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    壁打ちしてたやつ

    #忘羨
    WangXian

    マスクを外したところが見たい魏嬰魏無羨はある男に興味があった。名は藍忘機。スラリとした長身、涼しげな目元、月のような琉璃色の双眸、高い鼻筋、艶やかで癖のない黒髪。そして頭もよく、口数の少ない唇から時折ぽつりと零れる声は耳元で囁かれたらこの世の女子すべてが腰から砕け落ちるのではないか。
    魏無羨は男だから砕け落ちたりしないが。そんな藍忘機だが、出会ったときから常にマスクをつけていて魏無羨はまだ一度も彼の顔全体を見たことがない。聞くところによると、大学に入ったときからマスクをしているらしい。さらに魏無羨のコミュ力を最大限に活用して聞いたところ、高校時代もマスクをして過ごしていたとか。ここまで徹底していると何故マスクをしているのか、その下にはどんな美しい顔が隠れているのか気になって仕方がない。魏無羨の恋愛対象は異性だが、藍忘機は別格だ。男とはいえ見てみたいものは見てみたい。あとできれば友人になりたい。嫌いなタイプじゃないし。
    思い立ったが吉日。魏無羨は藍忘機のマスクについて知った日のうちに本人に「俺と友達にならないか!」と握手を求めに行った。藍忘機は差し出された手に一瞬視線を走らせただけで「必要ない」と背を向けてしまった。しかしそれくらいでめげる魏無羨ではない。その日からしつこく藍忘機にちょっかいをかけにいった。
    「なあなあ藍湛、次のコマ何選択してるんだ?」
    「藍湛聞いてくれよ。あの教授とんでもない課題出してきてさ」
    「藍湛!見て!でっかい蛙!」
    「銀杏踏んだ!臭い!おい藍湛どこ行くんだ。匂い嗅いでみろよ。すごい臭いから!」
    どれだけ無視されても追いかけてきて一人喋り続ける魏無羨に、最初は知らんぷりしていた藍忘機も、あまり無視をするのも失礼ではないかと思い、悩みに悩んで絞り出した言葉が「君は暇なのか」だった。
    「ははははは!暇じゃないよ!これでもバイト3つ掛け持ちしてるし毎日徹夜して課題してる!けどそれとこれは別だろう。俺は藍湛と仲良くなりたいんだ」
    いつ藍湛と呼ぶことを許したというのか。藍忘機が思わず眉を顰めると「あ、ごめん。怒った?でも藍忘機って呼んでも藍兄ちゃんって呼んでもお前無視するじゃん。なんなら俺のことも魏嬰でいいよ」とあっけらかんと答える。どうやら魏無羨の距離の詰め方は藍忘機には理解できないものらしい。
    「君は何故私に構う」
    「友達になろうって最初に言っただろう。友達は一緒にいるものだろ」
    「私は許可していない」
    「友達になるのに許可もクソもないだろ」
    口では魏無羨に勝てそうにない。藍忘機は最近の口癖となった「くだらない」を言おうとして、それでも何となくそう言うのは悪い気がして黙ったきりだった。



