凛と一緒(9) 凛とお付き合いを始めてからそこそこの時間が経過した。今のところ、凛との仲は良好である多分。
今日もまたサッカーに打ち込むけども、学校行事を控えているため、部活動時間に制限が出た。文化祭である。
「凛とこのクラスは何すんの?」
「知らね」
「お前、自分のクラスだろ…」
「興味ねえ」
凛は相変わらずストイックで、サッカー以外のことは興味が皆無だ。潔よりも酷い。
「こっちのクラスは和服喫茶やるんだよ」
「は?和服?」
「そうそう。和服っつっても浴衣を着るんだけど」
「秋に浴衣とかイカれてんだろ」
「そんな誰しも着物持ってねえから。良かったら凛も来る?私の浴衣姿見れるよ」
からかうと無言で頭を叩かれた。直ぐ手が出るところは相変わらずだ。
勉強に部活に文化祭の準備に追われ、ようやく当日を迎えた。宣言通り、潔のクラスは和服喫茶を開いている。一難高校の文化祭は一般公開されており、外部からの出入りも自由だ。今日は蜂楽と白宝高校三人組と約束をしている。さすがに國神と千切は遠すぎるのは難しい。
その昔母が着ていた浴衣を借りてきたのだが、生憎一人で着ることができないので、茶道部の女子に手伝ってもらった。浴衣の上にエプロンを着れば和服の完成だ。髪は軽くウェーブを巻いてもらっており、薄いけれど化粧もやってもらった。サッカーしかやって来なかった潔は女子力に欠けていたのでとても助かる。手伝ってくれた女子の方が何倍も楽しそうだった。
給仕をしていると、喫茶内が騒ぎ出した。あれ凛くんじゃない?給仕の手を止めて黄色い声を上げている女子たちの視線の先を追うと、出入り口の壁に凭れた凛の背中が見えた。
「凛?」
覗き込む形で見上げると、凛が涼しい表情で潔を見た。
「本当に見に来たのか?」
「うるせえ」
すいっと直ぐに目線を逸らされるも、横目でちらりちらりと盗み見ているようで…少しだけ揶揄いたい悪戯心がわいた。
「どうよ、これ可愛いだろ?」
「調子に乗んじゃねえよ、馬鹿」
息をするように罵倒するけども、これが照れ隠しであることを潔はきちんと読み取れている。
「やっぱり見に来たかったんじゃん。少しは素直になれよ、馬鹿」
「テメエが見に来いっつったんじゃねえか」
「え~~。そこで私のせいにすんの?」
凛がまたぷいっと顔を逸らした。なんだか可愛いなっと思ってしまう。たまに凛が可愛くて仕方ない。これを言ってしまったら絶対にキレられるけど。
お~い潔―!後方から聞きなれた声に呼ばれる。振り返るとごった返した廊下の向こうに、満面の笑顔の蜂楽が手を大振りにして呼んでいた。蜂楽と一緒に、凪も玲王も斬鉄もいた。
「よっ!蜂楽、再会できて嬉しいよ!」
「その節はどうもどうも!」
ぺろっと舌を出したふざけ顔を披露する蜂楽に笑ってしまうと、凛の険悪な視線が背中に突き刺さった。
「オイ、んでこいつらが来てんだよ」
「そういう約束をしたの忘れたのかよ?」
「知るか。他校の奴らは消え失せろ」
「オイオイ嫉妬か糸師凛くんよ~?嫉妬深い男は振られるぜ?」
玲王が挑発気味に揶揄うと、凛の蟀谷に太い血管が浮かび上がった。差し置いて、浴衣姿の潔を一斉に褒めだした。
「潔、浴衣似合ってるよ~」
「さんきゅ」
「髪型変えると印象変わるんだね。そっちも俺好きかも」
「こういうのを、キューティクルっていうのか?」
「キュートの間違いだろ馬鹿斬鉄。お、化粧もしてんの?初めて見るんじゃね?」
「一人じゃできないからやってもらいました~。もうすげえのよ、まるで魔法みたい」
