた通りならば、もしかしたら誰かとエンディングを迎えることもあるかもしれない。
今の所おれが目指しているのは、『誰ともそこまで深い仲にならないギリギリの所にある』エンディング、だからね。
あらためて気を引き締めなきゃ……!
そこまで考え、おれはとりあえず腹ごしらえをする為に、階下へと降りていった。
トースト、ハムエッグ、サラダ、そして牛乳という至って普通の、でも十分美味しい、じいちゃんの作ってくれた朝食を食べ終え、おれは再度部屋に戻ってきた。
机の隣に立てかけたおれの剣が、朝日を浴びてきらきらと輝いている。
今の所、戦いではこいつの力に頼りっぱなしだ。
だけど、ゴメちゃんの話では、こいつの力はそれだけじゃなくて、便利機能もあるらしいし……。
──まあそのうち頼ることになるんだろうな……。
そんな風に、おれは本当に漠然とそんな事を考えていたんだ。
とりあえず、今日は久しぶりのアカデミーの日だ。
急いで支度をし、おれはアカデミーへと向かった。
夕方──
アバン先生によると、急遽このアカデミーの改修工事が決まったらしく、明日から1週間ほどアカデミーは休校となるのだそうだ。
この間の鬼岩城の襲撃で建物にヒビが入ったらしいんだけど……本当かなぁ……?
……鬼岩城、ウロウロしてただけのはずなんだけど。
決戦準備を整える為の期間とはいえ、アバン先生はおれたちにたんまりと宿題を出してきた。
決戦に役立つかもしれませんよ、とは言っていたけれど……。
──ちゃんと……終わるかなぁ、おれ……。
決戦のこともあるけど、おれはどっちかというとそっちの方が今は気がかり。
授業が終わり、席で荷物をまとめていたおれに、ポップが近づいてきた。
「ダイ、一緒に帰ろうぜ」
▶「うん、帰ろう」そう言ってポップと一緒に帰ることにした
「ごめん、また今度でもいい?」今日はポップの誘いを断った
──ああ、今日は選択肢かぁ……。
どうしようかな……。
そういえばゴメちゃんに言われてから、いつも断ってた気がするなぁ。
……たまには、いいよね?
そう思ったおれは……
▶「うん、帰ろう」そう言ってポップと一緒に帰ることにした。
「よ、よし!」ポップはそう言っておれの肩を抱く。
「そうと決まりゃあ、さっさと行こうぜ!」
「?うん」
そんなに早く帰りたいのかな……ポップ。
そう思いながら席を立ち、歩きだそうとした所で、目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
「……⁉え……なに……⁉」
目の前のポップも、周りにいるみんなも静止したままで、周りの景色はあっという間に歪みの渦に巻き込まれていく。
──なんだ⁉一体何が起こってるんだ……⁉
周りの景色がすべて渦に飲み込まれたかと思うと、今度は渦から眩しい光が放たれた。
思わず一瞬目を閉じ、再び目を開けると、そこは同じ教室で、おれは席についたままだった。
机の上には、ノートやペンが広げられたままで。
そんなおれの所へポップがやってくる。
「ダイ、一緒に帰ろうぜ」
▶「うん、帰ろう」そう言ってポップと一緒に帰ることにした
「ごめん、また今度でもいい?」今日はポップの誘いを断った
目の前には先程の選択肢が表示されたウインドウが。
「え……どういうこと⁉どうして時間が戻ってるんだ⁉」
おれが混乱していると、ウインドウの上にぽふんという音ともに、ゴメちゃんが現れた。
「やあ、ダイ」
「あっゴメちゃんっ!今、時間が……!」
「うん。キミの剣の効果だね」
「おれの……剣……?」
「そう。この前のアップデートの時に言ったことは覚えてるかい?」
「便利な機能、ってやつ?確か……」
「一定の確率でルートを修正してくれる機能、だね」
「じゃあ、今のが……!」
「発動したみたいだね。キミ、ポップと帰ろうとしただろ?」
「うん。最近一緒に帰ってなかったし大丈夫かな、と思って」
「甘い甘い!そんなことやってたら、あっという間にポップとのエンディングになっちゃうよ!」
「う……そうなんだ……。ごめんよ……」
「今回は剣に救われたね。次は気をつけてね……‼」
ゴメちゃんはおれにそう言うと、またぽふんという音ともに消えた。
えっと……それじゃあ気を取り直して……
▶「ごめん、また今度でもいい?」今日はポップの誘いを断った
「えっ……⁉」
「ごめんよ、ポップ。今日はちょっと……」
「あ……そ、そっか。……わぁったよ。んじゃ、また今度な」
ポップは残念そうな顔をした後、帰っていった。
さ、おれも帰ろう……と思ったところで、また声がかけられる。
「ダイ君」
「アバン先生?なんですか?」
「いえ……少し気がかりになったもので」
「?」
「宿題をたくさん出したでしょう?君、どちらかというと座学は苦手でしょうからね」
「う……!」
「もし君さえよければ、休校期間のどこかで進み具合を見てあげますよ。いかがですか?」
「えっと……」
確かに宿題はたっぷり出されていて、あいにくおれはそれを全部終えられるかどうか自信がない。
そういえば前にも個人レッスンをするか聞かれたけど、先生は忙しいだろうからって断ったんだっけ。
休校中なら、先生もちょっとは手が空くかな……?
