寒がり「セナ~」
「だ~め」
「セ~~ナ~~」
「だめったら駄目! フィレンツェにこたつなんて置けるわけないでしょ~!?」
このやりとりを三日おきくらいにしている。そろそろ勘弁して欲しい。このアパートは自分たちで暖房の管理ができるわけではなく、管理人の手によって自動的について自動的に消される。暖房がついている間は廊下までポカポカしていて、れおくんが例え床に寝転がって作曲していたとしても、なんら寒くない。しかし、管理人が怠けた日の朝は、正直俺でも寒くて布団から出たくないくらいなので気持ちはわかる。その上暖房は一日中ついているわけでもないのだ。そもそもイタリアは電気代が高くてファンヒーターの導入も少し渋っているくらいなのに、こたつなんて導入した日には光熱費だけで俺の財布はパンクしてしまいそうだ。れおくんに言ったら多分お金なんてどうとでもなるんだろうけれど、俺のプライドが許さないのだ。
「いい? ここは日本なの。イタリアの空気にこたつなんて合うわけがないでしょ~! だからなし!」
「そうは言うけど家の中が寒すぎてもう無理! よってはおれはセナで暖を取ることにします! お邪魔しま~す」
「お邪魔しま~すじゃないわこのアホ!」
俺の膝の上に乗りあがってきたと思ったら、ぴったりと寸分の隙間も空けずに、ぎゅうっとれおくんは抱きついてきた。首元に埋まったオレンジ色の頭。バランスを取るために仕方なく俺も抱き返してあげる。外気と同じくらいに冷たくなった衣服。少しだけ震えている身体。れおくん寒さに弱いもんねぇ。
「あぁ! もう! 脇の下に手入れないでよねぇ! 冷たい!」
「だって指先が凍えるんだもん~。暖房がつくまであと何時間くらいかかるんだよセナ~!」
「……二時間くらいかなぁ……? まさか二時間もこうしてるわけじゃないよねぇ!?」
「ひとまず指先が温まるまでこうしてて! ちょっとしたらペンが持てる! そうすれば今日のセナは柑橘系の香り。の曲ができるから~!」
「その題名はやめてよねぇ……」
ふんふふ~ん♪ と鼻歌を奏でながらおでこをぐりぐりとしてくる。しばらくすると、急に顔をあげたと思ったらパッとれおくんは離れていって、テーブルに向かいガリガリとペンを走らせ出した。そ。もう暖房代わりは用無しってわけね。まぁ? 別にぃ? いいけどねぇ?
急に胸元が寒くなって、空気の冷たさを感じる。もうちょっとあのままでも良かったかな、なんて思いながら俺も夕飯の用意に取り掛かった。
俺を暖房代わりに使うのは解せないけれど、夜は湯たんぽ代わりと言って俺の布団に入ってくるし、日中もよく引っ付いてくる。じんわり熱を分け合うあの時間は、案外悪くない。
れおくんの寒がりな特性も、まぁ……たまには役に立つんじゃない?