「初めて女装した男子高校生みたいな台詞ゲット~!」
「潔って実は化粧映えする顔立ち?磨けば輝く原石?もったいないってやつ?」
「喧嘩なら買うぞ凪。表出るか?」
「俺褒めてるつもりなんだけど…」
「でも凪の言ってること的を得てる!」
「マトヲエテルって何だ?」
「いい度胸だ、お前ら。その喧嘩全部買ってやるよ!」
ぬう、と突然凛が潔と凪らの間に割り込んだ。潔からは背中しか見えないが、発する圧から四人を睨んでいるのだろうと推測された。
「じろじろ見てんじゃねえよ。消え失せろっつってんだろ」
「凛ちゃんほんと激重」
「重たい奴ってまじ面倒くさい」
このままだと一触即発になりそうだったので、潔が改めて間に入って空気を宥めた。このままみんなで回る?と提案したところ、四人からは賛成の声が上がったが、凛は露骨に嫌な表情を露わにした。潔の両隣を蜂楽と凪がキープすると、もっと顔を歪めた。
「まあまあ。お前らの関係は秘密にしてんだろ?文化祭デートしたい気持ちも解るけどよ、その為に俺らがカバーしてんの。解る?」
「誰も頼んでねえ」
玲王が凛にしか聞こえない声量で突つくと、前方を睨みながら凛は低い声を漏らした。解りやすい奴。玲王は笑いをかみ殺した。斬鉄は各クラスの催し物に目が惹かれて忙しい。
蜂楽と話し込んでいた潔が顔だけ凛に振り返る。
「あのさ!凛のクラスに行ってもいい?」
「あ?」
「だって結局凛教えてくれなかったじゃん。気になる」
「じゃあ、凛ちゃんクラスにゴー!」
「ていうか、凛のクラスって何してんの?」
「知るかタコ。俺に訊くんじゃねえ」
「え?自分のクラスなのになんも知らないの?俺よりひどくない?」
凪がドン引いているのも珍しい。蜂楽と一緒に噴き出した。
凛の教室に来たのはいいが、潔はかちんと固まった。なんと、催し物は、お化け屋敷だった。
「行くか」
「お前切り替え速いな」
途端に凛が顔を輝かせた。その手はいつの間にか固まる潔の手を掴んでいる。
「行くぞ」
「やだ」
「行くっつってたろ」
「分かってたら最初から来なかった」
潔は生まれつきのビビりである。無論、お化け屋敷も苦手だ。凛の崇高なる趣味であるホラーゲームもホラー映画も苦手だ。凛の寮に入り浸ってホラーづくしの時間を何回も経験したけれど、悲鳴を上げたり凛にしがみついたりで苦手を克服することは不可能だった。凛はそんな潔の反応を見て楽しんでいる。
「ちょっと凛ちゃ~ん!潔怖がってるじゃん!」
「潔かわいそ~。俺と一緒に入る?俺が潔を守るよ」
「オイ」
潔を庇う蜂楽と凪に凛の血走った眼光が向かれた。
お化け屋敷の宣伝板を掲げていた女子三人組が凛を見つけて声を上げた。あ、糸師くん見つけた!糸師くんどこ行ってたの?探したんだよ!糸師くんは宣伝係だよ!自分よりも低い女子に囲まれて、凛は四面楚歌。そのまま引きずられていった。
「凛、行ってら~」
「お仕事がんばって~!」
「代わりに俺が潔とデートするから」
「糸師凛、解脱」
「それを言うなら離脱だ馬鹿斬鉄」
手を振って見送る五人に対して、凛がすさまじい眼光を飛ばす。テメエら覚えとけよ。と呪っている。さながら呪殺の眼光のよう。ホラーだけに。
お化け屋敷には凪と玲王と斬鉄が入ることになり、蜂楽と潔は留守番だ。顔を輝かせた玲王、面倒くさいと言いつつも続く凪、これ何のイベントだ?と眼鏡をかけ直しながら何もわかっていないのに付いて行く斬鉄を笑顔で見送った。
二人きりになると、蜂楽が笑顔で話しかけた。
「凛ちゃんとラブラブイチャイチャじゃん。良かったね」
