Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    narehate42

    @narehate42

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 49

    narehate42

    ☆quiet follow

    ワンライ/音
    付き合って長いふたり

    #曦澄

    月夜に泳ぐワンライ/音
     雲夢江氏の子弟には三種類ある。
     ひとつは家がないもの。ひとつは近場に家があるもの。ひとつは遠隔地から来たものである。
     夜が来て宗主が私邸に引っ込めば、そこから先はわずかな自由時間だ。修練が厳しい分、休息は決まった時間をしっかり取るように決められている。とはいえ少しは羽目をはずすものも出る。
     たいていの場合は騒いで気張らしをしたい者たちだ。
     そういうとき、潤滑油として荷風酒はぴったりだった。

     江澄は酒杯を手に、行儀悪く私邸の円窓から半分身を乗り出すようにして座っている。遠くから喧噪が聞こえてきていた。
     騒動を起こしたり、明日に影響を出したりしないかぎりはとやかく言う気もない。自分自身、いくらか身に覚えがあるからだ。
     しばらく月を肴に手酌でやっていたが、ふと杯を置いて立ち上がる。
     足音を殺して部屋を出た。
     そこで、ここにいないはずの人間と鉢合わせる。
     思わず声を上げそうになった相手の口をすばやくふさいだ。
    「静かに。中に入れ」
     コクコクうなずいた相手の口元から手を離し、室内へ誘導する。

     月を見るためには周囲が暗いほうが都合がいい。ずっと真っ暗なままにしていた部屋にようやく明かりを灯す。揺らぐ蝋燭の炎に照らされて、藍曦臣は常の色白よりどことなく血色がよく見える。
    「気づかれないようにこっそり入れてもらったのに」
     どうしてわかったのかと子供のようなことをして、子供のようなことを言う。
     おおかた江澄の背後にこっそり近づいて驚かせるつもりだったに違いない。
     だがあいにく、藍氏には勝らずとも耳は良い。
    「音が聞こえたからな」
     ほんの一瞬、ほんのかすかに、なにかが聞こえたような気がした。
     考えたが、おそらく衣ずれの音だ。
     なにしろ藍家の校服と来たら布地の量が多いからよくひるがえる。
    「そうか……次は羽織くらいは脱いでおこうかな」
    「いっそ縛ってみたらどうだ」
    「それもいいかもしれない」
    「おい、さすがに冗談だぞ」
    「ふふ、私も冗談だよ」
    「あのな」
     そもそも躲貓貓で藍曦臣が江澄に敵うわけがない。なにしろ敵は子供のころ一度も躲貓貓で遊んだことがなく、対して江澄は何度鬼の役になったことか。子供の隠れる場所などというのはおおかた決まっているものだ。
     それから江澄はじろっと藍曦臣の目を睨む。
    「来るとは言っていなかった」
    「近くまで来たので」
     藍曦臣はにっこり笑って、一歩距離を詰めてくる。
    「それとも、会いたいと思っていたのは私だけ?」
     それでムッと唇を捻った。
     躲貓貓では勝ち放題に勝てるが、それ以外ではこの男に勝てたためしがない。なぜって、惚れたほうが負けというだろう。
    「わかっているくせに言わせる気か」
    「こんな機会はなかなかないから」
     確かに音に出して好きだのなんだのみたいなことはそうそう言わないし、さっきまで飲んでいたせいでちょっとは気が大きくなっているのも本当だが。
     気が大きくなっているので、せっかく来たならこの男を肴に飲み直すかと思った。
     江澄はこの恋人の顔ならいつまででも眺めていられる。
    「そうだな、もう少し飲んだら口がなめらかになってうっかり滑るかもな」

     もちろん、惚れたほうが負けなのである。
     酒杯を手にしていつになく上機嫌な恋人がたびたび目の中をじっと覗き込んできては、「あなたの目の中に月があるな」などと言う。
     窓辺に腰かけ月明かりを浴びる恋人の姿こそ美しい。
     一緒に酒が飲めたらと思ったが、なんでも自分の酒癖は相当悪いらしい。一度だけ恋人の前で飲んだことがあるが、以来二度と人前で飲むなとまで言われている。非常に残念だ。
    「ねえ、そろそろ口はなめらかになった?」
    「ん? さあ、どうだろうな」
     待ちきれなくて問いかけた藍曦臣に恋人が笑いかける。
     それから唇が重ねられて。
     それから、藍氏の耳でもなければ聞き取れないようなほんのかすかな声音で。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏☺💙💜💖💕👍💞💞💞☺💖👏👏💙💜💞💞💒💖💖💖☺☺💜💙☺☺☺☺💙💜☺☺☺❤😍💙💜💙💜😍☺💞💙💜💙💜💞💘💜💞☺☺☺💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    takami180

    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

    takami180

    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437