    ◇◇




    静かだ。藍忘機はあまりの静けさに居心地が悪くなる。居心地が悪い?何故。魏無羨がいない。藍忘機に話しかけてくる人間がいないから静かなのだ。藍忘機にとって一人でいることは当たり前だったはず。それなのに魏無羨がいないというだけでこんなにも落ち着かなくなるだなんて。
    藍忘機は頭を振った。気の迷いだ。むしろ清々した。どうせ寝坊か何かだろう。前に夜型の人間だとかなんとか話していた。昼になればいつものように、いつの間にか横にいて聞いてもいないことを話してくるはず。そう自分に言い聞かせるようにしながら、藍忘機は自然と横の席を空け、ノートもいつも以上に丁寧にとっていた。
    昼。まだ現れない。いつもは魏無羨から逃げるため空き教室で昼食をとっていたが初めて食堂を利用した。彼はいつも仲のいい友人たちと食堂で昼食をとっている。そうだ、仲のいい友人がいるのだから私などどうでもいいだろう。そんなことを考えながらも視線は特徴的な触角のある猫毛を探していた。いない。彼の友人たちは見つけたが、そこに魏無羨はいない。いないのだから帰ればいいものを、藍忘機の足は自然と動き出していた。
    「少しいいか」
    楽しそうに会話する魏無羨の友人たちの前まで行き、声をかける。何事かと顔を上げたうちの一人は藍忘機の顔を見て片眉を上げ、もう一人は何故か悲鳴をあげた。
    「ひえ、ら、藍忘機……さん」
    「俺たちに何の用だ」
    「魏無羨を知らないか」
    マスクをつけていると騒々しい食堂では声を張らないと相手に聞こえない。普段の藍忘機ならそれだけで会話することを諦めるが、今日は何故か多少の労力を使ってでも魏無羨の居場所を知りたかった。何故、私の横にいないのか。友人なのではなかったのか。そもそも友人だというのなら、私が逃げようと気にせずいつも共に昼食をとればいいものを。腹立たしい。その場にいない魏無羨に無性に腹が立った。初めての感情だった。
    「魏無羨は休みだぞ」
    「休み?」
    「何でも熱が出たとかで……連絡きてないんですか?」
    「…………きていない」
    そもそも来るはずがない。どれだけしつこく連絡先の交換を強請られても無視し続けたのは藍忘機なのだから。だから、何故私に連絡しないなどと思うのはお門違いなのだ。それはわかっている。それでも腹立たしい。何故私ではなく、彼らなのか。あまりの不快感に顔を歪めていると、じっと藍忘機の表情を窺っていた男が口を開いた。
    「魏兄の住所、教えましょうか?」
    「おい、何を勝手に」
    「いいじゃないですか。魏兄だって藍さんにお見舞いに来てもらえたら喜ぶと思いますよ」
    「喜ぶ。彼が……?」
    「その代わりびっくりしないでくださいね」
    奇妙な前置きをして住所を教えてくれた男に感謝を述べると、藍忘機は結局昼食もとらないまま食堂を後にした。



    ◇◇



    「ここが、魏無羨の、アパー……ト……?」
    藍忘機は愕然とした。とてもじゃないが、ここは人が住む場所ではない気がする。敷地内の雑草は生え放題。ドアが外れた部屋がいくつか。建物自体歪んでいて、今にも崩れ落ちそうだ。もしかして藍忘機はからかわれたのだろうか。魏無羨は熱など出ておらずいつも素っ気ない藍忘機への腹いせとして友人たちと手を組んで藍忘機を騙したのかもしれない。そうだ、魏無羨が風邪をひいたからどうだというのだ。馬鹿馬鹿しい。帰ろう、とおんぼろアパートに背を向けると一羽の鴉が藍忘機の前を横切った。何となくそれを追って振り返ると「魏」の表札が見えた。
    「魏無羨……?」
    恐る恐る玄関の扉を開ける。辛うじてインターホンらしきものを見つけたので押してみると何故か二つ隣の部屋から音が聞こえた。どういう仕組みになっているんだここは。仕方なしにノックをしてみたが返事はない。どうすべきか悩んでいると中から物音がした。もしかすると具合が悪くて動けないのかもしれない。そう判断して扉を開けると、意外と中は整理整頓されていて綺麗だった。逆に言えば綺麗すぎた。あまりにも生活感がない。想像していた通り部屋の間取りは狭く、入ってすぐに布団の中で眠る魏無羨の姿が見えた。その顔は赤い。傍には飲み差しのスポーツドリンクがあった。
    布団と洋服と教科書。目立ったものはそれくらいで、あまりにも生活感のない、まるで寝に戻ってきていますとでもいうかのような部屋だった。常に人に囲まれて笑っている魏無羨とはあまりにもかけ離れた部屋の姿に藍忘機は言葉をなくす。そういえば彼はバイトを掛け持ちしていると言っていた。
    もしかしなくても本当にお金がなくて、無茶な生活を送っているのでは。今回の熱もそんな無茶が祟ったのでは。そう考えると何とかしなくてはという焦りが生まれて、藍忘機は小さく「冷蔵庫を開けさせてもらう」と眠る魏無羨に許可をとってからその扉を開けた。何も入っていなかった。
    素早く台所に目を走らせるが、使っている形跡がない。藍忘機は思わず天を仰いだ。身長の割には細い男だと思っていたが、もしやまともに食べていないのでは。昼食時、藍忘機から離れていたのは食事を買うお金がなかっただけなのでは。藍忘機はちらりと眠る魏無羨を見て、決心した。