「いやあ…そんなこともないかな」
相変わらず口が悪いし罵倒してくるし、突然キレてくるし、かと思ったらいきなり甘えてくるし、世間一般のお付き合いとはかなり特殊だと思う。
けど…思っていたよりも不自由じゃないのは確かで。凛の傍にいるのは心地がいいのも確か。以前のような気構えもしなくていいし、お互いに言いたいことを言えて後を引きずるようなこともないし、意外と気軽に続いている。こう考えると、以前の方がとてもじゃないが大変だった気がする。以前というのは、元彼のことだ。
「チューはもうしたの?」
「ばっいきなり何て話吹っかけてくんだよ」
遠慮のない質問にぶわっと赤面した。キスは一回目から以降、二回目は無い。
「わざわざ秘密にしなくても良くない?凛ちゃん的にはそう思ってるんじゃない?」
「チームメイトで付き合ってるって知られたら、監督が泣く」
「ふうん。凛ちゃんかわいそー」
「そう、かな…」
「だって凛ちゃんの独占欲えぐいし。潔のこと独り占めしたいってもろばれだし。凛ちゃんは秘密にするよりも公表しちゃって牽制したいんじゃない?」
「いやいや、まさか凛がそこまで考えてるとは想像つかないし」
「うわあ。凛ちゃんに同情する」
蜂楽の言葉に追及しようとするが、蜂楽の意識はすでに外に向かれていた。
「ねえねえ、あれ、ステージやってる!へえ、かっこいいじゃん!」
グラウンドの学生グループによる軽音バンドに集中が向いていた。ほんとに自由な奴。内心で呟いて、三人が出てきたらそっちに行く?と言おうとした。
言う前に口を塞がれて、強い力で引っ張られた。
潔が人込みに連れ込まれた後になって、蜂楽は潔がいなくなったことに気付いた。
「潔?」
潔は混乱していた。問答無用で引っ張る人物の顔を見ようにも、もみくちゃにされている為、それどころじゃない。下駄をはいた足が何度も縺れるが、潔を引っ張る手は気にも止めない。正面玄関に這い出てから、潔は蜂楽から引き離した人物の顔を見た。
「吉良、君…っ」
制服ではなく、暗色のパーカーを着て、フードを深くかぶって顔を隠していた吉良が、潔を見てにっこりと笑った。
「元気にしてた、潔さん?」
その笑顔を見た瞬間、背筋が凍り付いた。嫌な予感を本能で感じた。今すぐ吉良から逃げなければならないと、その笑顔を見て警告を発していた。
「吉良君…っ」
吉良は再び潔を引っ張った。問答無用の力で半ば引きずられる。こんなに強引なことなんて、一度も無かったのに。
裏口から出ると、裏庭を突き抜けて、フェンスに潔の背中を叩きつけた。
「俺、許した訳ないから。まだ別れるとも言ってないし。別れたつもりもないから」
優しい声音も怖いぐらいに低かった。恐怖が途端に込みあがってきて、身体が震えそうになる。そんな潔を、吉良は追い詰める。
「糸師凛に脅されてるんでしょ?そうじゃなかったら急に連絡寄越さなくならないよね?全部あいつのせいなんでしょ?潔さんの意志じゃないんでしょ?」
「ちょ、吉良君、近い…っ」
「今だったらまだ元に戻せるよ。ねえ、潔さん。どっちがいいか一目瞭然でしょ?」
全部許してあげる。至近距離から囁かれた声に、胸の中が冷たくなるのと熱くなるのとが両方生じた。
「潔さんは賢いから、きちんと選べるよね?」
口元だけが笑っている吉良の顔が、ぐにゃりと歪んだ。この、内臓がかき混ぜられるようなこの感覚の正体。
「気持ち悪い」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!
