勇者受BLゲームの大型アプデ話前設定
ダイ、他アバンの使徒やノヴァなどはパプニカに住み、アバン先生が開設したアカデミー的な所に通っている
ポップは両親と共に住んでいる(ランカークスから引っ越した)
ブラスとの夕食を終え、入浴も済ませたダイは、2階にある自室のベッドにゴロンと横になった。
気がつけば、こちらに来てもうふた月ほどを迎える頃だった。
毎日、何かしらの選択を迫られてはいたが、今の所、色々と無事ではある。
この前、元いた世界が恋しくテランに一人で出かけた際は、ポップとのイベントが発生したものの、何とか危機的状況は回避した。
だが最近は、好感度を上げすぎてしまったのか、やたらと選択肢が多いようにダイには思えた。
今日1日にあった出来事を、ダイは振り返る。
昨日の夕方、クロコダインに誘われ修行に付き合ってハリキリすぎたようで、今朝はいつも早起きのダイにしては珍しく寝坊をしてしまった。
大抵はポップが迎えに来るのだが、生憎今日ポップは日直で早出の為おらず、今日は一人でアカデミーに向かう日だった。
ブラスの朝食を食べる時間もなく、トーストだけを咥えたまま走り、曲がり角に差し掛かったところで、隠しキャラのでろりんに出くわした。
何かが起きた訳ではないが、恐らくこれは所謂フラグを立てる、というやつなのだろうとダイは思った。
アカデミーにいる間、ダイが背伸びをして高所の物を取ろうとした所、バランスが崩れ、棚に並べてあった物たちがダイに向かって落ちてきた。
だが、来るはずの痛みはなく、目を開ければ、床に倒れたダイの上にヒュンケルが馬乗りになり、ダイを衝撃から庇ってくれていた。
昨日の疲れが残っていたから午後の授業はうつらうつらしてしまった。
そのせいで、授業が全て終わった後、アバン先生に呼び出された。
よければ今度の休みの日、家で個人レッスンをしましょうかと言われたけれど、忙しい先生の時間を割くわけにはいかないと、丁重に断った。
そして帰り道。
ベンガーナのデパ地下で、今リンガイア物産展をやっているから行かないかとノヴァに誘われたけど、疲れていたのでまた今度にする事にした。
そんな風に、今日はやたらと選択の多い1日だったのだ。
「なんかみんな、最近おれに構いたがるんだよね……」
──おれ、そこまで好感度上げてないと思ったのにな……。
そんな風にダイがポツリと独り言を言った時だった。
「それはそうさ。もうエンディングのフラグは立ってるんだもの」
「!」
この部屋に、ダイ以外で入れる者はブラスを除くと1人(?)しかいない。
ナビゲーターのゴメだった。
「ゴメちゃん!」
顔をぱっと明るくし、ダイはむくっと身体を起こした。
ゴメは、この世界のダイの立場を知る、唯一の友達だ。
「久しぶり!最近全然来てくれないじゃないか」
「ゴメンゴメン。あんまり口を挟みすぎても良くないかと思って」
ダイはゴメを優しい手つきで抱えると、そっと頬擦りをした。
この世界に来たばかりの頃は、ゴメもダイの前へちょこちょこと姿を見せてくれていたのだが、ダイがシステムに慣れたこのところは、こうして出てきてくれる事も少なくなっていたのだ。
「今日はダイにお知らせがあって来たんだよ」
「お知らせ?」
「そう!今夜行われる、大型アップデートのお知らせさ」
「大型あっぷでーと?」
ゴメの言葉に、ダイは首を傾げる。
「要は、システムの改良ってことさ」
「へぇ〜」
ゲームが進めやすくなるなら願ってもない事だ。
期待の目でゴメを見つめるダイに、ゴメは言った。
「ボクもまだお知らせを詳しく見ていないんだ。一緒に見ようよ」
そう言って、どこからともなく紙を取り出す。
「なになに……ユーザー各位 日頃よりこのゲームをご愛顧いただきましてありがとうございます」
──ご愛顧もなにも、一方的に飛ばされたんだけどな……。
冒頭からそんな突っ込みを抱えつつ、ダイは静かにゴメの読む内容に耳を傾ける。
「この度大型アップデートの……ああ、この辺は説明だから飛ばすね。えっとアプデ内容は……」
ゴメは視線を数行先へと走らせる。
「ダウンロードコンテンツにてダイの剣が登場!ロン・ベルクに会って、剣をゲットしよう」
「えっ⁉おれの剣⁉」
これは嬉しいお知らせだ、とダイは顔を綻ばせる。
「良かったね、ダイ!どうやらこの剣、ただの武器としてじゃなくて、便利な機能もついているみたいだよ」
「そうなのかい?」
