アティギマ柔らかくて、ふわふわとした温かい生き物がぐったりと身を預けてくる。
素肌に感じるその重たさと無防備さがたまらなく愛しい。
卵から生まれたばかりのころから一緒の相棒、大きくなったのに寝相だけは小さなころから変わらない。
寝ぼけた頭でふにふにの毛並みに手を這わす。
「……レパルダス…」
すべらかな毛並みとピンと立った耳が指をくすぐるはずが、ふわふわとした感触と骨ばった重たさに当たった。
おや、とギーマの意識が浮上する。
指先がするりとした皮膚とその下の骨に当たる。
ぱちり、ぱちりと瞬いた視界。
薄暗い、昼下がりの温かさに満ちた天井。
開け放った窓からそよぐ風にはためくカーテン、揺らいだ影が水面みたいにきらめく。
水面から顔を出したときのように息を吐いて、一呼吸。
慣れた匂い、馴染んだ体温と見慣れた天井。
分からないのは右腕が、というより全身が重い。
―キュゥ―
生まれたばかりのチョロネコが、親を呼んで甘えるときのような声。
足元に視線を飛ばせば見慣れた深い紫の毛並み。
宝石のような目がとろんとこちらを見ていた。
ずっしりと足を枕に寝そべっている。
左脚の感覚が遠い。
すぐそこの未来で悶絶する自身が見えた。
そのまま、ふわふわとした毛並みを感じる右腕に目線をやれば、ぐっすりとギーマの腕を枕にして眠りこむあほうの姿。
いや、愛しき恋人殿の寝姿。
手入れの行き届いた髪をなでると、へいぜいよく動く口がむにむにと寝言を紡いだ。
「……んむぅ…」
ギーマの目元がほろりと溶ける。
パシオのお祭り騒ぎ、チャンピオンバトルで迎え撃って、一晩中バトルして熱が冷めやらぬまま、朝焼けの中アーティのアトリエ兼住居に転がり込んだ。
熱の中をうたって踊るように、変態画家の亡霊にでもつかまったかのようにギーマは上機嫌だった。
燃えるような、ぞくぞくとする手札の切り合い。
フルスロットルで加速した思考を振り切って、全身全霊を出し切ったバトルまで上り詰めると、熱の高みから降りるのに苦労する。
そのまま、寝ぼけたアーティを相手にワルツとタンゴをごちゃまぜにしたようなダンスで振り回して抱き込んでつぶれた、と思ったのだがこれはどうなのだろう。
ギーマの身体はさっぱりとした石鹸の香りと、見たことのあるTシャツを着ていた。
しびれて感覚のない足元は何も履いていない。
垂れ下がる前髪はワックスが落ちてするりと、ギーマが首をかしげると横に滑り落ちていく。
「…律儀なやつめ」
ふわふわの髪をもう一度撫でる。
ちょっと疲れたような顔は早朝からたたき起こされて、騒ぐ恋人をなだめて風呂に入れたからだろうか。
こんなことになるのは珍しい。
締め切り前の画家とか、アイディアがまとまらない画家とか、思い立って夜中に森に突っ込もうとする画家とか奇声を上げる変態を宥めるどこかのギャンブラーの四天王というのはよくあったが、逆はさほど思いつかない。
ああ、しまったと少しの後悔とここまでちゃんと四天王の仮面をかぶって帰って来たことを褒める自分が両天秤にかかって、結局やってしまったものは仕方ないし、こいつが相手ならば問題はないと結論づく。
「レパルダス」
一声かけて、全身をねじるようにして彼女の下から脚を取り出す。
思った通り感覚がない。
よいせと画家の身体を台座にして足を乗せ、しびれた足に血を促すように撫でていく。
「うう…」
「アーティ」
足が重かったのか、横で身じろぐ気配にかさらりとした額にしわが寄る。
「アーティ、ハニー、ダーリン? 起きないのか?」
好きに読んでびりびりと痺れが走る左足で、アーティの腰を叩いてやる。