休校期間中に、アバン先生のレッスンを
▶受ける
受けない
▶受ける
「それじゃあ……お願いしてもいいですか?」
正直おれ一人で宿題を終えられる自信はなかったから、先生が教えてくれるのならすごく心強い。
「もちろんですよ。では、そうですね……どのくらい進んでいるかペースを見るために、6日後にしましょうか」
6日後……つまり休校になって5日目だ。
その日も含めて、アカデミーが再開する日まで3日あるし、ペースが悪くてもなんとかなるかも……!
「はい、先生!」
「では念の為、朝から始めましょうか。私の家は覚えていますか?」
──アバン先生の家なら、みんなで遊びに行ったことがある。
「覚えてます」
「よろしい。では待っていますからね」
先生は満足気に頷くと、教室を出ていった。
すると、また目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
──え……また……⁉
あれよあれよという間に周りの景色が渦に飲み込まれていき、渦から眩しい光が放たれた後、おれはまたぼうっと席に座っていた。
「ダイ君」
またおれに声をかけるアバン先生。
「アバン先生?なんですか?」
「いえ……少し気がかりになったもので」
「?」
「宿題をたくさん出したでしょう?君、どちらかというと座学は苦手でしょうからね」
「う……!」
「もし君さえよければ、休校期間のどこかで進み具合を見てあげますよ。いかがですか?」
「えっと……」
休校期間中に、アバン先生のレッスンを
▶受ける
受けない
また、おれは選んじゃいけない方を選んでしまったらしい。
「ごめん……おれの剣。先生もダメだったんだね……」
効果が発動するのは一定の確率のはずだから、今日のおれはツイてるみたいだ。
でも、連続して助けてもらうことになって、ちょっと情けない。
さてと……
▶受けない
「いえ……自分でなんとかしてみます」
今度はアバン先生の誘いを断った。
「……そうですか。まあ一人で頑張ってみるのも大事ですからね」
頑張ってくださいね、とポンとおれの肩を叩くと、先生は教室を去って行った。
おれがそんな会話をしているうちに、ほとんどの人はもう帰ってしまったらしい。
気づくともう残っているのは、おれと、片付けをしていたヒュンケルだけだった。
「ダイ、もう支度は終わったか」
「あ……うん。終わったよ」
ヒュンケルも帰り支度が整ったらしく、一緒に教室を出る。
ヒュンケルは、パプニカの街の外れの森の近くに一人で住んでいるらしい。
賑やかな所より静かな方が落ち着くんだって。
おれたちの帰る方角は一緒だから、アカデミーを出た後も、そのまま同じ方へと足を進める。
今日は久しぶりのアカデミー、しかもまた明日から休校ということで色々話があったから、いつもよりちょっと遅い。
空はオレンジ色から薄い紺色へと変わろうとしていた。
ヒュンケルと今日の授業の内容や決戦のことなんかを話しながら歩いていたら、ふと妙な視線を背後から感じた。
ぱっと後ろを振り返るが、見えるのは帰宅を急ぐ人たちの姿だけ。
「……ねえ、ヒュンケル」
「……ああ。だが、魔王軍というわけではなさそうだな」
どうやらヒュンケルも感じ取ったらしい。
でももうその気配は現れず、おれたちは再び歩き出した。
「休校の間はどうするんだ」
「うーん……とりあえず宿題が終わるかが心配かなぁ。本当は修行もしておきたいんだけどさ」
ロンさんの所での修行の時も思ったけど、おれは剣技に関しては、ロンさんにもヒュンケルにも及ばない。
──もっと、強くならなくちゃ……!
そんなおれの思いに、ヒュンケルは気づいていたんだろう。
「ダイ……もしおまえが望むのならば、オレが修行の相手になるが……」
「本当⁉」
「ああ。どうする?」
ヒュンケルは剣の天才だ。アバン流刀殺法にも精通しているし、アバンの書も暗記するくらい読んだって言っているくらいだから、修行の相手になってくれるならすごくありがたい。
どうしようか……。
▶「じゃあ……お願いしようかな」おれはヒュンケルの言葉に甘えることにした。
「やっぱり……いいよ。ありがとう」悩んだ末、ヒュンケルの誘いは断った。
▶「やっぱり……いいよ。ありがとう」悩んだ末、ヒュンケルの誘いは断った。
「宿題終わるかどうか分かんないし……ヒュンケルだって、自分の修行もあるでしょ?」
「……そうか。わかった」
ヒュンケルはそれ以上は何も言わなかった。
そんな話をしているうちに、分かれ道にたどり着く。
ヒュンケルは直進する方、おれは左に曲がる方へ家があるからここでお別れだ。
「ヒュンケル、またね」
「ああ……気をつけてな」
「うん、ヒュンケルもね」
そう言っておれたちは別れたのだった。
▶「じゃあ……お願いしようかな」おれはヒュンケルの言葉に甘えることにした。
→ヒュンダイルートへ
こうしておれの、恐るべき休校期間は幕を開けたのだった。
続く