「うん。希望のエンディング以外のルートに進もうとすると、一定の確率でルートを修正してくれる機能とか」
「すごいね!」
「もっとすごいのが、セーブ&ロード機能。万が一選択肢を間違えてエンディングに行っても、また、好きな場面からやり直せる」
「へぇー、そりゃ便利だね!」
「これはダウンロードしておかないとね!シリアルナンバーが書いてあるから、ボクが今度やっておくよ」
「よくわかんないけど、ありがとう!」
ゴメの言葉は今いち理解できなかったが、やってくれるというなら任せて問題ないだろう、と思ったダイだったが、ふと疑問が生じた。
「あれ?でもロンさんに会うってことは、また作ってもらうんだよね?おれ、オリハルコン持ってないけど……」
そう。この世界では、ダイはオリハルコンで出来た覇者の冠を所持していない。
不安そうなダイに、ゴメはウインクをしながら言った。
「大丈夫!今夜のアプデで、クローゼットと一緒に出現するってさ」
「あ……そうなんだ……」
そんなに簡単にオリハルコンが手に入っていいのだろうか、とダイは少し心配になった。
「あ、でもね……」
「なに?どうしたの?」
「作ってもらうにはゴールドがいるみたい。20000ゴールド」
「あ、今回はお金、とるんだね……ロンさん」
「ダイ……お金、あるの?」
心配そうにこちらを見るゴメの言葉に、ダイは本棚の上に置いてあった貯金箱を持ってくる。
この貯金箱は、元から部屋に置いてあったもので、青いスライムの形をしていた。
蓋をあけ、ジャラジャラとゴールドを出す。
子供にしてはかなりの額だ。
「こんなにたくさん……どうしたの⁉」
驚きに目を丸くするゴメに、ダイは苦笑しながら答える。
「父さんが……くれるんだ。会いに行くと」
「そうなの⁉でもそれにしては額が多いような……」
「だって……選択肢がそれしかないんだもん」
「……どういうこと?」
ダイは不思議そうなゴメに説明をする。
「帰り際にいつも選択肢が出るんだけどさ……。父さんお小遣い欲しいな、か、父さんと一緒に暮らしたいな、のどっちかなんだもん。一緒に暮らしたいなんていったら、好感度、どんどん上がっちゃいそうじゃない?」
「うん、それは思う……」
「だからいつもお小遣いの方にしちゃうんだ。おれ、お小遣い欲しいわけじゃないのにさ」
「そういう事だったんだ……。でも、そのお陰で、ゴールドは足りそうじゃない?」
「うん、そうだね」
お小遣いの選択肢にしておいて良かった、とダイは父に感謝した。
「でも、ゴールドが足りなかったらどうなるんだろう?やっぱり作ってもらえないのかな?」
「ええっとなになに……ゴールドがなくても入手可能ですが……」
「そうなんだ!それならそっちの方がいいのかな……?」
「身体で払う事になります、だって」
「⁉」
「どうする?ダイ」
「……ゴールド、払うよ……」
「ボクもその方がいいと思う……」
身の危険を何となく感じたダイは、ゴールドで支払う決心をした。
「そ、そういえば……セーブ&ロード機能って言ってたけど……」
気持ちを切り替えるため、ダイは話題を変えた。
「あ、うん。間違ってもやり直せるよ。良かったね!」
「それって何回でも出来るのかな?」
「特に制限は書いてないけど……あ、でも」
何かに気づいたゴメが、顔を曇らせる。
「どうしたの?」
「仕様上、ロードしてもキミの記憶は残ったままになるんだって」
「それは、仕方ないんじゃない?記憶がなくちゃ、やり直してもまたおんなじ選択肢にしちゃうかもしれないし」
「いいの?エンディングを迎えた場合、そのエンディングを覚えた状態で、戻されるって事だよ?」
「?何かマズイのかい?」
ぱちくりと目を瞬かせるダイに、ゴメは言った。
「忘れたの?エンディングでエッチな事があった場合、キミはそれを体験した状態で戻されるって事だよ?」
「……⁉それってつまり……仮に誰かとエッチなエンディングを迎えてロードした後、おれはそれを覚えた状態で、他の人とエッチをするかもしれないって事⁉」
「やっと理解したんだね」
呆れたようなゴメに対し、ダイは顔を真っ赤にして口をパクパクとさせた。
「ど、どうしよう⁉ゴメちゃん!」
「さあ?ボクに言われてもね……。……ん?」
アップデート情報に改めて目を通していたゴメが、何かに気づいた。
「ダイ!元の世界に戻れるエンディング条件が追加されました、だって!」
「えっ⁉ほんと?どんなエンディング?」
