ワンドロお題「誕生日」長く徒歩旅をしていると、日にちの感覚が怪しくなる。街に入って日付を確認して今日はこの日だったかということは、よくある。
だから宿のカレンダーを見てラーハルトがおっという反応をするのも、そこまで不思議はない。
「俺の誕生日だったか」
「は?」
目を丸くしたヒュンケルにラーハルトもビックリしたようで、無意識に出た独り言だったようだ。
「それは祝わないといけないのでは?」
「…お前にその習慣があったのか?」
「父さんが俺を拾った日が誕生日ということになっている。皆が色んなプレゼントをくれて歌ってくれて嬉しかったものだ」
蕩けるような笑顔でそう語ったヒュンケルだったが、ふっとその表情が曇る。
「まあ…よく考えたらそれは略奪品だったんだが…」
オウ。
思わず絶句してしまったラーハルトである。
「すまない、お前の誕生日にこんな話題を」
ほんまそれな
思わずベンガーナ語調が出てくるのを必死に抑え…ふと疑問に思う。
「お前のその価値観はどこで植え付けられた?」
「え」
「子供が誕生日に貰ったものだ、貰った子供に落ち度はなかろう。…そしてその子供が出どころを気にするとは思わんのだが」
あいつら、子供まで手にかけていたみたいだ、玩具がいっぱいあった
地底魔城でアバンに拾われ、保護される過程で大歓声を上げる兵士たちの何気ない一言がフラッシュバックする。
吐く、まではいかなくても、それに近い感覚がせり上がり目の前が暗くなりー
「大方、勇者にくっついてた兵士あたりにでも言われたんだろうが…辛かったな、それは」
その言葉に顔を上げた。
発言の主はちょっと目を逸らしている。
「俺も散々悪魔の子売女の子言われていたから、多分気持ちが解るといってもおこがましくないと思う。大好きなものを正義面の奴らに否定されるのは、あれはキツい」
ラーハルトのそれは狭い村内であり、その分陰湿であった。
ヒュンケルのそれは世界規模であり、邪悪の一言で片づけられる家族たちを、復讐のために黙認した自責もある。
いくつかの事象や規模は違えども、本質的には同じ経験をしているのだ。
「俺は…辛かったと…思っていいのか…」
ラーハルトはそれには答えず、ただ頭を抱いてやった。
「誕生日なのに鎮魂なのもどうかと思うが、お前が『生まれた』ことに感謝するわけだからいいか」
「いや今日はお前の誕生日だろうが」
ツッコミができるくらいには回復したらしい。
「俺としてはお前が横にいてくれたらそれだけでいい」
知れば知るほど抱えた孤独が共鳴するのだからラーハルトとしては心底本気でこれ以上ない贅沢だと思っているのだが、言われた方はヤレヤレ顔で返している。
「冗談はともかく、俺もお前が生まれてくれてよかったよ」
そう笑顔で返すヒュンケルは、これは一晩説教が必要だな…とラーハルトが物騒な決意をしていたことなど知らないのであった。