初めて抱いた違和感の正体は、これだった。
熱い衝動が全身に駆け巡る。それは、サッカーのピッチに立っている時の感覚に似ていた。
「ふざけんじゃねえぞ、このクソッタレ自意識過剰野郎」
衝動が潔を突き動かした。迫る吉良の胸元を両手でつかみ上げた。
「テメエなんざ二度と顔を合わせたくねえんだよ…っそのクソ薄汚ねえ面を押し付けてくんじゃねえ…っ」
潔の豹変に、吉良が硬直した。
「テメエに凛の何がわかるんだよ……凛を悪く言うな。凛は違う。凛は、ずっと俺を見てくれた」
出会った時からずっと凛は見ていた。凛を見つけたのは潔で。潔を見つけたのは凛だ。出会ってからもずっと、ずっと、ずっと、凛はずっと、潔を見ていた。
「テメエが欲しかったのは物珍しい暇つぶし相手ってことは最初から知ってたんだよ…っそんな奴に尻尾を振ってた自分が情けなくて反吐が出るお前みたいなクソ野郎なんて願い下げだ」
凍り付いていた顔がみるみる赤くなって歪んだ。あ。これやばい奴。直感したところで回避は不可能。左頬に熱と衝撃が走った。身体のバランスが崩れて立て直そうと後ろに重心を傾けた。浴衣の裾が掴まれて引きずられる。真っ赤に燃え上がった顔が潔を睨む。
「女子のくせして…女子のくせに女子のくせに偉そうに」
怒りの感情が爆発して言葉が支離滅裂だ。これが吉良の本音だったんだ…頭は冷静だ。もう一発、今度は右頬を殴られた。口の中に血が広がった。切ってしまったかも。腫れてたら嫌だな。凛がキレる。吉良だけじゃなくて潔にもキレる。凛を宥めるのは気力と根気がいるけど…でも、そういうところも好きだと思ってしまう。今やっと自覚した。自覚してるところじゃない馬鹿ていうか遅すぎ。
頭のてっぺんを鷲掴みにされてフェンスにたたきつけられた。あ、これ、首絞められるやつだと予見しているうちに本当に首を絞められた。気管が圧迫されて苦しいし痛いしもぎ取られる。
吉良の頭の向こうにボールが見えた。間違いなくボールだった。高速回転のかかったボールが吉良の後頭部に激突した。吉良が顔からフェンスに突っ込んだお陰で首の圧迫から逃れた。ふらふらと吉良を押しのけて、横に逃げる。ボールを放った人物の顔を、朧気な視覚で見た。
「お前が一番クソだから。ぶっ倒されたくなかったら失せろよ屑」
蜂楽だった。感情がそぎ落ちた表情で、吉良を冷たく睨んでいた。突然の急襲者へと吉良の矛先が変わる。罵倒しながら拳を振り上げるが、ドリブルの要領でひらりと躱し、空中に飛んで、吉良の側頭部を思いっきり蹴り上げた。まるでボールのように。体幹が崩れて倒れた吉良が、怯えたように蜂楽を見上げた。蜂楽の表情は氷のように冷たく、眼光が鋭い。
「潔の味方は凛ちゃんだけじゃねえから。俺もいる。俺の顔を忘れるなダサ男。二度と潔に近づくな」
指を伸ばして次の動作に入る準備をする蜂楽に怯えて、吉良はすっ飛んで逃げた。ほっと肺の空気を吐き出した途端にずるりと倒れかける潔に、蜂楽が顔色を変えて支えた。
「潔、ごめん、俺、遅かったっ」
「いや、いいタイミングだったよ、蜂楽」
ありがとう。蜂楽は泣き出す寸前の顔で、大きな目にはすでに涙が零れかけている。潔を支える手は震えていた。
「これじゃあ俺…潔、守れないじゃん」
「そんなことないよ。蜂楽のお陰だし、蜂楽は守ってくれたよ」
「潔……」
「蜂楽に出会えて良かったのは、私も同じだよ」