「……好感度130以上で開放されるエンディングを10以上体験する事」
「好感度130?そんな数値あるの?」
「うん、ダイには言ってなかったけどね」
そう言って、ゴメはまたどこからともなく例の攻略本を出す。
「好感度はMAXで150まであるんだ」
「じゃあ130って事はかなり高めなんだね」
「そうなんだけど……その……」
「?」
「130以上で開放されるエンディングって……全部エッチなエンディングなんだよ」
「⁉じゃあ……それを体験するって事は……」
「確実にエッチするって事だね。しかも最低10回は」
「……」
──無理!無理!無理!無理!無理だって
「却下!絶っ対やだ」
「そうだよねぇ……でもそっちの方が楽な気もするけど……」
「ダメだってば!おれ、そんな状態で元の世界に戻れないよ‼」
必死でゴメに訴えるダイ。
「うん……ダイが必死になるのも分かるんだけど」
ゴメは困った顔でダイに返す。
「もう、110ぐらいまで来ちゃってるんだよね、好感度」
「……え?」
「多分、選択肢、あと少し間違えただけで、エンディングになっちゃうと思うよ。100ぐらいからそれらしい接触があったと思うんだけど」
今日1日の出来事からも、心当たりは、正直ないとは言えなかった。
そして、ゴメが現れた際に言っていた、フラグが立っていると言う言葉に合点がいった。
──おれ、もしかしていよいよ覚悟を決めなきゃいけない⁉
呆然とするダイに、ゴメはフォローを入れる。
「あ、でも、どのみち目指してるエンディングも、好感度120ないとダメだし」
「そ、そうなの?」
「120〜130の数値が条件なんだよ」
「条件厳しすぎない⁉」
「しょうがないよ。BLだもん。何にもないエンディングなんて、みんな望んでないのさ」
「おれは望んでるよ⁉」
「そうだね。まあ、キミの目指すルートはそれだけ大変だって事がわかっただろ?」
「……うん」
──みんなって……誰なのさ……。
そんな疑問をダイは心の中で抱く。
「まあ、それはセーブ&ロード機能が追加されたから、実装されたんだと思うよ。それだけじゃないけど」
「他に何かあるの?」
ゴメは一瞬たじろぐように、目を彷徨わせたあと、ダイの質問に答える。
「キミの……身体のアプデさ」
「?おれの……身体?」
「そう。今回のアプデで、いくつか改良されるみたいだよ」
「改良って……レベルアップって事かな?」
「うーん……似たようなものだけど」
「紋章の力がアップするとか?」
「いや、それはない」
ゴメはきっぱりと否定する。
「じゃ、なにさ?あっ!もしかして身ちょ「それもない」
被るように否定をされ、シュンとするダイ。
ゴメはダイのそんな様子はスルーすると、話を続けた。
「色々変化があるみたいなんだけど……」
「……うん、何?」
「ええと改良されるのは……睫毛の長さ、唇の柔らかさ、肌のしっとり感、胸のムチムチ感……」
「……」
予想の斜め上の項目に、ダイは絶句した。
「それと……」
「まだあるの⁉」
何だかこんなやり取りを前にもしたなぁ、とダイは思う。
「あとニつあるんだけど……それは明日の朝に話すね」
「?……うん」
「それじゃあ、明日の朝、また説明があるから少し早めに起こしに来るね」
「わかったよ。おやすみ、ゴメちゃん」
「おやすみ、ダイ」
ダイに挨拶をすると、ゴメはぽふんという煙と共に消えた。
ダイは、ベッドの上に散らばったままのゴールドをまた貯金箱に戻し、元の通り本棚の上に置く。
今日は、何だかものすごく疲れた……。
アップデートもあるし、早く寝てしまおうと、ダイは明かりを消すと、ベッドに横たわる。
ダイの剣、セーブとロード機能、そしてエンディング、そして自分の身体……。
──おれ、本当に無事に戻れるのかな……。
不安な気持ちを抱きながら、ダイは眠りについた。
その夜、ダイは不思議な夢を見た。
顔はわからないが、誰かが側にいる。
自分は何故か裸で、そして側にいる誰かが、自分の下半身を弄っていた。
──な、何やってるのなんで、そんなとこ触るんだよっ
ダイの言う事など聞こえないように、その人はそのまま行為を続ける。
──あっ……!やだ……!なに……これ……こわいよ……。
ムズムズするような、ゾクゾクするような感覚がダイを襲う。
途中、ピリリとした痛みが走ったが、それも一瞬の事で、どんどんと下半身が熱くなっていく。
──あ……へん…………おれ、なんか……!