    ◇◇



    魏無羨は聞き慣れない優しい音と、人の気配、そして最近好きだなあと密かに思っている微かな白檀の香りに目を覚ました。
    「……起きたか」
    「ん、んん……?あれえ、藍湛……?」
    「うん」
    「はは、これはいい夢だ。まさか藍湛が出てくるなんて」
    「夢ではない」
    「藍湛、その手に持っているのは何?」
    「粥」
    「まさか俺のために作ってくれたのか?今日の夢は大盤振る舞いだ」
    「…………まだ熱があるようだ」
    藍忘機はいつまで経ってもポヤポヤとしたままの魏無羨の額に手を当てると己の額と体温を比べ出した。
    「ああ、藍湛の手はひんやりしていて気持ちいいなあ。まるで本物みたいだ」
    「本物だ」
    「…………やばい、本物だった」
    藍忘機が魏無羨の鼻を摘んだことでようやく覚醒したらしい。魏無羨はゆっくり起き上がると無遠慮に藍忘機の頬に手をぺたぺたと当てた。といっても藍忘機は小顔なのでほぼマスクに触れていたようなものだったが。
    「藍湛。お前なんでここにいるんだ?」
    「君が熱を出したと聞いた」
    「だからって……まさか看病しに来てくれたのか?」
    「うん」
    「待て、藍湛。もしかしなくてもその手にあるのは粥か?俺に作ってくれたのか?」
    「そうだ」
    先程と同じ問答を繰り返した魏無羨は、ぱっと表情を明るくさせると嬉しそうに藍忘機に擦り寄った。
    「ねえねえ藍兄ちゃん。風邪で弱ってる可哀想な羨羨にその粥を食べさせてよ」
    「…………うん」
    藍忘機は逡巡したあとレンゲで湯気を立たせる粥を掬うと魏無羨の口元に差し出した。
    「あつっ」
    しかし熱すぎたらしい。魏無羨は小さく舌を出すと涙目になりながら口を離した。
    「すまない熱すぎたか」
    藍忘機は慌ててレンゲを己の口元に近づけると息を吹きかけようとして、はたと止まった。粥を冷ますにはマスクを取らねばならない。藍忘機は知っている。魏無羨は藍忘機のマスクの下が見たいがために近づいてきたのだと。直接「マスクをとったらものすごい美人ちゃんなんだろうなあ」と言ってきたこともある。もしも、ここでマスクをとってしまって、そして藍忘機の素顔を見た魏無羨が満足してしまったら?魏無羨好みの顔ではなくて「そんなもんか」と飽きられてしまったら?誰とでもすぐに仲良くなれて、藍忘機と過ごす必要性の無くなった魏無羨はもう二度と話しかけてくれなくなるかもしれない。
    そう思うと、今ここでマスクを外すことがとても惜しいような気がした。魏無羨をこのまま独占するにはマスクを外してはいけない。そこまで考えて藍忘機は己の浅ましさに情けなくなった。マスクをとろうととるまいと、今まで藍忘機がしてきた仕打ちを考えれば、そう遠くない未来に魏無羨は離れていくだろう。どうせ同じ結末なら、少しでも魏無羨の役に立ちたい。それが藍忘機が友人としてできる唯一のことなのだ。藍忘機は魏無羨から顔を背けることもせず、自然な動きでマスクを外すと落ちてくる髪を耳にかけながらそっと粥に息を吹きかけた。ふーっふーっと息を吹く度、レンゲから白い湯気が揺れては消える。正面から魏無羨の視線を感じて、レンゲを持つ手が僅かに震えた。耳が熱い。顔を上げるのが怖い。魏無羨の顔を見るのが怖い。落胆していないだろうか。粥がほどよく冷めたのを感じて、藍忘機は恐る恐る顔を上げる。そこには先程よりも顔を真っ赤に染めて、潤んだ瞳で藍忘機をじっと見つめる男の顔があった。湿った唇がぱっと小さな音を立てて開いた。
    「藍湛、お前、すごくきれいなんだな」
    恋に落ちる音とレンゲが落ちる音が重なった。
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