蜂楽の方が感極まったらしく、泣く寸前の顔を、むき出しになってしまった肩に押し付けた。
「俺、潔のこと、大好き」
「私も蜂楽が好きだよ」
「じゃあ俺と付き合ってくれる?」
「凛がキレて二人同時に殺すかもしれないから無理かも」
凛を殺人犯にする訳にはいかない。冗談だけど。半分本当になるかもしれない不安はあるけど。珍しい蜂楽の弱った姿と冗談に張り詰めた糸が緩まった。今になって足が震えてる。それを指差して見せると、にゃはといつもの蜂楽が戻ってきた。
「蜂楽、立つの、手伝ってくれる?」
「もしかしてその恰好のまま戻る気?」
改めて潔は自分の恰好を眺めた。裾が大きく開いてしまったせいで肌着が丸見えで、あと少しで色気の無い下着が見えてしまう。帯もぐちゃぐちゃ。その下も生足が丸見え。これは確かに酷い。
「ちょ、蜂楽見た」
「ナニモミテナイヨー」
蜂楽は明後日の方向を向いていて口笛を吹いた。
「俺じゃあどうしようもならないから凛ちゃん呼ぶねー」
「ま、待て、それは今やばい…っ」
「もしもし凛ちゃーん。潔が暴漢に巻き込まれたんだけど俺が助けたから無事なんだけど色々大変だから直ぐに来てー」
蜂楽―っ潔の叫びは虚しく響いた。二分後、役目を放棄して駆けつけた凛は、潔の状態を見て、予想通りにキレた。潔と蜂楽といなくなった暴漢に。それから後を追ってきた凪ら三人にも、見るんじゃねえとキレ散らかした。理不尽。凛が上着で潔をぐるぐる巻きにして俵のように担いだ。テメエら来んじゃねえ。呪殺の眼光で四人に命じて、そのまま潔を運んでいった。行先は保健室だ。保健室は無人だった。なので勝手に棚を漁り出した凛を、潔はじんじん痛む頬に手を当てながら眺めていた。
「おら」
「ありがと」
無愛想に差し出されたクーラーを受け取って、両頬に当てた。冷たさが沁みて痛い。
「痛えのか?」
「めちゃクソ痛え…」
てか、普通女子の顔を本気で殴る?ほんとどうしようもない男だったわ。あんなん別れて正解だった。唯一の黒歴史。消してしまいたい…っ。今になって恨みつらみが積もるけど、もう過去のことなので引きずらない。潔は切り替えが早かった。
「口の中も切れた…イテテ」
くい。突然顔を上向きにされた。凛の顔が近い。目ちか。そう思った時には、顔がもっと近くなっていて、唇を吸われていた――――凛との二回目のキス。
頭の中が真っ白になっていると、半開きの唇の間にぬめっとした物体が割り込んできた。舌だ。凛の舌。凛の舌が、口の中に。え、これどういう状況?混乱している潔の口の中から舌を引っこ抜いた凛は、赤い舌を垂らしながらぼそっと。
「血の味がする」
そりゃそうだろ切れてるんだから。てか今キスした?舌いれた?大人のキスしやがった?このタイミングで?キスって目を閉じてするもんじゃねえの?こいつガン開いてたけど?そもそも今キスする流れだった?
「無防備すぎんだよ。だから変な輩に絡まれるんだろうが。自覚しろ。俺はいつでもお前のこと抱けるから」
罵倒されてる。これこそが凛って感じがする。罵倒しない凛は凛じゃない。でもちょっと合図をくれ。合図ください。いきなりは止めて下さい。てか今何言った?お ま え の こ と だ け る か ら――――ってなにそれ日本語?
「これからは俺から離れんな。でないと、マジでお前犯すから。理解したなら返事しろ」
「はい……」
間抜けた声しか言えなかった。今日も凛は絶好調である。