何かが弾けるような感覚の後、ダイの意識はなくなった。
「……イ!ダイ……!」
ゴメの声がして、ダイは目を開けた。
「ダイ、おはよう!」
ゴメはダイの枕元に来ると、スリスリと身体を擦りつけた。
「おはよう、ゴメちゃん」
ゴメに挨拶し、身体を起こしたダイだったが、下半身に違和感を覚え、ギクリと固まった。
「ゴ……ゴメちゃん……ちょっと向こう向いててくれる?」
「?」
不思議そうにしたゴメが、こちらを見ていない事を確認し、ダイは恐る恐る布団を捲り、寝間着のズボンを下ろす。
おねしょなどとっくのとうに卒業した筈なのに、下着が濡れていた。
「……」
ダイは羞恥心に顔を真っ赤にする。
「……ダイ?どうしたの?」
心配そうにこちらに声をかけるゴメに、ダイは泣きそうな声で返す。
「ゴメちゃん……おれ……おねしょしちゃった……」
「え?……ごめん、ダイ、そっちを向くよ」
ゴメがダイの方を向くと、ダイは膝までズボンを下ろした状態で、濡れた下着を涙目で見ていた。
ゴメは布団の方をちらりと見る。
布団は濡れていない。
──やっぱりこれは……!
そう思ったゴメは、優しくダイに話しかけた。
「安心して。ダイ。これはおねしょじゃないよ」
「え?だってパンツが……」
目を瞬かせるダイに、ゴメは説明した。
「昨日言っただろ?キミの身体、あとニつアップデートされる、って」
不安そうなダイにゴメは、丁寧にその生理現象を説明してやる。
一通りの説明を聞き終えたダイは、ようやく落ち着きを取り戻した。
「それじゃ、これはおれの身体が大人に近づいた証拠って事なんだね」
「うん、本来ならそれは喜ばしいんだけどね……」
「?」
ゴメが気まずそうに目を逸らすのを、ダイは首を傾げ見つめる。
「つまり……その……キミがエッチな目に合うことを想定して、このタイミングにしたんだと思うよ……」
「……エッチな……」
「うん、その証拠にもう一つが……」
そう言うなり、ゴメはダイの項をするりと撫で上げた。
「ひゃあんっ……♡」
思わず、口から漏れた声に、ダイはばッと口を抑える。
──なに……今の声
それに、一瞬背中を走ったゾクゾクとした感覚は……
「今のがもう一つのアプデ」
「」
「つまりね……キミの感度が上がったんだよ」
「かん、ど……?」
「身体への刺激を気持ちいいと感じるレベル、かな」
「気持っ……」
──おれの身体、とんでもないことになってない
竜魔人化した時よりもさらに恐ろしい予感が、ダイの頭を過ぎる。
「まあ、そんな訳で、これからエンディングにいきなり突入する可能性は十分にあるから、頑張ってねダイ」
ゴメは雑な応援を口にすると、昨夜同様煙と共に消えた。
「頑張って、が不穏すぎるよ、ゴメちゃん……」
はぁ、と溜め息をついたダイは、まじまじと自分の身体を見つめる。
ぺたりと胸を触るが、ムチムチ感が増えたのかは自分では分からなかった。
「……着替えよ」
そう呟き、取りあえず濡れて気持ちの悪い下着を脱ぎ、ダイは固まった。
──え⁉なんか、昨日と形違うんだけど……⁉これもまさか……アップデート⁉
ゴメは口にはしていなかったが、恐らくそうに違いない。
そうでなければ、何があったというのか。
──アップデートって……怖い……。
一瞬遠い目をしたダイは、新しいパンツを履くと、部屋の隅に出現したクローゼットを開ける。
昨日ゴメの言っていた通り、そこには輝く覇者の冠が鎮座していた。
「ほんとにあった……!ん……?」
ふと目線を上げると、そこにはダイが絶対選ばないだろうと思われるような、一般的に言う男心を擽る衣服がズラリとならんでいた。
ダイは無言でパタンとクローゼットの扉を閉める。
──大丈夫、おれは何も見ていない……!
そろそろブラスの朝食が出来上がった頃だろうかと思いながら、普段着に着替えたダイは、部屋を出て行くのだった。
続く